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好きなら、言ってよ。  作者: ともり。


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第十九話 戻れない

# 第十九話 戻れない


「……どうした?」


かずまが、少し不思議そうにこちらを見る。


フロアには、まだ数人社員が残っていた。


その視線が怖くて。


にちかは反射的に口を閉じる。


言いたいことは、たくさんある。


帰らないで。


一緒に帰りたい。


最近、遠い。


寂しい。


でも。


どれも言えない。


「……なんでもないです」


結局、また逃げた。


かずまの目が、一瞬だけ揺れる。


期待して。


諦めたみたいに。


「そっか」


小さく笑う。


その笑顔が、胸に刺さる。


「じゃ、お疲れ」


かずまはそれ以上何も言わず、今度こそ帰っていった。


 


残されたフロア。


にちかはその場で動けなかった。


何やってるんだろ。


今、止められたかもしれないのに。


今なら、まだ間に合ったかもしれないのに。


怖くなって。


また何も言えなかった。


 


帰り道。


一人で歩く夜道が、妙に静かだった。


前は当たり前みたいに隣にいた。


コンビニ寄ったり。


どうでもいい話したり。


「今日の会議長すぎ」とか。


「腹減った」とか。


そんな小さい時間が、いつの間にか特別になっていた。


失うまで、ちゃんと気づけなかった。


 


帰宅後。


にちかはベッドへ座ったまま、スマホを見つめていた。


かずまとのLINE。


最後のやり取りは、昨日の業務連絡。


味気ない。


前はもっと続いていたのに。


指が震える。


送りたい。


でも、何を?


【今日はごめんなさい】


違う。


【一緒に帰りたかったです】


重い。


【最近、避けないでください】


そんな資格ない。


打っては消して。


打っては消して。


気づけば、一時間以上経っていた。


「……最悪」


小さく呟いた、その時。


スマホが震える。


心臓が跳ねる。


画面を見る。


【ちゃんと帰れた?】


かずま。


いつも通りみたいなメッセージ。


でも。


その優しさが、今日は少し苦しかった。


にちかは、画面を見つめたまま動けない。


こんなに優しいのに。


どうして自分は、ちゃんと返せないんだろう。


数分悩んだ末。


【帰れました】


送信。


既読がつく。


そして。


【ならよかった】


たったそれだけ。


それだけなのに。


にちかは、どうしようもなく泣きたくなった。


もう。


前みたいには戻れない気がした。


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