第二十八話 好きなら、言ってよ。
# 第二十八話 好きなら、言ってよ。
涙が止まらなかった。
こんなふうに泣くつもりじゃなかったのに。
かずまの前で。
しかも、告白したあとに。
「……泣きすぎ」
かずまが困ったみたいに笑う。
その声が優しくて、余計に涙が出る。
にちかは慌てて目元を押さえた。
「……すみません」
「ほら、また謝る」
少し呆れたみたいに言う。
でも。
その声音は、ちゃんと柔らかかった。
夜の駅前。
人通りは多いのに、不思議と周りの音が遠い。
にちかはうまく顔を上げられなかった。
怖かった。
告白した。
ちゃんと好きだと言った。
でも。
かずまは、“嬉しい”とは言った。
それだけだ。
それ以上は、まだ何も。
「……かずま」
震える声で名前を呼ぶ。
「ん?」
「俺……遅かったですよね」
胸が痛い。
もっと早く言えていたら。
もっとちゃんと返せていたら。
こんなふうに苦しませなかったかもしれない。
すると。
かずまが、小さく息を吐いた。
「うん。まあ、遅かった」
正直な声だった。
でも。
その言葉を、ちゃんと聞きたかった。
「俺さ」
かずまが少しだけ視線を落とす。
「何回も諦めようとした」
胸が締め付けられる。
「にちか、嬉しそうなのに逃げるし」
「人前だと距離置くし」
「俺ばっか好きみたいで、結構きつかった」
一つ一つが、痛かった。
全部、本当だから。
にちかは俯いたまま、小さく唇を噛む。
「……ごめんなさい」
すると。
かずまが少しだけ笑った。
「だからさ」
夜風が、静かに二人の間を抜ける。
「好きなら、言ってよ」
その言葉に。
にちかの胸が、ぎゅっと締め付けられた。
タイトルみたいなその一言が、まっすぐ心へ落ちてくる。
「俺、エスパーじゃないんだから」
困ったみたいに笑う。
でも。
その目は、少し赤かった。
にちかは、ゆっくり顔を上げた。
かずまがちゃんとこちらを見ている。
逃げない目だった。
だから。
今度は、自分も逃げたくなかった。
「……好きです」
涙で声が震える。
「ずっと、好きでした」
「かずまが他の人と話してるの嫌だったし」
「帰る時、一緒じゃないと寂しかったし」
「LINE来るだけで、ずっと嬉しくて」
止まらなかった。
今まで言えなかった言葉が、全部溢れてくる。
「でも怖くて……」
「嫌われるの、怖くて」
「変わるの、怖くて」
声が掠れる。
すると。
かずまが、少しだけ近づいた。
「うん」
優しい声。
「知ってた」
その一言で、また涙が溢れそうになる。
かずまは小さく笑った。
「にちか、不器用すぎ」
その言葉が、どうしようもなく愛しかった。




