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好きなら、言ってよ。  作者: ともり。


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エピソード0 同期になった日

# エピソード0 同期になった日


「本日から皆さんには、それぞれの部署へ配属となります」


会議室に響く人事担当の声を、にちかはぼんやり聞いていた。


緊張で、朝から胃が痛い。


周りでは、すでに何人かが笑いながら話している。


すごいな、と思う。


初日からあんなふうに話せるのか。


にちかは昔から、人と距離を縮めるのが苦手だった。


話しかけられれば答えられる。


でも、自分から行くのは怖い。


嫌われたらどうしよう。


変なやつだと思われたらどうしよう。


そんなことばかり考えてしまう。


「じゃ、移動しまーす」


研修担当の声で、社員たちが立ち上がる。


にちかも慌てて資料を抱えた、その時。


「あ」


隣の男が、床にファイルをぶちまけた。


「あー、最悪」


紙が散らばる。


周囲が少しだけ振り返った。


でも誰も動かない。


にちかは反射的にしゃがみ込む。


「……どうぞ」


紙を拾って渡すと、男がぱっと笑った。


「ありがと。助かった」


人懐っこい笑顔だった。


その笑顔に、にちかは少しだけ戸惑う。


「あ、俺かずま。同期だよね?」


「……にちかです」


「よろしく、にちか」


名前を呼ばれただけなのに、妙に胸がざわついた。


 


その日の昼休み。


にちかは社員食堂の隅の席で、一人で弁当を開いていた。


周囲はもうグループができ始めている。


笑い声が遠く感じた。


やっぱり、自分はこうなんだな。


少しだけ落ち込みながら卵焼きを口に入れた、その時。


「いた」


顔を上げる。


朝の男――かずまだった。


「隣いい?」


断る理由もなく、にちかは小さく頷く。


かずまは当然みたいに隣へ座った。


「にちか、一人だったんだ」


「……まあ」


「俺も」


そう言いながら、かずまはカレーを机に置く。


「なんかさ、みんなコミュ力高すぎない?」


突然そんなことを言われて、にちかは少しだけ目を瞬かせた。


「……わかります」


「だよな!? 安心した〜」


かずまは大げさに笑った。


その顔を見ていると、不思議と緊張が少し抜ける。


「にちか、静かだよね」


「……すみません」


「え、なんで謝るの?」


きょとんとした顔で言われて、にちかは言葉に詰まった。


「静かな人、俺嫌いじゃないよ」


さらっと言う。


本当に、何でもないことみたいに。


でも、にちかには十分すぎるくらい破壊力があった。


「……そうですか」


「うん。なんか落ち着く」


心臓が変な音を立てる。


初対面なのに。


まだ、ほとんど話していないのに。


どうしてそんなことを言うんだろう。


かずまはカレーを食べながら、


「あ、あとさ」


と、何気なく続けた。


「にちかって、笑うとかわいいな」


「っ……!?」


思わず顔を上げる。


かずまはもう普通に食事へ戻っていた。


多分、深い意味なんてない。


でも。


その日から。


にちかは、かずまのことばかり考えるようになった。


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