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俺の親父、金髪美少女になる 〜俺の知らないところで姫扱いされてナンパまでされてるんだが〜  作者: 光


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8/9

【中編】なんとしてでも美少女親父をお持ち帰りしたい部下の人

 ひとまず繁華街を出て、広い道へと出た。部下の人は座席から身を乗り出して、眠ってしまった親父の写真を撮っていた。何枚も、何十枚も。


「あの、ちゃんとベルトしてください。まだ運転慣れないんで。てか勝手に上司の写真とか、失礼じゃないですか」

「いっつもおしゃべりしてるから、平気ですよ」


 パシャ、パシャとひっきりなしにシャッター音が聞こえてきていた。


「……家はどちらですか。住所とか教えてくれると」

「案内しますから」

「ですから住所を――」


 交差点の十メートル手前で、部下の人は突然正面に向き直った。


「あ、ここ右です」

「え」


 部下の人に、ハンドルを取られた。右側にぐるんと回って、時速四十キロのままウインカーも出さずに車は曲がった。対向車線からトラックが迫ってきていて、ヘッドライトでフロントガラスが真っ白になった。


「ぎゃあっ」


 アクセルを踏み込んで、猛スピードで交差点を抜けた。トラックは、車のすぐ後ろを通過していった。車体が左右に揺れて、必死こいてハンドルを押さえた。


 後部座席から、呑気な声が聞こえてきた。


「こりゃあ、もっと丁重に運転しなさぁい」

「息子さんは慌てん坊ですね」

「俺のせいかよっ」


 振り向きざまに、部下の人に叫んだ。


 すると、びくっと反応して助手席のドア側に身体を寄せていた。はじめて、顔から笑顔が消えた。


「ぁ、いや、大声だしてごめんなさい。その、案内はもう少し早めに言ってくれると助かります。あとハンドル取るのやめてください、危ないんで」

「そ、そうですよね、こちらこそ申し訳ないです。運転のことはよくわからなくて……」

「大人しくしてくれてたらいいんで、ほんと案内だけお願いします。あとシートベルト」


 部下の人は、なごやかな表情に戻って頷いた。



 深夜の道路を進んだ。時折「今のところ左でした」だとか「右車線!」だとか「TS病って遺伝するんですかね?」だとかそういうことを言われながら。


 幹線道路を真っ直ぐに進んでいると、部下の人は言った。


「もうすぐです。わざわざすみません、送っていただいて」

「いえ、ついでですから」


 部下の人は振り向いて後部座席を見た。


「課長、もうすぐですよ」

「おい」


 きょとんとした顔で、部下の人は俺を見た。その、なにか? みたいな表情やめろ。


「うちはもうすぐじゃないですよ。またしばらくかかるんだから、親父は寝かせといてください」

「でも」

「でもじゃなくて」


 やはり、怪訝そうな顔をしていた。首をひねって、顎先に指をそえたりしていた。赤信号で止まっていると、パンと両手を叩く音が車内に響いた。


「課長と個人ミーティングをする約束をしていたんです。今抱えてるプロジェクトが、ちょっと大変で。学生さんに言っても、わからないかもしれませんけど」

「zoomとかでいいじゃないですか。深夜に酔っ払い連れ込んで、どうするつもりなんです」

「仕事ですから。息子さんも社会人になればきっと、あのときのあれはこういうことだったんだって、理解できるようになりますよ」


 赤信号なのにアクセルを踏み込みそうになって、ギリギリのところで踏みとどまった。だめだ話が繋がってねえこの人。


 やっぱシラフではねえのかな。


「……勉強不足で申し訳ないです。ですけど、今日はお酒も入っているみたいですし、ご自身も、ねえ、一緒に楽しんでたんですね、お酒」

「まあ、それなりには」


 口を押さえて、部下の人は微笑んだ。視線が重なって、ちょこっとだけ胸が跳ねた。こう見ると結構美人で、歳も俺とそう変わらなさそうだ。親父よりは年上っぽいけど……いや、見た目だけ、見た目だけの話。


 だからどっちかっていうと姉っぽいんだよなあ、と思っていると信号が青に変わった。


「だけど、全然平気ですよ。課長も仕事の話になればシャキッとしますから、息子さんだけ帰ってください」

「一人では帰りません。親父は絶対に連れ帰りますから」

「家に来てくれるって約束したんですよ、それなのに――そこ転回してください」

「転回!?」


 またハンドルを取られた。ぎゅるると車体が半回転して、無理やり方向転換させられた。速度が出ていたせいで、一瞬二輪走行になった。ガードレールにぶつかりそうになりながら、なんとかかんとか安定を取り戻した。


「ぎゃあ、ぁああ、あああ、はぁ、はぁ、だ、おまっ、だからあんたはぁ!」

「お喋りに集中してて」

「そういう問題じゃない!」


 拳を固めて、肘置きに叩きつけた。大きな音がして、部下の人は身を縮めた。


「ひっ」

「運転中に手を出すなって言ってるでしょうが! 自分だって危ないんだってわかってんのかあんたはっ。ええっ、免許も持ってねえくせに勝手なことをするんじゃねえ!」

「ぁ、ぁっ……ご、ごめ……」


 逃げるような体勢になって、部下の人はぶるぶる震えていた。顔には恐怖すらも浮かんでいるように見えた。いい、多少は言わないとこの手のはわからねえ。


「大人しくっ、黙っててくださいっ。あんた大人なんでしょ、だったらもう少し落ち着きなさいよっ」

「ご……ご……」


 目に光るものが見えた。身体の前で交差した両手は、ぎゅっと自分の襟を掴んでいた。


 顔はへにゃりと歪んで、鼻頭が赤くなっていた。


「ごめんなさぁいっ……わた……私がわる……悪かったですぅ……ぅ……ぅぅ」


 大声をあげて、ついに泣き出してしまった。顔を押さえて「ごめんなさい……ごめんなさい……」としきりに口にしていた。


 こっちも落ち着かなくなって、運転どころではなかった。


「いや、わかってくれたらそれで……」

「妹が……課長が死んだ妹に……ぅぅ……」


 部下の人は、過呼吸気味になった。慌ててウインカーを出して、ひとまず近くにあったコンビニへと入った。

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