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俺の親父、金髪美少女になる 〜俺の知らないところで姫扱いされてナンパまでされてるんだが〜  作者:


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5/5

親父がナンパされた

 土曜日の昼、お袋は不在、俺のバイトも大学も休み、親父も家にいる。つまり二人っきり。


 だからなんだという話なのだが。


 親父は真っ昼間から梅酒をロックでやっていた。台所からその様子を眺めていたところ、見事に目が合った。


「おい、ちょっと付き合え、おい」


 なんだよ、と文句付ける暇もなくダイニングテーブルに招待される。対面に座ると、頬を赤くした親父はカラカラと氷を鳴らした。


 目がとろんとしている。酒好きなのに酒が苦手な親父だ。


「うっく、昨日な、父さんな、仕事帰り、ひっく」

「はいよ、聞いてやるから落ち着いて話せって、まったくいい年して」


 テーブルに置いてあった炭酸水をグラスに注いだ。潰れそうな親父を眺めながら、それを喉に運んだ。口の中でパチパチと泡が弾けた。


「落ち着いてりゅ……でな、仕事帰りにな、駅で」

「駅で、はい」

「若い男に声をかけられて」

「若い男に……ん」


 傾けていたグラスが止まった。炭酸水が口とグラスの間でゆらゆらしていた。


 そのまま目を動かして、親父を見る。金髪美少女はヒクヒク言いながら、目を赤くしていた。


「茶をおごってくれるって言うからついていったんだ」


 俺の口から、炭酸水が噴き出した。


「ぶっ、げほっ、うえ、と、と、え、え?」

「おぃ、きちゃないぞ」

「あ、ああ、すまんって、そんなことより、それで!?」


 テーブルに手をついて、前のめりになった。親父の真っ赤な鼻が、少し右を向いた。


「そしたらパンケーキの店に連れて行かれた、若い女の子ばっかりのハイカラな店だ」


 自分もだろうが、鏡見ろ、鏡。いや、いい、その突っ込みよりも貞操が心配だ。


「そ、そこでなにがあったんだ、無理矢理抱きつかれたとか……? 許せねぇ」


 親父は左右に首を振った。


「経済の話ができるっていうから付き合ってやったのに、やれかわいいだとか、なにが好きだとか、家は金持ちだとか、そんな話ばかりをされた」


 親父は梅酒を一口飲んでから、続けた。


「そうやって適当に話を合わせてたらな、場所を変えようって言われたんだ、二人っきりになれるところがいいって。いいかげん父さんだってばかじゃないから、こいつぁ不埒なことを考えてるってわかったよ」

「最初に気づけよ。……で、どうなったんだ、どっか触られたとか……野郎ぉ……」


 机の下の拳に力が入った。うちの親父に手を出そうとするなんて、見つけ次第殺してやる。


 親父は顔を伏せて、テーブルに置いたグラスの氷を指で回した。上目遣いで、こっちを見てきた。


「されそうにはなった」


 俺はテーブルを叩いた。席を立った。絶対に探し出してやる。


「おい待て」

「いいや止めるな親父、俺はそいつを見つけて磔にする」


 親父は言った。


「帰してくれないから父さんは言ったんだ、息子と妻がいるって。そしたらあいつ目を点にしていたぞ『け、経産婦ですか』って」


 親父はげらげらと笑った。


「実年齢と事情を伝えて、責任とれよって言ったんだよな、父さんは。そしたら急にしおらしくなってな」

「……んだよ、ほんとになにもなかったのか。ちっ、仕方ねえから許してやるか」


 腰を下ろした。なんだか喉が渇いたので、炭酸水を口に含んだ。


 親父は言った。


「でな、あいつは言ったんだよ」

「ん」

「それでもいい、って」

「ぶほっ」


 また炭酸水を吐き出した。テーブルの上がびっちゃびちゃになった。


 結局「最後? 普通に逃げてきたよ」ということだったらしい。


 女は大変だと親父はゲラゲラ笑っていた。こっちの気も考えろ、馬鹿。

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