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好きなら、言ってよ。  作者: ともり。


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第二十話 名前を呼ぶ

# 第二十話 名前を呼ぶ


次の日。


朝から、にちかは落ち着かなかった。


昨日のLINE。


【ならよかった】


たった一言。


でも、そこから会話は続かなかった。


前なら。


『今日も眠い』


『昼なに食う?』


そんなやり取りが自然に続いていたのに。


今は、必要最低限だけ。


その距離が苦しい。


 


「おはようございます」


フロアへ入る。


かずまは、もう席にいた。


でも。


前みたいに「おはよ、にちか」と笑わない。


軽く会釈するだけ。


胸が痛む。


自分がそうさせたのに。


 


午前中。


業務中も、ほとんど会話はなかった。


必要な確認だけ。


隣の席なのに、遠い。


こんなに近くにいるのに。


 


昼休み。


かずまは立ち上がりながら、別部署の社員へ声をかけた。


「飯行きます?」


「あ、行く行く!」


笑い声。


その輪へ、かずまが自然に入っていく。


にちかは席に座ったまま、その背中を見ていた。


行かないで。


そう思った瞬間。


自分でも驚くくらい自然に、声が出た。


「……かずま」


フロアが、一瞬静かになる。


かずまが振り返いた。


周囲も少し驚いた顔をしている。


にちかは、自分が“名前”で呼んだことに気づいて、息が止まりそうになった。


今まで、会社で名前なんて呼べなかったのに。


かずまの目が、少しだけ見開かれる。


「……え」


にちかは喉が乾くのを感じながら、小さく言った。


「……昼、行きませんか」


沈黙。


数秒。


でも、にちかには永遠みたいに長かった。


すると。


かずまが小さく笑う。


その笑顔が、久しぶりで。


胸が熱くなる。


「……行く」


別部署の人たちへ「ごめん、また今度」と軽く手を振り、かずまはこちらへ戻ってきた。


周囲が少しざわついている。


「え、今名前呼んだ?」


「初めて聞いたんだけど」


そんな声が聞こえる。


にちかは顔が熱くてたまらなかった。


でも。


かずまは隣へ来ると、小さな声で言った。


「それ、ずるい」


「……え」


「今さら名前呼ぶの」


困ったみたいに笑う。


でも。


その目は、少しだけ嬉しそうだった。


その表情を見た瞬間。


にちかの胸が、苦しいくらい締め付けられた。


やっぱり。


この人が好きだ。


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