渓流の美少女親父は、俺をドキッとさせる
親父と渓流釣りに来た。糸を垂らしてぼーっとする金髪美少女、もとい、うちの親父は大きなあくびをしている。
目尻には涙が浮かんでいて、その横顔はどこか儚い。日差しを受けると肌がキラキラ輝いて、水面よりも反射率が高い……ように見える。
「釣れんな」
親父はハーフパンツから生足を露出させて、大岩にあぐらをかいて座っている。布がずれてきわどいラインが露出しても、全然気にする素振りがない。意識はずっと竿にだけ向いている。やや反った長くて細い、その竿に。
俺は、水面よりも親父を見ている時間が長い。横目でちらちらと伺ってしまう。なぜかって、なぜかはわからねえけど、目が離せない感じがある。黙っている時間が貴重だからかもしれない。
なに考えてたんだ俺……親父だぞ、これ。自分の太ももをゴッと叩いた。
そんな時間が続いて、昼下がりのあるとき、親父は唐突に言った。
「父さんの人生で一番嬉しかったことってなんだと思う?」
流し目が俺を見る。サファイアみたいな碧眼にどきっとさせられる。
「あー……お袋と結婚したこととか?」
「目が覚めたら美少女になってたこと」
「なっ」
絶句して声が出なくなった。やばい、まさかの自意識あり。これからどうすりゃいいんだ、公に美少女扱いか、ふざけんな親父は親父は親父だぞ。
あわあわしてると、親父はこっちに向き直って笑った。
「嘘」
「は?」
「お前が生まれてきてくれたこと。一緒に竿を構えていられること。こうしてのんびりしていられること。結婚は二番目だな、母さんには悪いが」
中年の親父みたいに、目の前の美少女は口を大きく開けて笑った。しかも言ってから頬をぽりぽりとかいている。
脳が、感情が、狂う。なんだよ、突然変なこと言いやがって、畜生。
パシャッと水面が跳ねた。魚が食いついて、俺の仕掛けが反応していた。
「あ、お、かかってるかかってる、あ」
「お、お、お……あー」
竿を引いたところで、反応はなくなった。食いつきが悪かったのか、引くのが早すぎたのかそのどちらかだろうか。
「まったくしょうがないやつだ。もっとタイミングを見るんだ、こう」
親父が後ろに回ってきて、背中に胸を押し当ててくる。いや、釣りのレクチャーをしてくれる。でもジャケット越しなのに、どうしてもそれを感じる。感じてしまう。
甘い声が近くて、すべすべの肌が腕に触れてきて、俺の身体はカチコチでもうよくわからなかった。
自然豊かな渓流に、ちゅんちゅんと小鳥が鳴いていた。




