【後編】なんとしてでも美少女親父をお持ち帰りしたい部下の人
駐車場に、車を止めた。泣き続けていた部下の人は、少しだけ落ち着きを取り戻して、ぽつりとつぶやいた。
「病気で亡くなった妹に……課長がそっくりなんです……それで……それで私……」
「そう……だったんですか。ごめんなさい、こっちも怒鳴っちゃって」
下を向いたまま、部下の人は左右に首を振った。
「いいんです……家に連れて帰りたいなんて……ただのわがままなんですから。私、どうかしてました……ここまでありがとうございました」
部下の人は、助手席のドアを開けた。車を降りて、深々とお辞儀をするのが見えた。
俺もシートベルトを外して、運転席から降りた。
「待ってください。今の話、もう少し聞かせてくれませんか。それに、こんな時間に一人で帰るのは危ないですから」
涙に濡れた顔で、部下の人は俺を見た。
中で買い物をしてから、コンビニの前のポールに、部下の人と並んで座った。いくら眠っていても親父の前じゃ、話しにくいのだという。
ぶら下げたビニール袋から、缶を取り出して、部下の人は栓を開けた。
「これ、どうぞ。迷惑かけちゃったお詫びです」
「いえ、いいんです、俺全然そんなつもりじゃ――ぶっ」
飲み口を無理やり口につけられた。ぐっと缶が傾けられて、酸味のあるジュースが口内に注ぎ込まれた。
口の中に溜まった液体を、ごっくんと飲み込んだ。
「げふっ……だからそういうところを……」
「また迷惑……でしたか?」
「いえ、そういうわけじゃ……もらいます」
「はいっ」
嬉しそうに笑う部下の人から、缶を受け取った。
「それで、妹さんというのは……なんて聞いたら辛いかもしれないですけど」
「全然、いいんです。むしろ誰かに聞いてもらいたかったところも、ありますから」
「俺なんかでよかったら」
握りしめた缶の冷たさが、手のひらに染みた。
部下の人は、暗い夜空を見上げた。
「そうむずかしい話じゃないんです。身体が弱くて、ずっと入院していた妹がいたんですけど、いつか退院したときのために、色々お洋服を用意してて、でも……」
一瞬の言い淀みがあった。
「結局、それも叶わなくて。自分で作った服なんかもあって……課長ならぴったりだなって思ったんです。あの子の供養じゃないですけど、どうしても誰かに着てもらいたくて」
「そうだったんですか……そうか」
だったら最初から話してくれればよかったのに。いや、話しにくかったのか。
俺は手元の缶ジュースを一気に飲み干した。
「そういうことでしたら、俺も協力しますよ。今日はちょっと親父もあんなんですから、難しいかもですけど、後日上手いこと理由を作って、家に行かせるようにします」
「本当ですかっ」
「ええ」
俺が笑うと、涙をにじませながらも部下の人は笑った。
穏やかな空気が流れた。夜風は秋の寒さを伝えてきているのに、肌の表面が妙に火照っていた。
悪い人じゃ、なかったな。俺も全力で協力してあげなくちゃ。
股の間で拳を握って、立ち上がった。部下の人に手を差し出そうとしてしまって、流石に引っ込めた。
「車、戻りましょうか。親父も待ってることですし」
「ええ、そうですね」
運転席の側に回ると、なぜか部下の人も後ろについてきた。俺がドアノブを握ると、手の甲に触れられた。
「待ってください、そっちじゃないです」
「ぁ、えっと、どういう」
振り向くと、目が合った。姉のたくましさと、少しの寂しさが混ざり合うような瞳をしていた。明るい前髪は、軽くウェーブがかかっていた。やっぱり、きれいな人だ。
俺の手の甲を撫でながら、部下の人は言った。
「いけませんよ、お酒を飲んで運転しちゃ」
「は?」
「これ」
ちゅぱという水音がした。部下の人は、俺が捨てたはずのジュースの缶を手にしていた。
缶のラベルには『酎ハイ』と書かれていた。
「これでもうお家には帰れませんね。大丈夫、私、お酒も飲んでないし、免許もちゃんと持ってますから」
氷結のような冷たい笑い声が、駐車場にこだました。
『課長! 次、これお願いしますっ。フリルがたっくさんで、とってもかわいくないですか』
『はにゃ?』
襖の向こうから聞こえてくる楽しそうな声を、俺はベッドの中で聞いていた。見知らぬ天井、馴染みのない匂い、部下の人の寝具。一人暮らしの女性の部屋で、何故か俺は一人で寝ていた。
『それが終わったら、こっちの際どいのも着てみましょうね! あはっ』
『はにゃにゃ?』
布団に潜った。
なぜ俺は、こんなところにいるのだろう。
親父のコスプレ撮影会、参加させてもらおうかな。
『きゃああああ、かわいぃぃぃ、えろぉぃ』
『へへ、えへへ、にゃあ』
際どいの。気になりすぎる。




