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好きなら、言ってよ。  作者: ともり。


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# 第十話 言えない

# 第十話 言えない


月曜日。


会社へ向かう足取りが、いつもより重かった。


昨日のLINE。


思い出すだけで、心臓が落ち着かない。


【俺、にちかにだけは特別でいたい】


あんなことを言われたのは初めてだった。


なのに自分は。


【……ありがとうございます】


それしか返せなかった。


もっと他にあっただろ。


そう思うのに、いざとなると何も言えなくなる。


 


「おはよ」


フロアへ入ると、かずまが自然に声をかけてきた。


いつも通り。


いつも通りすぎて、逆に困る。


「……おはようございます」


「なにその距離感」


かずまが笑う。


その笑顔を見るだけで、昨日のやり取りを思い出してしまう。


顔が熱い。


「別に、普通です」


「普通じゃないって」


かずまは椅子ごと近づいてくる。


「昨日のLINEのあと、絶対意識してるじゃん」


図星すぎて、何も言えない。


かずまはそんなにちかを見て、小さく笑った。


「わかりやす」


「……うるさいです」


「でも、ちょっと安心した」


「え?」


「俺だけじゃなかったんだなって」


その言葉に、胸がぎゅっと締まる。


多分。


今なら、言える。


好きですって。


ずっと特別でしたって。


言ってしまえば、全部楽になる気がした。


でも。


もし引かれたら。


もし今の関係すら壊れたら。


そう思った瞬間、喉が閉まる。


「……仕事してください」


逃げるみたいにパソコンへ視線を戻す。


すると、隣から小さなため息が聞こえた。


「また逃げる」


責める声じゃなかった。


むしろ、困ったような声だった。


それが余計に苦しい。


 


昼休み。


今日は珍しく、かずまの方が静かだった。


スマホを見ながら、時々ため息をついている。


「……疲れてますか」


思わず聞くと、かずまがこちらを見る。


「あー、まあちょっと」


「大丈夫ですか」


「んー……」


かずまは少しだけ迷ったあと、小さく笑った。


「にちか不足かも」


心臓が跳ねる。


そんな顔で言わないでほしい。


「……今いますけど」


「そうなんだけどさ」


かずまはテーブルへ頬杖をつく。


「もっと近づきたいのに、逃げられるから」


その言葉が、真正面から胸へ刺さる。


逃げている。


ずっと。


本当は、誰より近づきたいくせに。


「……ごめんなさい」


また謝ってしまう。


かずまは少しだけ笑った。


「ほら、また謝る」


優しい声だった。


でも。


その優しさが、いつか終わってしまう気がして。


にちかは、どうしても怖かった。


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