第二十七話 終わらないで
# 第二十七話 終わらないで
赤信号の光が、濡れた道路へ滲んでいた。
かずまの言葉が、ずっと胸に残っている。
“もう待つだけなの、ちょっと疲れた”
当然だ。
疲れさせたのは、自分だ。
好きだと伝えてくれて。
待ってくれて。
何度も手を伸ばしてくれていたのに。
自分はずっと、怖いを理由に逃げ続けていた。
信号が青になる。
二人はまた歩き出した。
でも。
このまま駅へ着いたら。
また何も言えず終わる気がした。
「……かずま」
声が震える。
かずまが少しだけこちらを見る。
「ん?」
にちかは唇を噛んだ。
怖い。
でも。
もう嫌だった。
何も言えなくて後悔するのが。
離れていく背中を、見送るだけなのが。
「……東京、行かないでほしいです」
やっと出た声は、小さかった。
でも。
ちゃんと、本音だった。
かずまが足を止める。
にちかも立ち止まった。
夜風が少し冷たい。
かずまは数秒黙ったあと、静かに聞いた。
「それって、どういう意味?」
逃げられない。
優しく聞いてくれている。
でも、誤魔化させない声だった。
にちかの胸が苦しくなる。
言わなきゃ。
ちゃんと。
今度こそ。
「……いなくなるの、嫌です」
「うん」
「隣にいないの、嫌で」
かずまは何も言わない。
待っている。
ちゃんと、自分の言葉を。
にちかは、震える指を握りしめた。
「俺……」
喉が痛い。
怖い。
でも。
失う方が、もっと怖かった。
「……かずまのこと、好きです」
言った瞬間。
世界が静かになった気がした。
逃げたくなる。
でも。
もう目を逸らしたくなくて、にちかは必死にかずまを見た。
かずまは、少しだけ目を見開いていた。
それから。
困ったみたいに、小さく笑う。
「……遅い」
胸が、強く痛む。
でも。
かずまの声は、優しかった。
「俺、どんだけ待ったと思ってんの」
涙が滲む。
にちかは唇を噛みながら、小さく俯いた。
「……ごめんなさい」
すると。
かずまが、少しだけ近づく。
「でも」
低い声。
優しい声。
「ちゃんと言ってくれて、嬉しい」
その瞬間。
にちかの目から、涙が零れた。




