親父とお袋は一緒に寝ている
今朝の親父とお袋は、妙だった。
休みとあらば同じソファーに並んで座って朝のニュースなんかを見てるのに、今日に限ってはバラバラだった。小じわのある方は無言でお茶をすすり、肌にハリがある方はダイニングテーブルに座って新聞を広げていた。
俺がおはようと挨拶しても、二人の返事はワンテンポ遅れた。しかもその返事が微妙に被ってしまい、妙な沈黙が生まれたかと思えば、結局最後まで言い切ることはなかった。
親父が言う。
「お前、今日は休みか」
「ん、ああ、土曜だし、シフトもねえや」
お袋が言う。
「あなた、今日は土曜じゃない」
「そうか、そうだったな母さん、ずいぶん物知りじゃないか」
「みんな知ってますよ、いやねえ。それにしても今日は天気がいいこと」
お袋は窓の外を見た。湯飲みを手にしたまま、その姿勢で動かなくなった。
首筋に、吸われたような赤い痕があった。蚊に刺されたにしては大きく、引っぱたかれたにしては小さかった。ちょうど、唇の大きさくらい。
親父の方を見た。さっ、と新聞に顔が隠れたかと思うと、急にぶつぶつ記事を読み上げだした。
近づいて、その新聞を取り上げた。
「あっ、こ、こら、なにをする。父さんだぞ!」
美少女の声と姿で言われても説得力がない、相変わらず。
睨んでるのに顔を赤くしているせいで威厳なんてまるでない。この生き物はもう親父じゃないかもしれない。
「……親父ってさ、実年齢よりずっと若く見えるよな」
「仕方ないだろ、そうなってしまったんだから。今更なにを言うんだお前は」
「いや……法的にどうなんだろうって。結婚してたらノーカンとか?」
親父は口を結んで、黙り込んだ。ちらちらお袋を窺って、たこみたいに顔を赤くしていた。
どうやったか聞きたい。どうなったのか知りたい。しかし子供が聞くことじゃない。なにかあったとしても、ナンパ男に溺れるのとはわけがちがう。
母さんはもちろん女で、妻で、けれど親父も女で、美少女で。ああ、自分がどうやって生まれたのかわからなくなる。アイデンティティ・クライシスだこの野郎。
冷蔵庫を開けた。牛乳パックを取り出して、そのままがぶ飲みしかけて、慌てて手を止めて、コップに注いだ。朝の一杯で喉を潤した。
お袋と親父を順繰りに見た。二人はまだ日常生活に帰ってきていなかった。
「なあ」
しゃがんで親父の耳に口を寄せた。
「どうだった?」
くっ、と親父の結んだ口が上を向いた。視線が女性的な胸と下半身に動いた。
ぼそっとつぶやきが聞こえた。
「……男にはわからん」
ついには足の指まで視線を下げて、親父は続けた。
「次からは詮索するな」
俺の股間を引っぱたいて、肩をいからせながら親父はリビングから出ていった。




