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あ、そうなんですか……

四方公爵会議が行われたのは一週間前。

どうやら長引いているらしく、今日も海達のお祖父様は中央神殿へ出向いていた。だが、そろそろ決まりそうな雰囲気らしく、ガルレイ様が「まあ、あとひと踏ん張りかな」と溢していたので、もしかしたら今日にも結論が出るのではないだろうか?


実は海達から聞いていた【瘴気】の出現が、最近人々の間で噂されるようになった。それに対処するための計画も兼ねて話をしているそうなので、まあ、長引いても仕方がないのかも。


海達いわく、瘴気は魔法を使うことが出来るものなら誰でも対処できるらしい。

ただし、生物の形を象ったものは、瘴気の核、心臓部分を視認できないと消滅できないそうだ。それが出来るのは、魔法上位者、あと光の魔力を持つ者と限定されている。光の魔力は神殿に勤めている人達がほぼ使用できるそうだが、力の強弱があるのでその対象者が限られる。

しかし、それに合わせるようにして発現する還り人達がいて、その時期の彼らは【巫女・戦士】と呼ばれ、瘴気を誰よりも多く屠ることができる者なんだそうだ。

まあ、もともと還り人は魔力豊富だから出来るんだろうな、なんて思ったりもしている。


今のところ、中央の戦闘部隊が瘴気討伐に出て全て殲滅しているそうだから、余裕があるみたいだ。

海が会話している神様いわく、【魔王】なるものは存在せず、瘴気が肥大化し、一つの個体になると厄介になのだそうだ。

何故かって?一つの瘴気生物に一つの核。それが集合体となったら一体幾つの核を破壊し続けなければいけないのか。取り残しがあったら肥大化していた瘴気生物はまた再生するそうだ。体形的には個体から液体とバラエティに富んでいるらしく、どんな形で現れるのかは実際対面してみないとわからないそうだ。コワッ。


魔物・魔獣は誕生した時から『魔』で、始めから魔力を獲て力を持った生命体となるが、瘴気の始めは気体、そこから生き物を乗っ取り寄生して醜く変化させ巨大化する。


瘴気はもともと人々から漏れる思念だったと言われ、それらの負の感情が何百年と蓄積されると突然現れるらしい。火山のマグマのようだ。


対して魔物達は昔から存在しており、こちらに敵対することもあるし、そうならないこともある。彼らにもヒエラルキーが存在していて、その中での秩序が守られているそうだ。そこから外れてしまうものが討伐対象となる。


まあ、人間社会でも犯罪を犯す人なんでいくらでもいるし。全員が全員善人なわけがない。


しかし瘴気は違う。これは個体として存在しないモノ。

発現するには周期が長いため、ある程度予測がとれ対処できるのだそうだ。

だが今回は不測の事態、本来なら数十年は余裕があった瘴気発現日が早まってしまったのだ。海は百年は大丈夫だったのかもね、と言っていた。


他人事のように海は話していたが、自分達がこの世界線を壊したがための事象だと知っている。だから海は神様と取り引きして小さな頃から瘴気を抹消していたそうだ。そこを陸に話していないのは彼なりの優しさだったんだろうな、と今は思っている。


それだけに留まらず、還り人が複数現れた。

これも異例なことで、神殿や四方公爵を中心に物議を醸し出させたのだ。


で、その話題収拾をしなくてはいけなくて、中央は騒がしいのだ。


どんな話を持ってくるのか。でもなんとなく予感しているものはあるんだよねー。


個人的にはもっと早く終わるものかと思っていたが、そうはいかない現状で、それを海や陸と話していた。

そして、とうとうガルレイ様が帰宅したのだった。



夕刻に近い時間帯だったので、晩餐を兼ねて結果を話すと言われた私達は、一度着替えに戻り(ま、私は何もすることないけど)食堂に集合した。


晩餐といっても前に南方公爵家の晩餐会で参加した大広間のような場所ではなく、この邸にいるのは私達だけなので、プライベートスペースのような部屋で食事を摂っていた。

今日もそこで話をするらしい。


六名程が着席できる円卓に、既にガルレイ様が座っていた。両サイドに海と陸。なぜか陸の肩から、海の方へと移動させられ、私はガルレイ様と海に挟まれている。


前菜からしばらく黙々と食事をしていたのだが、メインディッシュが出揃った頃、ガルレイ様が口を開いた。

そして懐から一枚の手紙を取り出すと、私の横に置いた。


『?』


宛名は私の名前だが、誰がくれたのか予想がつかない。


「ミゲル神殿長様からだ」


意外な人からの手紙に驚くと、スッと海が手紙を取り開封してくれた。


二つ折りにされたままで目の前に置かれる。

海達に無言で見られているが、これはこの場で見せろ、と言うことなのだろうか?


『えーっと、これ今読むべき?』


無言の圧に耐えられず、チラッと海を見ると満面の笑みで答えられてしまった。


え、これ、私個人に来たやつなのに、プライバシーはどこに?


「読めないなら、俺が読むよ?」


遠慮はいらない、とさらににっこりと海は笑うが、いや、怖いって、その微笑み。


『いや、読めるよ。だから大丈夫』


仕方ないと諦め、頑張って足を使い二つ折りから広げようとして、結果もんどりを打つ。


『…………』


そのまま仰向けのまま固まると、ブハッと笑い声が。


ええ、ええ、笑ってくださいな。


一番大きな笑い声はガルレイ様だ。次に陸が笑い海も当然笑っていた。


「……ふふ、茉白。今は獣体をとってるんだから、出来ないことは俺達に頼んで、っていってるでしょ?」


大きな手で私を掬い上げると、手紙を広げてくれてその上に乗せてくれた。

まだクスクス笑っている三人を無視して、ミゲル神殿長様の手紙を読むことにした。

そこにはこう書いてあった。



ルティア嬢へ

お元気にお過ごしでしょうか。

今回の騒動について、ルティア嬢の心痛を思うと胸が痛みます。

こちらとしても予測がつかなかった還り人様の二度目の発現。これに関しては神殿としても青天の霹靂でした。

また、瘴気の発生も重なり慌ただしさに拍車を掛けております。


しかし、一番ルティア嬢が知りたいことは、これらではないことは分かっております。

ですので、どうしても私、ミゲルが一番にルティア嬢に謝罪を込めてお話ししたく、手紙という形をとらせていただきました。


南方公爵家の結論はこちらとしても驚きを隠せませんでした。当主アンネリーゼ様は、アシュレイ様とルティア嬢の婚約を白紙に戻すことを決定されました。また、婚約解消は南方が全面有責として、ルティア嬢に慰謝料が支払われるそうです。そして後見人は南方から東方へと移されます。


まだこちらの世界に来て一年も満たない間にこんなことに巻き込まれ、さぞかし困惑しておられることかと存じます。

以前こちらに足をお運び頂いた時の、私の前での仲睦まじいお姿を拝見し、幸福に満たされた気持ちでした。それを思うと誠に残念でなりません。


もし、何かお困りのことがございましたら、ご遠慮なく頼っていただければ幸いです。

それではまたお会いできる日を楽しみに、筆をおかせていただきます。




と、申し訳なさが溢れる神殿長の手紙だった。

わざわざ神殿長に謝って貰う必要はないのだけれど、ツガイだと言ってしまった責任のようなものを感じているのだろうか。


手紙の上から移動し、海をチラリとみると多少眉間にシワが寄っているが、怒り心頭と言うわけでもなさそうだ。


「茉白、これ爺様と陸に見せていい?」


覗き込んでいたのは海だけだったようで、ガルレイ様と陸は食事を進めていたようだ。

うん、と頷くと二人に手紙を渡す。


海は私に食事をさせようと、小皿の上に細かくした野菜や肉、果物を乗せてくれた。

それをつつきつつ、手紙を読んでいる二人を見ると、結果を知っているガルレイ様は差ほど表情は変えなかったが、陸は何となく呆れているようだった。


「お祖父様、南方はなに考えるんです?」


陸がそう問いかけるとガルレイ様は苦笑した。


「ワシもアンネリーゼ殿がおかしくなったのかと思ったが、そうではないらしい。始めはあくまで静観、という姿勢だったそうだ。誘拐の件は子供達に対処を任せていたが、突然の第二の還り人出現と次男の様子が変わったため、訝しんでいたそうだ。兄姉が次男の相手をしていたらしいが、熊の倅に見て貰っても正気だったと聞いた」


ん?熊の倅??


疑問符が浮かんだ私に海が「カイルアのことだよ」と教えてくれた。あー、白熊だったね。


「かなり兄姉に非難をされたらしいが、あまり本人に響かなかったと。ルティアのことは妹のようにしか今は感じない、と言っていたそうだ」


「はぁ??なにそれ」


陸のぶちギレたドスの効いた声に、きゃっと飛び上がる。着地する時に滑りそうになって海がキャッチしてくれた。そのまま撫でられる。


「そもそもそっちがツガイだと言ってたのに、勘違いでしたで終わらせんの?」

「まあ、それに関してはアンネリーゼ殿はご夫君と共に謝罪の申し入れを受けている。あまりに状況が読めなかったためそれについては沈黙していたそうだ」


溜め息をついたガルレイ様は手紙を畳み封筒に戻す。


「それにルティアが誘拐された背後も掴めていない状況もあり、全てが後手に回っているようだな」


あー、誘拐。そんなこともありました。

誘拐よりも、海と陸に再会した衝撃の方が印象深くて忘れてたわ。当の本人なのにね。

まあそれに、ラノベ展開みたいなことが起きると言われてしまうと、そちらの方が気になって。

今のところ、被害は受けていないし、もう一度拐われそうな気配もない。

それがかえって不気味なんだけどさ。


「それにしても何か一言でも連絡してくれれば良かったんじゃない?東方に居ること知ってたんだろうし」


陸は不服そうにブツブツ言っている。

それにガルレイ様は苦笑する。


「二人はルティアが東方にいると知ったのは、次男が第二の還り人を迎えに行っていた時らしい。その間は三男の治療や諸々の対処をしていたそうだ」


ん?三男の治療??


首を傾げて海を見上げるとああ、と呟く。


「どうも三男のヴォルガは魔術を掛けられていたようで、侍従のマールが犯人だそうだよ。でもその背後関係が分からず、南方は手間取っていたのかもね」


魔術?……魔法と違うのか??


『魔術って?』


そちら関係には詳しくない私が尋ねると海は説明してくれた。


「魔法・魔力は俺達が生まれ持っている力で、魔術は何かを媒体にして使用する魔法のことだよ。ヴォルガは最終的に装飾品を媒体にされていたようだね」

『へぇー』

「ただ、長期掛けられていたようで、その間の媒体が何か分かっていないそうだ。たぶん消耗品でも使用していたんだろうね。そうすれば証拠は跡形もなく消える」

『えっ!それ怖いって!分からないの?それが何か』

「それを分別するには、よほど魔法に長けていないと駄目なんだよ。この世界には魔術の掛かった無機物はありふれているからね、例えば日用品にも魔術がかかっている」

『そんな……』

「前の世界で言う電化製品に成り代わるものは全てに魔術がかかっていると分かれば、それらを見つける事がいかに大変なことかは想像できる?」

『確かに無理かも』


この世界には魔力が籠った魔石があって、それは確かに前の世界での電化製品の役割をしている。

海いわく、細かい操作が必要なものほど魔術が組み込まれているそう。電子部品や電子制御盤みたいなものかな。


「それもあるからきっと南方の方でも捜査が難航しているんだろうね」

「熊の倅はそれに特化しているから、南方の次男、三男の判断には持ってこいの能力だろう。まあ時間の経過と共に証拠を追いにくくなっているのは確かなようだ」


だから後手に回ってるんだ……。

忙しいのは、仕方のないことかな。


しんみりしてしまうと、陸はまだまだ納得いかないようで、もりもり食事を摂っている。


「そんなの言い分けでしょ?茉白が大事だったのなら、隙間時間にでも連絡する手段はいくらでもあったと思うけど!」

「まあ、それはそうだが、南方の防御体系にも問題が発覚して忙しさに拍車を掛けているんだろう。内通者がいたようで、全ての見直しをやらざるおえんのだ。南方の事情を知ると忙殺されるのは目に見えてるからな、同じ当主としては」


そこまで言われると陸も口を噤むしかなかったようで、ムッツリと黙り込んだ。


「ところで爺様、南方のアシュレイ様は今回来た還り人の一人が真のツガイだったと言うことですか?」

「ルカ、お前よく調べてるな」


呆れた目をしてガルレイ様は海を見た。


「違いますよ、この情報はカイルア様からの提供です」

「ああ、そういうことか」

「そうです。爺様、さすがになんでもかんでも見通せませんよ」

「お前はいつも不可思議なことばかり言うではないか」

「仕方ありませんよ、神様の使いっ走りなんで」

「はぁぁぁ……。そうだったな、そんなこと言ってたな」

「なんです?本気にしてなかったんですか?……ヒドイ!可愛い孫の言葉を信じてないなんて!」


泣き真似をした海にガルレイ様は呆れた溜め息をつく。


わぁ、かわいくない。


そんなことを考えたら、海にニコリと全く微笑ましくない笑みをいただいてしまった。目が怖いって。


「まあよい。アンネリーゼ殿が言うには、どうもツガイ()()()という見解だ。現れた還り人は次男をツガイと認識している」

「へぇ、そうなんですね」

「互いをツガイと認識している時点で確定ではないのかと会議で話が出た。だが、アンネリーゼ殿はルティアを一度ツガイと認識していたのに、獣性を無視したかのような共鳴の仕方には疑いを持っているようだった。だが、ルティアはまだ幼かったということと、こちらに来てからまだ日が浅く獣人としての自覚が出来ていなかったため、もしかしたら獣人の特性である庇護欲の強さがツガイとしての認識間違いをしたのではないかと」

「まあ、確かにそれはあり得ますね。俺達獣人は幼子に対して庇護欲が強くなりますし」

「ルティアが次男をツガイとしてあまり自覚していなかったのも、今回の件を後押ししたようだ」


ガルレイ様はグラスに入っているお酒を飲み干すと侍従が新たに注ぐ。持ったままのグラスを揺らしもう一度飲み干す。


「互いがツガイと認識しているのなら、ほぼ確定、という結論が最終的に出た。そのためルティアとの婚約解消になったわけだ。あと、これはルティアには酷な事を告げることになるのだが……」


ガルレイ様がその鋭い容貌をシュンとさせて、辛そうにこちらを伺っていた。


『なんでしょうか?』


想像がつくようで、まさかな、と思いつつも聞き返す。


「お互いが成人しているので、婚姻関係を結ぶことになったそうだ」


あー、やっぱり。でも展開早くない?


それは海も陸も意外だったようで驚いている。


「爺様、それは本当なんですか?」

「ああ、どうも次男のツガイの還り人がすぐにでも一緒になりたいと申し出たそうだ。それにアシュレイも同意したと」

「うっわー、肉食女子だなぁ」


陸がちょっと明け透けに、でも面白そうに言った。


確かにグイグイいくタイプのようだ。


「で、もう婚姻届を神殿に出したの?」

「明後日に届け出をするそうだ。その前に南方夫妻がこちらに来る予定だ」

「それは謝罪のために?」


どこか鋭い声で海は尋ねる。


「まあ、それはもともと申し入れがあったからな」

「茉白、ルティアに謝罪だけで済ますだけならいいんですけど」

「……?どういうことだ?」

「爺様、還り人がツガイの認識をしにくいのは昔から言われてますよね」

「うむ、まあそうだな」

「でも今回の二人のうち一人はすぐにアシュレイ様をツガイと認識した。でもアシュレイ様は最初はハッキリと認識していなかったそうですよ?」

「なんだと?」

「カイルア様の情報です。二人とも()()()ツガイとして認識したのなら、その信憑性は確かだと思いますが、始めは相手のアシュレイ様は何となく惹かれるという程度だったそうです」

「ルティアの時とは反応が違うな」


確かに、アッシュは私を一目見た時からツガイだと認識していた。

私には分からなかったけど。


「中央に戻る間に仲を深めたようですがね。そこをアンネリーゼ様は疑っているのでは?」

「まあそれもあるな」

「あと、茉白はまだ魔力の定着がありません。だからもしかしたらご夫妻が来た時に魔力操作を彼女にさせ定着させることで、どちらが正しいツガイかを知りたいのかもしれませんね」

「ああ、なるほど。魔力定着がないと認識が甘いことがあるな」

「ルカ!そこまで言わなくても」


ガタリと立ち上がり、陸が海に非難の声をあげる。


「大丈夫だよ」

「でも……」


心配げに海を見た陸は、チラリと私を見た。


確かに明日アンネリーゼ様達が来たら、魔力について聞かれると思う。自分達も私には魔力についての家庭教師を付けていなかったことを疑問に思ったのかも。

きっとこれは何かの強制力があったのだろう。

でも、さすがと言うか、当主様だからなのか、後になって気づいたのかもしれない。


ましてや私は獣化したままで、まだ人の姿に戻っていない。魔力を上手く操れないからこのままなのだ。


もしかしたらアンネリーゼ様は、私が本当のツガイなのではないかと疑っているのではないだろうか。

自覚出来ていないのは、この姿を見たら一目瞭然と捉えるか、わざと私が獣化したままなのだと勘違いするか。

しかし、獣人のマナーとして、正式な挨拶を受ける時は人形をとるのが正しいのだ。

だから前者と考えるだろうなぁ……。

だって、そんなに簡単に出来るわけないじゃん。魔法の基礎すら怪しいのに。


二人との約束で、まだ私は魔法について学んでいない。

でもチラッと聞くと簡単そうに出来なさそう、と。

二人ほど感覚に優れているとは言えないし、勉強苦手なんだよね……。

ラノベとかだと、イメージすることですんなり出来ているようだけど、そんな簡単な感覚ではなさそうなんだよね、この世界の魔法。

呪文みたいなのは一切ないらしい。

海も呪文なんて無くさらっとやってたから、無詠唱が基本らしい。魔術を使う時は古代語が必須で発音が難しいのだとか。

……私、英語ダメな子だったんだよー。

もちろん二人は海外経験者だから、ペラペラ。

きっと抵抗もなく出来たんだろうな。

だから、アンネリーゼ様に言われてもそんなにすぐに魔法を発動するのは無理だと予想。


だから海は「大丈夫」と陸に言ったんだと思う。

陸は私がやれば出来る子だ、と過剰評価し過ぎるところがある。そこは冷静に私を見て……いや観察している海の方が確信に近いものを持っているに違いない。


「だからご夫妻はきっと茉白に魔力操作についてやって欲しいというと思う。でも爺様、無理に魔力操作を強要するのは出来ないよね」

「そうだな」

「でも茉白はきっと魔力操作をすぐには出来ないと思うよ」

「なぜだ?」

「幼い頃から馴染んでいたのなら未だしも、彼女は前の世界で成人していた女性だよ。魔力なんて無い世界で生活していて、こちらに来て獣化すら馴染みがない。成人女性で個として区立しており、また自我も強い。馴染みの無いものは異物として認識され、順応性が低くなるのは当たり前の事でしょ」


……それって遠回しに言っているだけで、鈍いって事?

オマケに頭が固いとも言われてるんじゃ……。


「まあ、それは有り得るな」

「もし夫妻がやらせようとしたら、彼女の許可さえあればやらせてみてもいいかと。たぶん時間が足りないから成功しないとは思うけどね」

「ああ、そういうことか。アンネリーゼ殿は、ルティアの方がツガイなのではと疑ってはいるが、確証が持てないから最後の機会として自身で確認したいのだな」

「もし違っていたらそれはそれで悲惨だろうしね。婚姻届をもう出すことに決めてしまったけど、自分の息子だから傷が少ない方を選びたいよね、さすがに」


渋い顔をしたガルレイ様に海は笑う。


そういや、ツガイとして婚姻届を出した場合、お互いの魔力譲渡が出来てパワーアップが図れるけど、離婚は難しかったんじゃないっけ。

ツガイで離婚、ってのはほぼ無いそうだし。

そりゃ疑っていたら慎重にもなるよね。

ましてや自分の息子の事だから。


「ルティア、もしアンネリーゼ殿が魔力操作をやってみないか、と言われたらやってみるか?」


心配そうにガルレイ様が尋ねてくれる。


「うーん、それって成功しなくてもいいんですよね?」

「ああ、大丈夫だ」

「ならやってみます」

「分かった。もしあちらから申し出があったらやってみるがいい。危険と感じたらワシが止めるから安心しろ」

「はい、ありがとうございます」


取りあえず、ガルレイ様から四方公爵会議についての残りの内容を大まかに聞いた。そのなかで、二名の還り人のうち一名はツガイが見つかっていないため、そのまま神殿預かりとなるそうだ。

瘴気対策については、現在維持をし、肥大化の確認が取れ次第、還り人の出番と言うことになるそうだ。


何はともあれ、急遽だか明日の午後、アッシュのご両親に会うこととなった。


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