なにかの強制力?
5日の日程を経て、中央地区にある東方公爵家所有の邸にやって来た。
各公爵家の都合もあり、一週間程の余裕をもって会議の日程が決められたそうだ。
なので急ぐ必要もなくゆったりと旅程をこなすことが出来た。
まあ、鳥状態だったから、ほぼ海のポケットか陸の手元にいたからそれほど疲れもしなかった。
そこに何故かガルレイ様が参戦して、私の抱っこ権を主張し、三人が揉めることがあったくらい。
それ以外、特にトラブルもなく、無事に中央地区に到着出来た。
ここもまた広い敷地で、邸の形も領地と同じ感じで、尖塔になった間には止まり木代わりの橋がいくつか掛けられていた。
よくよく見るとその橋から尖塔にある扉から室内へ行ける構造になっていた。
それぞれの建物に種族特有の建築方法が使われていて感心してしまった。
室内はやっぱり広く、私は陸と同じ部屋にしてもらった。何かあった時の対処のしやすさからと友人だからということで同室に。
海と陸の部屋は隣同士だから、私は窓から侵入出来そうだ。
本当なら翌日にアッシュと会う約束をガルレイ様が取り付けようとしたのだが、どうやら還り人二人の世話をなぜか彼とキーファが担当することになったそうだ。
さらに南方公爵家からも何も音沙汰がない。あれほど私を必死に探してくれていたのに、何も接触がないのままなのだ。
そんな中では結局会うことも出来ず、そのまま四方公爵会議の日を向かえることとなってしまった。
南方公爵家に不信感が募ったままガルレイ様が中央神殿へと向かったのを見送り、海と陸と共に気分転換も兼ねて街へ遊びに行くことになった。
どんな結論が下されるのかを邸で悶々としながら待つよりは、パッと街に遊びに行った方が精神的に健全だと陸に言われたからだ。
まあ、それもそうだね。
アッシュから何も言われないし、どうなるかなど、こちらが予測しても仕方がないことだ。
そこでふと感じたのは、アッシュへの想いが育たなくて良かった、と変な安堵をしたことだった。
まだおそらく種が植え込まれた状態で、この間までは優しく慈しんでくれた雨が降り灌いでいた。
さあ、芽吹こう、としたところで栄養分の供給を絶たれてしまった状態だったのだ。
だからって特に傷つきはしないけど、寂しさはあった。
例えば楽しく過ごした旅行が終わり、ああ、もう終わっちゃうんだ寂しいな、と云う感じ。
家に帰って、ああ、あれが面白かったな、あんなことあったな、とかその時間を振り返るかのよう。
それもいずれ、時間が過ぎていけば思い出になる。
拐われてから2ヶ月近く会っていない。
一緒に過ごしていた時間より、会わなくなった時間の方が長くて、あれは本当の事だったのか、と思うくらいにはどこか他人事のようだ。
諦観にも似た思いが出てしまうのは致し方ないのでは?
ましてや、あれだけ歓迎してくれたのに、南方公爵家からは一切連絡も、私の安否を気遣う声も届かなかった。
何か起きたにしても、婚約者に連絡の一つも、事情くらい少しは話してくれてもいいのでは?と思わないでもない。
ガルレイ様はぶちギレていたが、そんな態度を取られれば怒りたくもなる。
獣人ならあるあるなのかと思ったが、ガルレイ様が不信感を顕にしていると云うことは、こんなことはあり得ないのだろう。
不測の事態でも起きたのか。
全てが滞ったまま、淀んでいるかのように感じた。
いろいろ思うことはあるが、陸が嫌な思い出のある街に向かい、その嫌な記憶を上書きするためにも楽しい思い出は必要だ!と繰り出したのもある。
確かにそれも一理あるなと賛成の意を示し、昔のように三人で遊びに行くことにした。
前の世界での思い出がまた重なるように、この世界でも三人での楽しい思い出がまた作れると思うととても嬉しかった。
まずはウィンドウショッピングをしつつ、お互い気になる店に一緒に行くことになった。
始めに二人が私用の日用品を買おうと雑貨店に行くことに。
あの時に利用した雑貨店ではなく、別の雑貨店だった。
そこは入り口にアイビーが絡んだエクステリア門扉で、その店舗には庭が設置されており、アイアン扉を潜るとハーブを植えたプランターが自然に見えるように配置され、店の出入り口までの間には休憩するベンチと小さなテーブルがいくつか設置されていた。
なんともファンシーな、妖精でも出てきそうな庭ねー。
どうもここは陸のチョイスらしく、中央に来ると必ず寄るお店だそう。
店内は縦長になっており、互い違いに商品を置き、通路を確保しているようだった。そこには自然派な化粧品から、日用雑貨までなかなか面白いラインナップとなっていた。
その中から、まずは化粧品!と陸が張り切り、鳥に化粧品はいらないよーと言ったら怒られた。なぜ。
その様子を海は緩く微笑みながら眺めており、これも三人でいるといつも起こる事だった。
やはりこの世界でも海と陸は注目を集めている。
二人とも長身だし、美形だからねぇー。
でも、二人は気に留めることもなく、スルー。
常態だね、二人とも。
そんな二人を海の肩から眺めつつ、陸のオススメ化粧品に適当に相槌を打っていたらまた怒られた。え、また?
理不尽ー、と私が剥れていると、海は可笑しそうに私の頭を撫でてくれる。
私は化粧品に興味がないから、程ほどでいいよーと言ったら、陸に「今は若いからいいけど、その若い頃からちゃんと手入れすると海と私の母みたいに化け物になれるから、ちゃんとやらないとダメよ!」と説教された。
ん?それはお母さんを褒めてるの?貶してるの?
た、確かに海のお母さん、スゴい美魔女だったし。それが手入れの賜物だって言うなら、それはそれでスゴいね、としか言いようがないんだけど……。
前の世界でも特に手入れはしてなかったような。
たまに陸に会うとそういや、海外の化粧品をしこたま貰ったなぁ……。
だから、自分で化粧品を買った記憶があまりない。
陸から貰う化粧品で事が足りてたし。
そんな陸と共にある程度、彼女厳選の化粧品を購入。
日用品は海も一緒に選んでくれて、それもいくつか購入したが、鳥に与えるには量が多すぎないか?と思いつつ、その大量の海と陸の戦利品?を馬車に一旦積んで貰い、次の場所へと移動することになった。
結構な時間、雑貨店にいたようで私達はお腹が少し空いたため、早めの昼食を摂ることにした。
そこはカフェのようなオシャレな店舗で、気取ったお店と違い男女関係なく気軽に入れる雰囲気のところだった。
オマケにこの獣人世界特有の獣化したお客さんも入れる。それぞれ食事を摂れるような広々としたスペースが用意されていた。お店側の気遣いの溢れる良いところだった。
二人用の席に案内されると、二人用にしては気持ち大きめのテーブルに海と陸は向かい合って座った。すると案内した店員さんが手のひらサイズのT型になった木の棒とやけに厚さのあるワンプレートのような物を持ってきた。
「失礼します」
一礼するとそのT型の棒を、海と陸の間のテーブルのちょうど中間の端に立て、小声で何かを呟くと木の棒が固定された。
そしてその前に厚さのあるワンプレートを置くと一礼して去っていった。
『??』
私が首を傾げていると海が私を肩からその木の棒にそっと乗せた。
あー!止まり木か!
そうすると二人の顔を見ながら話せる。
なるほど、これは鳥専用の器具なんだね。このワンプレートもちょうどつつきやすい高さで絶妙!
へーほーと、興味津々で見回していると生暖かい視線を感じて顔を向けると、微笑ましそうに二人が見ていた。
「可愛いねぇ、茉白」
「ホント」
『!!!』
まさか見られていたとは露知らず、羞恥に身悶えしてしまった。私が興味津々に眺めている間に、二人はランチセットを注文しており、私の分は二人から分けて貰うことになった。
少し話していると料理が到着し配膳される。
サラダとドリンク、前菜のカナッペのような物。メインは海がラザニアっぽいチーズたっぷりの物に対し、陸はガッツリ大盛りの三種類くらいの肉が入ったステーキ。
うーん、この二人の食事内容は相変わらずだなぁ~。
海は人よりは食べるが、洋食系が好きで、陸はどちらかと言うと質より量で、見た目に反した量を大盛り食べる。
これには初対面の人はいつも驚き、そして周囲が勝手にイメージした二人の偶像が崩れるからと、なんだかんだとお節介なアドバイスをしてくる。
それに辟易して学生時代は、よく私のいるところまで逃げて来ることがあった。表面上は取り繕って愛想よくしているが、度を超すとぶちギレる。
何度か毒を吐いて周囲が引いたことが度々あったが、それを乗り越える強者が多く、懲りずに二人に纏わりついてくるクラスメイトがいた。
あれはまあ、なんと言うか、御愁傷様としか言えなかったなぁ……。
懐かしい事を思い出してスン、となっていると、目の前に二人からそれぞれ細かくされた食べ物を置いていってくれた。
『あ、ありがと~』
チチッと鳴くと二人は頷き、食事を開始する。
「茉白、なに思い出してたの?」
陸がそう尋ねるとあー、と言って内容を話した。
『海と陸の食事内容を知った周囲の反応』
「「あー」」
同時に思い出したのか、揃った声には呆れが入っていた。
「あれはいい迷惑だったね」
苦笑しながら海が言うと陸は鼻で嗤いながらフォークで肉をブスリと刺す。
「はっ、なーにが『お肌に悪いからドカ食いは宜しくないわよ、ストレスがあるなら私が聞いてあげる』だ」
なんともまぁ、一言一句よく覚えているよ。
『肉に八つ当たりしないでね、陸』
思い出して苛ついたのか、肉を刺したまま微動だにしない。ふぅー、と息を吐いた陸は、そっと肉からフォークを抜くと、美しい所作でサラダから食べ始めた。
二人ともやっぱり貴族だからか、食べ方が綺麗だった。
もともと前の時も綺麗な食べ方をしていたので、それが更に洗練された感じになっていた。
まーまー、と海が言いながら、話を別の方向へと持っていく。この世界で過ごした二人の思い出を面白おかしく話してくれた。
笑いつつ二人の話を聞いていると、どこからか視線を感じた。ん?と思い周囲を見回すと何故ここにいる!と言う人物が昼食をモリモリ食べつつ、こちらを見ていた。
『カイルア!?』
チチッ!と鳥声が出てビックリすると、海と陸も気づいていたようだった。
「茉白の知り合い?」
海が尋ねる。
『うん、アッシュの幼馴染みで、聖霊樹の元に迎えに来てくれたメンバーの一人』
「へぇ……」
「ふぅん」
二人はサクッとキレイに平らげつつ、最後のデザートを待つのみとなる。
一方カイルアは陸の倍はあった料理をあっという間に食べきると、口許を拭いて立ち上がり、こちらへ向かってきた。休日なのかラフな格好をしていた。
「ヤる?」
陸が物騒なことを言ったが首を降って止めさせる。
安定の無表情で、だが瞳はどこか心配そうに私をじっと見つめてこちらにやって来た。
そして私の目の前に立つとしゃがみ込み、始めての出会いと同じ様に目線を合わせてくれた。
「……ルティア、元気にしてた?大丈夫?」
『!』
ちゃんと私が【ルティア】だと認識していた。
『分かるんだ』
「うん」
しっかりと頷き、カイルアはそーっと人差し指で私の頭を撫でた。
『カイルアさんは今日は非番なの?』
「そう。さっきまで寝てて、お腹が空いたからここに来たんだよ」
なんとも本能に忠実な。
『…………。カイルアさんは、アッシュがどうしてるか知ってる?』
聞こうかどうか迷ったが、ストレートに聞いてみた。
すると、少し視線を上に上げ、どうしたものかな、
とでも云うように考え込んでしまった。
そんな彼に海と陸は顔を見合わせると、店員を呼んで椅子を持ってきてもらい、一緒の席について貰った。
私の目の前に腰掛けたカイルアは、考えをまとめるように無意識なんだろう、私の足を人差し指で上げたり下げたり握手をする動きをしたかと思えば、頭から背中へと何度もゆっくりと撫でてくる。
なんとなく海の方から冷気が漂っていて、ヒンヤリとした空気にぶるりと体を震わせる。
しばらく黙ったままのカイルアを余所に、注文したフルーツの盛り合わせのデザートが出てきたので、海と陸はマイペースに食べ始めた。
時々私にフルーツをカットしたものをくれるのでモグモグと食べる。
半分くらいフルーツが無くなってきたところで、カイルアが口を開いた。
「還り人が二人現れたのは知ってる?」
『あ、うん』
じっと静かに澄んだ青い瞳が特に感情を乗せるわけでもなく、淡々と小声で話し始めた。
その時海が緩く手を振るとシン……と周囲の音を遮断した。
「音声遮断したから、普通に話してくれてもいいよ」
それにカイルアは軽く会釈をすると私に視線を合わす。
「現れたのは、十代後半の女性二人だったよ。お互いは知り合いではなかったみたいだけど、俺達が来る間に友人になったそうだ。一人は淡いピンク色の髪に緑の瞳。もう一人は金茶に黄緑の瞳で二人とも獣化が出来ていた。ピンクは犬種で金茶は猫種」
そこで言葉を区切る。少し躊躇いがあるのか、青い瞳がどこか揺れているように感じた。
「金茶の女性は特に落ち着いて状況を把握しようとしていた。神殿に行くまでも、いろいろ質問はされたが、もう一人よりは冷静に対処しようとする姿があった」
また沈黙してしまったが、そこで海が尋ねた。
「ピンクの女性は、貴方の様子を窺うにあまり宜しくない?」
チラリとカイルアは海の方を見て瞬きすると頷く。
「ああ。俺達が到着し、彼女達を保護した時から、ピンクの女性はずっとアッシュを見ていて、側を離れなかった。それに平然とアッシュの腕を触ったり、寄りかかったりしていた」
ああ……両サイドの怒りがコワイ。
ピリピリと二人の怒気が漏れ出てる。
カイルアは特に気にした様子もなく状況説明をする。
「だが不思議なのが、それをアッシュが拒まないことだ。ああいうのはアイツが一番嫌うことなのに」
それを聞いて意外なのが、私の心があまり痛んでいないこと。一瞬、チクリと刺すような痛みが来たけど、思ったほどダメージを受けていない。
「キーファとも話したが、こちらから言ってもアッシュに自覚がなかった。どこか心ここに非ず、という状態だった。よく見るとアッシュもピンクの女性を目で追っていた」
うーん。これ、まさかのまさかじゃあ。
私からその女性にツガイがシフトチェンジしたっぽい。
「神殿に着いてから、ミゲル神殿長に二人を頼んで、俺達は一旦引いたんだが。やっぱり様子の可笑しいアッシュの眼を見たけど、精神系の魔術に掛かっているわけでもなかった」
それに海が何かに気付く。
「そう言えば、貴方は精神系統の魔術解除に長けてましたね」
えっ!?そうなの??
「まあ、俺に合ってたから長じただけ」
何てことないようにカイルアはさらりとその話題を流す。
「そもそもツガイを決めた獣人が、異性に触れられる事を許す異常にキーファも訝しんでた。ただ、今朝アッシュに会った時、ルティアがどうしてるのかを聞いたんだが、助かったことだけ話してそれ以上は何も言わなかった」
「助かったことは分かってるんだ、彼」
海が刺々しく言うと、意に介した様子もなくカイルアは頷く。
「その後、南方に戻ってると思っていたのに、邸にはいないと言われた」
まあ、ずっと東方にいたしね……。
こっちにも音沙汰無かったし。
「南方の当主はその事について何か言ってたの?」
「いや、何も言っていない。どこか変な空気が漂ってたね」
当主の動向を海が尋ねると、首を横に振ってカイルアは無表情なりに困った様子が表に出ている気がした。
「キーファと俺は、君の行方が判明したから迎えに行く、と言われてたし、俺も同行する筈だった。それが第二の還り人が現れて確認するどころではなくなった。てっきり、もう南方に戻っていると思ってた。捜索中あんなに、ルティアの元へ突進しそうになっていたのを俺は何度も止めてたし」
自分を落ち着けるかのように私の頭を何度も撫でる。
……海の視線が痛いけど、カイルアさんのアニマルセラピーになってあげよう。
「……そう言えば、第二の還り人に会った瞬間から、こちらから尋ねない限りルティアの事を何も言わなくなった」
回想するように目を閉じて、ゆっくりと瞬くとカイルアは私と目線を合わせた。
「時折、頭痛がするのか顔をしかめることはあったけど、君の事は何も言わず、ほぼ毎日ピンクの女性の誘いには応じている。それに対し金茶の女性は、キーファに頼んで剣術習ってるよ。彼女の向上心は強くて、成果も上がってる」
あー、ますますフラグが乱立してるよー。
道理でこちらの申し入れも断られる筈だわ。
私の認識が可笑しくなってるから、アッシュのなかの優先順位がピンクになってる。あ、表現なんか笑える。
こりゃ、ピンクの女性は巫女。金茶の女性は戦士だろうな。
「ルティア、辛い?」
気遣うような優しい声でカイルアは問いかける。
『……。あ、うーん……。正直に言っても良い?』
頷くカイルアに私は首を傾けながら答える。
『あまり何も感じない。アッシュと一緒にいた時間が短くて、カッコいいなとは思ってはいても感情が育つ前に有耶無耶になった感じ。離れている時間の方が長かったし』
続きを促すように頭を優しく撫でてくれる。
『ちょっとは寂しいと思うけど、ツガイの認識が曖昧だったのが幸いだったのかな?ちょっぴり傷ついたけど、泣く程でもないかな?』
それを聞いてカイルアは少し寂しそうな表情をし、青い瞳はどこか申し訳なさで揺れているようだった。
「これから二人が幸せになっていく過程を見ていけるんだって楽しみにしてた。……でも、今のアッシュはどんな理由があろうとも君を幸せにできない」
キッパリとアッシュを批難するカイルア。
それに驚くと、うっすらと唇を歪めた彼に更に驚いた。
「ツガイというのは、互いの確固たる想いと信頼、そして生涯唯一無二なんだ。それが揺らぐことは獣人にとって致命的だ。己の獣性を疑わなくてはならなくなる」
ふう、と息を付くとカイルアは淡く微笑む。
「ルティアはこの世界に来たばかりだから、獣人としての自我も薄いのは当然だ。だからこそアッシュは君をツガイとして認識した時点で責任を背負い、全てを掛けて最後まで裏切らず守り慈しまなければならなかった。獣人のツガイは生涯ただ一人。それはこの世界の常識だ」
カイルアの謝罪にも聞こえるような切実な言葉に胸が痛い。
「それをアイツは破った」
その一言にカイルアの暗い思いがずしりと乗った。
「揺らぐ筈のないツガイへの想いを、獣人のツガイに対する敬愛を切望を……。一瞬でも歪めてしまったアッシュは……」
喉の奥から絞り出すかのように低くなる音は、暴れだす感情を無理矢理抑え込んでいるかのように聞こえる。
「ツガイを持つ資格はない」
重い判決を言い渡すかのように、カイルアはそう言い切った。
ギュッと両目を強く閉じ、次の瞬きの瞬間にはいつもの落ち着いたカイルアへと変わっていた。
なんと言って良いか分からず口を噤む。
「だから、ルティア。君は責任も罪悪感も抱く必要はない」
優しく諭すようにもう一度ルティアを撫でると、海と陸に向かって礼を言った。
「ありがとう、俺の話を遮らずに最後まで聞いてくれて」
「いや、話してくれたことには同意する部分もあるし、状況も知りたかったから有りがたいよ」
お互いに視線を交わし、薄く笑うと軽く握手をした。
陸にも頭を下げるとカイルアは立ち上がり、最後に一言言って去っていった。
「今日は偶然だったけど、話せてよかったよ。それじゃあ」
立ち去るカイルアの背中を眺め、はぁぁぁーと大きな溜め息を付くと、海がクスクスと笑う。
「やっぱり異常事態が起きてたね」
海がニヤリと笑うと、陸が私と同じ様に大きな溜め息をつく。
「あの人、物静かなのに威圧の強いこと強いこと……」
『えっ?そうだったの??』
髪をかき上げた陸はヤレヤレと頷き、残っている果実を食べ始めた。
「さすが特殊精鋭になるだけあるね」
『そうなんだ、私全く気付かなかったよ』
「ははっ、茉白は鈍ちんだから、滅多なことでは分からないじゃない?」
『えぇ~』
面白そうに陸は笑うと、プスリと刺した果物を海と私に向けた。
「海、頑張りなね」
「茉白は魔力操作の勉強頑張ろうね」
果物を口に運ぶと楽しそうに陸は笑い続けていた。それに対し、海は沈黙したまま一点を見続けている。
なかなかヘビーなことをカイルアは話してくれたが、還り人の立ち位置が決まるのは、今日の四方公爵会議にて結論が出るのだろう、か。
そんな疑問を感じつつ、私達は外出を楽しんで夕方には帰宅したのだった。




