俺の知らないところで親父が姫やってた
親父は強引だ。
無理矢理車に乗せられた俺は、大人の遊び場へと連れ込まれた。
雑居ビルの四階。そのたばこ臭いワンフロアに大量の男共がひしめきあい、バチンバチンと各々が手にしたモノを叩きつけている。
そこに女は――親父一人しかいない。
俺たちに二人の男があてがわれる。一人は髪が薄く、一人は太っている。親父を見るやいなや、殺伐としていた表情が緩んだ。
「おう、来た来た。あら、今日はカレと一緒かい」
「ばかっ、息子だ息子。前に話したろ、いつも三麻で寂しいから打てる奴連れてくるって」
サンマ、いや三麻。つまり三人麻雀。
すなわちここは雀荘で、男二人は親父の友達だということになる。ポロシャツなんかを着た普通のおじさんだ。
キャスター付きの椅子に座って、四人で卓を囲んだ。軽く挨拶して、早速打つことになった。
のはいいんだが、周りのおっさんたちがしきりに親父へ挨拶に来るから、なかなか進まない。おしぼりを持ってきてくれたり、差し入れをくれたりする。おかげで椅子の横に置かれたテーブルは、ペットボトルでいっぱいだ。
ようやく東場、すなわちゲームが始まった。
が、今度は違うものが気になる。
上機嫌そうな親父の挙動だ。
椅子の高さを目一杯上げた親父は、床に足がついていない。ちょこちょこ足を動かすから、ぶかぶかの半ズボンが揺れて、隣にいても気になってしまう。
落とした牌を拾うふりをして別の目的を持った輩がいるんじゃないか。そんなことまで考えて、俺はゲームに集中できない。
手元をちらっと見て、適当に牌を切る。
周りを見る。
気づく。
たばこの煙がさっきよりも少ない。賭場がクリーンで和気藹々とした空間に急速に生まれ変わりつつある。
「お」
その中心にいるのは、言うまでもない。うちの親父だ。
お、って言うだけで場に不釣り合いなほどかわいすぎる、うちの親父だ。
俺の番が来る。山から牌をツモる。適当に白の牌を切る。
首を回して、息を吐いた。
よし。外野のことは忘れて俺も頑張ろう。
親父の前で情けない姿は見せられねえ。
「っし、ふー」
「ロン」
かわいい声が聞こえた。
うちの親父が手牌を倒していた。ぱっと見で、同じ絵柄の塊が三つ、いや四つ揃っていた。
「四暗刻単騎。親。ダブル役満で九万六千。お前、飛んだぞ」
ぷにぷにの手のひらが、緑マットの上に伸びてきた。
役満。
飛び。
俺の負け。
死。
遅れてビリリと脳内に電流が走った。
雀荘全体に拍手と大歓声が沸き上がった。
「うおおお、姫のダブルだあああ!」
「腹痛めて産んだ息子にも容赦ねえ!」
「痛めとらん、痛めとらん」
財布へのダメージはかわいくない。
うちの美少女親父は、冷酷で容赦がない。




