第二十九話 まだ、同期
# 第二十九話 まだ、同期
駅前の風は、少し冷たかった。
でも。
隣にいるかずまの体温だけは、ちゃんと近くに感じる。
にちかはまだ、夢みたいな気持ちだった。
好きって言った。
ちゃんと、言えた。
逃げずに。
「……落ち着いた?」
かずまが小さく笑う。
「……少し」
「少しかよ」
困ったみたいに笑う顔が、いつも通りで。
それだけで少し安心する。
沈黙が落ちる。
でも、前みたいな苦しい沈黙じゃなかった。
ちゃんと、気持ちは伝わった。
それだけで、世界が少し変わった気がする。
すると。
「で?」
かずまが不意に言った。
「……え?」
「俺ら、今どういう状態?」
心臓が跳ねる。
そうだ。
告白した。
でも。
ちゃんと、その先を言っていない。
にちかは視線を泳がせた。
付き合う。
その言葉を想像した瞬間、また緊張が込み上げる。
すると、かずまが吹き出した。
「なんでまた固まるんだよ」
「……だって」
「だって?」
にちかは小さく息を吸う。
逃げたくない。
もう、ちゃんと返したい。
「……付き合いたい、です」
声は小さかった。
でも。
ちゃんと届くように言った。
かずまは数秒黙ったあと、急に顔を覆った。
「……やば」
「え」
「今の破壊力やばい」
耳まで赤くなっている。
そんな顔、初めて見た。
「俺、どんだけ待ったと思ってんの」
笑いながら言う。
でも。
その声は少し震えていた。
かずまは深呼吸みたいに息を吐いて、それから真っ直ぐに言った。
「俺も、付き合いたい」
その瞬間。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
嬉しい。
苦しいくらい。
「……はい」
やっとそれだけ返すと、かずまが小さく笑った。
「まだ敬語抜けないんだ」
「……すぐは無理です」
「まあ、にちからしいか」
その言い方が優しくて、また泣きそうになる。
駅のアナウンスが聞こえる。
そろそろ帰らないといけない時間だった。
でも。
別れたくない。
そんなこと、前よりずっと強く思う。
すると。
「にちか」
かずまが名前を呼ぶ。
「まだ、会社では同期のままでいよっか」
少しだけ真面目な声だった。
にちかは目を瞬かせる。
「……嫌じゃないんですか」
「嫌じゃないよ」
かずまは笑った。
「だって、二人の時はちゃんと恋人なんだろ?」
その言葉だけで、心臓がまたうるさくなる。
かずまはそんなにちかを見て、少し意地悪そうに笑った。
「今度は、逃げんなよ」
その声に。
にちかは、小さく頷いた。




