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好きなら、言ってよ。  作者: ともり。


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# 第一話 隣の席

# 第一話 隣の席


配属先のフロアは、思っていたより静かだった。


キーボードの音。

電話の声。

コピー機の機械音。


その全部に、にちかは少しだけ緊張していた。


「ここが今日から君たちの席ね」


先輩社員に案内され、にちかは自分のデスクを見る。


その瞬間。


「うわ、マジ?」


後ろから聞き覚えのある声がした。


振り返る。


「隣じゃん」


かずまだった。


にちかの席のすぐ横。


かずまは嬉しそうに笑っている。


「よろしくな、同期」


その笑顔を見ただけで、少し安心してしまう自分がいた。


 


午前中は、業務説明だけで終わった。


覚えることが多すぎる。


メモを取るだけで精一杯だった。


「にちか、めっちゃ真面目だな」


昼前、かずまが小声で言う。


「普通です」


「いや、絶対俺よりちゃんとしてる」


かずまのメモ帳は、ほとんど白紙だった。


「……書かないんですか」


「聞けばなんとかなる派」


「なんとかなりませんよ」


「冷た」


笑いながら言う。


その軽いやり取りが、不思議と心地よかった。


 


昼休み。


今日はかずまの方から当然みたいに隣へ来た。


「にちか、飯行こ」


断る理由なんてなかった。


社員食堂へ向かう途中も、かずまはずっと話していた。


「いや〜、電話苦手なんだよな」


「噛みそう」


「にちかはできそう」


「無理です」


「えー? なんか落ち着いてるじゃん」


そんなことない。


本当は、ずっと緊張してる。


でも、それを言うのも変な気がして、にちかは黙った。


 


食堂は昼時で混んでいた。


空いている席を探していると、かずまが小さく「あ」と声を漏らす。


「相席しか空いてないな」


四人席。


向かいには、別部署らしい社員が二人座っていた。


「……別の場所探しますか」


にちかが言うと、かずまは少しだけ不満そうな顔をした。


「え、なんで?」


「いや……」


うまく説明できない。


知らない人がいると、急に距離感がわからなくなる。


二人きりの時みたいに話せない。


かずまは数秒だけにちかを見たあと、


「まあ、じゃあ外行く?」


と自然に言った。


「……いいんですか」


「いいよ。同期置いて飯食うほど腹減ってないし」


また、そういうことを言う。


特別みたいに聞こえるからやめてほしい。


でも。


嬉しいと思ってしまう自分が、一番困る。


会社近くのコンビニでパンを買って、二人で外階段へ座る。


風が少し冷たい。


「なんか、こっちの方が落ち着くな」


かずまが缶コーヒーを開けながら言った。


「……そうですね」


「にちか、人いると急に壁できるよな」


心臓が跳ねる。


そんなにわかりやすいだろうか。


「別に……」


「俺、嫌われてんのかと思った」


「違います!」


思わず強く返してしまう。


かずまが目を丸くした。


「あ、ごめん。冗談」


「……嫌ってないです」


声が小さくなる。


かずまは少しだけ笑って、


「ならよかった」


と呟いた。


その顔を見た瞬間。


にちかは、たぶんもう戻れないと思った。


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