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それから、これから

◆アシュレイside


ルティアが行方不明なり三週間以上が過ぎていた。

西に向かったと聞き調査隊を向かわせたが、拐った犯人は複数で動いたらしく、怪しい馬車は四方向へと散っていた。一台は東へ向かったと思わせて、真逆の西へ向かい、他二台は東西から北と南へ分かれていった。残りの一台が時間差で東へと向かった、その差を狙った一台がルティアを乗せていたらしい。

最後の馬車は東の深海の森、通称・破棄の森に向かったとその後の足取りで分かった。

その役目をしていた御者を探すのに時間が掛かり、上手く身を潜めていたため、捕縛するまでに三週間以上掛かってしまった。


捕まったのは鳥族の梟の男で、ずっと森で子と身を潜めていた。

ただ、発見した時、彼が抱く子供は痩せ細り、息を引き取っていた。その後、丁重に子供を弔い、男を捕縛したが特に抵抗することなく自分の罪を認め、自白していた。

依頼者には直接会わず、決められた場所に手紙を置き交換することで連絡を取り合っていた。

男の動機は明かで、子のためだった。助かる見込みもないが、しばらく生き長らえることの出来る薬と引き替えにしたそうだ。取引していた手紙も、読んだらその場で燃やす事を条件にしていたため残っていない。

他の御者達も理由は似たり寄ったりで、生活に困っていたために引き受けた、と言うものばかりだった。

雇ったもの達も種族が様々で、巧妙にやったようだ。連絡のやり取りも同じだったため、背後関係が全く掴めないままだった。


破棄の森にルティアを捨てたと聞いた時は逆上して危うくその男を殺しかけた。

しかし、東の鳥族に掛け合ったところ、ルティアらしき少女を警備隊の者が救助、その後身元確かな人物に彼女を預けたことが分かった。

そこにたどり着くまでに三週間以上を要した。


東の公爵家に問い合わせると、彼女は無事に過ごしていると聞いたが、そこが華人の住む館と聞き頭が真っ白になった。

しかし、話をよく聞くと、華人の付き人として過ごしているだけで客を付ける事はなかったと、改めて返答を貰った時はカイルアに留められて正解だった。

危うく種族間問題に発展するところだった。

ツガイの事になると冷静さを欠いてしまう。


だがそこからまた話が展開していて、どうやら東の公爵の孫息子がルティアを保護していると連絡が入った。

彼個人が所有している土地にいると。

そこはかなり強固な結界が施してあるらしく、東の公爵ですら入り込めないらしい。

孫息子は一族の中でも最上位の魔法師で、また騎士でもあると聞く。

ましてや鳥族である彼の巣作りの場所には容易に侵入出来ない。彼らの暗黙の掟で、巣作りされた場所には当人の許可がない限り入ることは禁忌となる。

もし無断で入ったら、どうなろうと一族は関与しない。

それはどの種族が立ち入ろうとも適応される。

そのため、東の公爵に間に入って貰う手筈になっている。


取りあえずルティアが無事であることがわかり安堵した。

誘拐を示唆した背後関係をキーファの部隊に探って貰い、カイルアと東方へと向かうことで準備を進めることになった。当主の母上には自分の婚約者の事だからそっちで解決しろと言われた。

まあ、手助けはして貰えるようだが、様子見をするみたいだ。

一族全体の問題ではないため、何かあれば家族で対応、と言う感じか。母上は静観する構えのようなので、こちらで好きにさせて貰うことにした。


兄と姉は心配していたが、経過報告をすると、協力は惜しまないと約束をして貰えた。

今回の黒幕が誰なのか、全く掴めないなかなので、使えるものは使うつもりだ。


ルティアが行方不明になったことについては、おおっぴらにしていないため、知っているのもごく一部だ。

グレイを筆頭に冷静に対応したのが功を奏した。あまりよい話題ではないため、拡散は宜しくない。

知っているのは、こちらの家族を含めた一部の者、そして東の公爵家の一部。


それと、以外にも大物が保護していたので余計に捜索に時間が掛かってしまったのもある。


彼が認識阻害の魔石をルティアの周辺に散らしていたため、上手くこちらも撹乱された。おそらく彼女にもさりげなく渡していたのかもしれない。訳ありだと彼が察知したのか、彼の大切な人を守るために用意周到に準備したのかもしれない。あの人は彼女の事となるとおかしくなるからな……。


まさかの壁が立ちはだかった為、時間が掛かった。

彼にも連絡を取ったら、大爆笑からの謝罪だった。

こちらはやきもきしていたのに、「悪かったな、訳ありのお嬢さんだと思っていたが、俺の大切な人に何かあるとキレるからな。ガッツリ認識阻害くらいしても良いだろう、と思ったことが裏目に出たな」と。

それにこうも言っていた。

「素性を知られたくないような素振りをしていたから、本人が助けを求めるまでこちらは待とうと彼女とも話し合ったんだよ。いい子だったから、彼女も気に入って俺も妹みたいに思ってたから気が済むまで過ごして貰うつもりだったし、戻りたくなければウチで預かっても良いと考えてたしな」

楽しそうに語った御仁は、取りあえず身元が分かってホッとしたよ、とそう締め括った。


彼には後日御礼を兼ねて伺う予定だ。あの人も大切な人には時間を無理矢理空けるが、身辺は騒がしいのでこちらと予定がなかなか合わないのが難点だ。

自由なあの人の事だ、まあ、なんとかなるだろう。


そうしてようやくルティアに会える日が整い、こちらの日程調整を始めたのだが……。


ここで思わぬ事態が発生し、まさかのあり得ない事象が起こるなど、誰にも想像が付かなかった。

そして、自分自身が信じられなくなるなど……。





◆ルティアside


衝撃的な話を聞いてから一夜が明けた。


あまりに濃いぃ~内容だったため、脳のキャパが爆発しそうだった。


二人は私をそっと見守る体勢になり、海はアッシュに一報を告げるため、正式な書状として出すから一旦東方公爵にお願いしてくると今朝方そちらへ向かった。


お願いする、と言っていたから、そんなに気軽に頼めるものなのかと陸に聞いたら、これまた驚きの事実が!


なんと、海は東方公爵当主の孫らしい。

陸はその当主の娘の子供。双子だと言っていたから、一人は本家に残り、もう一人は嫁いでいった。だから従兄弟。


わあ……、二人ともお貴族様だったんだ。と引いていたら、この獣人世界の階級について、前の世界での知識の五爵位のものと捉え方が違うようだった。


一応、この五爵は獣人世界でも階級を示してはいるが、実はこれ大昔にはなかったものらしい。


この国には獣人だけでなく、遥か昔には人間と交流までしていたそうだ。

そこまでの歴史をまだ習っていなかったからビックリした。

獣人、人間との間に亀裂が入ったのは、中央地区の神殿長・ミゲル様が話してくれた『天族乱獲事件(勝手に命名)』に事を発しているそうだ。


その事件をきっかけにして、徐々に人間との不和が生まれ、最終的に大きな山脈、ちょうど獣人と人間の国を分け隔てていた山を境界線に大規模な魔法陣を展開し、こちら側・獣人の住む場所に入り込めないようにした。


それらを展開したのは、当時の東西南北を治めていたトップの実力者達らしい。(歴史には英雄と記されていて、その血脈を受け継いでいるのが現在の筆頭公爵家だそうだ)

その魔法陣には魔石が組み込まれ、定期的に神殿がメンテナンスを行って、現在まで効力を維持している。


何百年も昔の装置なのに維持しているのがスゴい。


その魔法陣には、人間がこちらに来ようとすると迷子になり、最終的には彷徨い死ぬか、再び人間の住む世界に戻ってしまうらしい。

彷徨った果てに死ぬこともあるのに、未だにこちらに侵入しようとする輩がいると、神殿側の調べで分かっている。


なんてチャレンジャーな。クレイジーな人間はやっぱり一定数はいるんだなぁ……。


で、その人間との交流の名残で、実力主義なのは変わらないけれど、明確な階級を設けた方が統治しやすいのでは、との話がされ五爵位が継続している。

各爵位の筆頭から始まり、それに帰属していない種族、部族もあると言う。一般市民がそれにあたる。

だからと言って、前知識の程の厳しい階級ルールやマナーがあるわけではなく、実力を示す身分を便宜上五爵位で表し使用している状態だそう。


確かに教えてもらったマナーは、社会で生きていくための必要な礼節、って感じだったなぁ。

貴族用語があるわけでもなく、貴族特有の変な上下関係のやり取り、マナーもなかったし。


そんな感じだから、緊張する程の身分制度ではないと、陸は笑って教えてくれた。


難しい言葉遊びをしなくてもよさそうだ。

ラノベの貴族の女社会は、貴族的な婉曲な言葉の意味や裏の意味を考える必要があって面倒くさそうだった。


そんなの出来る人がやれば良いのよ、と陸は笑い飛ばす。

言いたいことはストレートに話せば良い、と。


それで特に問題もないそうだ。

ありがたやー。


いろいろと陸と話しているとあっという間に時間が過ぎる。昼の時間になり、陸が簡単に摘まめるものを作ってくれて、それを摘まみながら海を待っていた。


昼過ぎになり、海が戻ってくると、公爵と話してすぐにアッシュと連絡が取れたそうだ。

一週間後にこの東方にやってくると返答がきたそうで、私を心配する返事だけで、特に怒っている様子はなかったと言われた。

そのやり取りは、各当主が所有する通信鏡を使ってアッシュを直接見たらしく、そんな表情だったよ、と海が教えてくれた。


怒ってなかったと聞いてホッとした。心配かけたのは本当に申し訳ない。


翌日にはルシア姉さんから連絡が届き、ジルさんから話が通っていたらしく、東方公爵のもとにいるのなら安心した、という気遣いの言葉と共に返ってきた。


海と陸の祖父にあたる東方公爵には、明後日顔合わせをすることになった。


私もいちおう鳥族になるので、歓迎をしてくれているらしい。

ご年配のお偉いさんに会うのは、得意ではなく緊張するから、イヤだなぁ……。


そうして前の日に面会する用のおめかしを海と陸が大喜びで準備をしてくれた。所詮鳥なのにどこにオシャレする必要があるのだか……。




時は流れ当日、やっぱりキリキリする胃を抱えながら、海と陸に首に繊細な銀色のチェーンと宝石が散りばめられたネックレスを付けられた。


鳥なのに……なんか派手じゃない??

孔雀じゃないんだから……。


ウンザリとした私を肩に乗せた海と共に、馬車に揺られて公爵家に向かった。陸は別件があるので一緒に行けなくてごめん、と言っていた。


「茉白、緊張し過ぎ」

クスクスと柔らかく微笑む海の横顔を見て、キッと睨む。(鳥顔だから睨んでいるように見えんのだろうなぁ、と思いつつも睨み付けてやった)


『当たり前でしょ!今世の海のおじいちゃんに会うんだよ!』


この世界での海の家族に初対面なのだ、大切な友人だからこそ失敗出来ないから、ますます緊張してしまう。

鳥の小さな心臓がバクバクと鳴る。

ふー、ふーと息を吐いていると、ふふふっとくすぐったそうに海が笑う。


「くすぐったいよ、茉白。大丈夫だって、うちの爺様は厳つい顔してるけど、自分の害にならない限り危害は加えないから」

『えっ!排除認定されたら、殺されるってこと!?』


真っ青になり両翼で口許を押さえるとチィィッ!と悲鳴がでてしまう。

それに海はきょとんとすると瞬きをする。


「被害妄想酷すぎだよ、茉白。そもそも俺と敵対するつもりなの?」

『まさか!!』

「だったら大丈夫。俺が大切にしている子だと話してあるから、手出しはしないよ」

『大切に……って、友達説明でいいじゃん。なに伏線引いた話してるのよ』


バッサバッサと彼の頬を叩くとそれにダメージを受けた感じもなく、嬉しそうに笑っている。

そうこうしているうちに、馬車は門を潜った。整った花壇や所々バランスよく植樹された木々が、南方公爵家に負けず劣らずの豪勢な庭を彩っていた。

その先に見えるのは、幅のある尖塔の屋根がいくつもあり、その間を線のようなものが橋の様に繋がっている。

形としてはドイツのノイシュバンシュタイン城に近い。


よくよく目を凝らしてみると、その橋には何羽かの鳥が羽を休めている。

うん、普通の鳥サイズじゃないモノが止まり木にしてるよね、どう見ても……。


南方公爵家とまた違った雰囲気を持つ東方公爵家に、ようやく着いた。そこで待ち構えていたのは、これまた美形な男女だった。

その背後には執事とメイドが待機している。


ゆっくりとエントランスに馬車が止まると、御者に開けられた扉から優雅に降り立つ。


目の前に立っているのは、藍色の髪をゆったりと結い上げた美しい人は、海の女性版とも言える程色合いがよく似ている。

その隣で無表情ながら冴えた美貌を持つ男性。

どう見ても海の両親だ。


ひぃィィ~と海の肩でのけ反りそうになりながら、何とか踏ん張る。

無表情だった海の父親は口の端をくっと引き上げて笑みを作ろうとしているのは分かるが、こ、怖い。


「よく来た、還り人、ルティア。歓迎する」


少し長めの銀髪を緩く後ろに上げた髪型に琥珀色の瞳がよく似合い、海の父親とは思えない程、若く見える。

母親の方も海とよく似たラピスラズリ色の大きな瞳をゆるりと柔らかく細め微笑んでいる。彼女も子供がいるような歳に見えない。


「初めまして、ルティア。ゆっくりしていってね」


海の父親の無表情さからくる冷ややかさは、彼女のゆったりとした話し方とふわりとした温かさで相殺され、バランスのよい夫婦として感じることが出来た。


二人の前に海は立つと軽く挨拶をして、今日の用件を述べていた。

カチーンと固まってしまい、ろくに挨拶を返せないまま硬直していると、海が優しく撫でて話し掛けてくれた。


「ルティア、爺様はすぐに会えるって。……?ルティア??」


ピクリとも動かない私は、海に初めてこちらの世界の名前で呼ばれてもピンとこず、反応が遅れた。


『チー……』


何故か鳥の鳴き声で返答をしてしまう。

くいっと片眉を器用に上げた海が、肩に乗る私を手のひらへと移動させた。

両手の親指でゆっくりと額から背中、両翼を優しく撫で付けると顎下を摩る。


「おーい、茉白。戻ってこーい。緊張し過ぎだって。まさか俺のルティア呼びに慣れてないからかな?」

『……ハッ。そ、そうだね、それもあるね。今まで茉白呼びしてたのに、海にこちらの名前で呼ばれると違和感が……』

「なるほど」


彼は軽く頷くと、ちらりと両親の方を見た。

視線を戻すともう一度頭を撫でる。


「分かった。じゃあ、俺はこれからもこの世界(ルティア)の名前ではなく前の世界での名前、茉白の方で呼ぶよ」

『え?いいの?』

「うん。大丈夫。愛称だとでも言っておけばいいよ」

『そう?』

「俺と陸だけは、茉白の名前で呼び続けるよ。たぶんこの世界の人では、あちらの世界の名前の発音は難しい筈だから。あと正確に名前を呼べる人はほぼ居ないから」

『そうなの?』

「音としては聞こえているだろうけど、変な発音になるだろうね」

『へぇー。やっぱり異世界って、日本語の名前は呼びにくいんだ』

「似たような音の言葉はあるから、それに近い発音にはなるだろうね」


と、二人で話し込んでいると、軽く咳払いの音が聞こえた。二人して前を向くと少し呆れたような表情をしている海のお父さんとニコニコ笑っているお母さんがいた。


「話し込むのは構わないが、義父が待っていると思うぞ


促すように私達を誘うと海もそれに伴って歩きだした。


「ごめん、父上。でも爺様は待たせとけばいいよ」

「あらあら何を言うの、あなたがルティアを紹介すると言ってから、お祖父様、ソワソワと落ち着かなそうだったわよ。今朝もいつもより早く起きて精力的に仕事をこなしていたから、今日の業務は既に終わらせたんじゃないかしら?」


ころころ笑うと海のお母さんは楽しそうに言った。


厳格らしいおじいさんは、まさかの待ち体勢だった。


海は呆れたように息を吐くと、上着のポケットに私を入れると優しく撫でた。


「茉白、緊張し過ぎて肩から落ちると困るから、ポケットに入ってて」

「チィー『はーい』」


左右に開けたメイドや侍従の真ん中を通って、前を行く執事の人が先導するようだ。

広いエントランスを抜けて中央の階段を上がり、右に曲がるといくつかの部屋の扉が続いていた。


ひっろ!

公爵家ともなると、どこも広大な土地に大きな邸を建てるんだねぇー。象徴と威厳を示すためかな?

でも、南方と違って廊下にはあまり装飾品が飾られていない。


中程まで進むと、ひときわ大きな扉の前で執事が止まると軽くノックをした。


「ご当主様、お約束の方がお見えになりました」

「入れ」


すぐに中から応えが返ってきた。

執事が両扉を開けると静かに会釈をし、海の両親が中へ入っていき、続いて海も入る。

部屋の中央には応接間としてソファとテーブルのセットがあり、その奥に濃い飴色の執務机がドンと存在感を示し、そこには椅子に腰掛け腕組をしている初老の男性がいた。

濃藍色にうっすら白髪が混じり厳めしい顔をしており、深緑の瞳は睨んでいるようにつり上がっていた。


え?睨まれてるじゃん……。


ガクブルすると、振動が伝わったのか海がポンポンと叩いて落ち着くように合図した。

ちらりとこちらを一瞥した当主様は、最後に入室してきた執事に合図を送ると茶器を用意し始めた。


それを合図に一礼した海の両親と共に、海も軽く胸に左手を当て会釈をするように挨拶をすると、ソファへ移動し各自着席した。


執務机側の三人掛けのソファに当主様が。当主様から向かって左側の一人掛けに海の座り、当主様向かいの三人掛けのソファに海のお母さんと私達が座った。


目の前に紅茶らしき温かい飲み物と、軽く摘まめるお菓子が用意される。

海がちらりと両親を見て軽く頷く二人を確認すると口を開いた。


「爺様、約束通りにルティアを連れてきたよ。さあ、茉白挨拶どうぞ」


そう言ってポケットから私を取り出すと、両手で覆いながら目の前のテーブルにゆっくりと乗せてくれた。

テーブルを歩くとカチカチと足の爪があたる音を響かせ、緊張MAX状態の私は壊れかけのロボットのような動きで、当主様の前で止まった。


『チッ……。は、初めまして。ルティアと申します。訳あって当主様の御孫様にお世話になることになりました』


ペコリと頭を下げて、判決を待つが如くの罪人の気分で目の前の刺すように見る海のおじいさんに視線を合わせた。


ひぃぃ~。絶対睨んでるよ~海~。


ピキッと硬直してしまう。時間が静止したかの様にシンとした空気に包まれる。その時カチャリと海のお母さんがカップを手に取り普通に飲み始めた。それを皮切りにお父さんも海もそれぞれ好きなように動き始めた。

すると、空気が漏れるかのような呟きが聞こえそちらを見やると、当主様が口許を押さえこちらを食い入るように見ていた。


『!!』

「……か、かわ」

『……ん?』


首を傾げると、捕獲されるかのように一瞬にして当主様の両手に包まれ目の前まで抱えあげられた。

あまりに一瞬のことで目を白黒させると、突然頬擦りされて悲鳴を飲み込んだ。


「なんて可愛いんだ!!これは!」

『へ?』


未だに頬擦りされながら摩擦で禿げそうになり、この状態なんか前にも同じことされたな、陸に。と思い出すくらいには冷静になれた。


さすが血縁。似たような行動するなぁ……。


緊張も一週回って平常心を取り戻すと、頬擦りから免れようとバサバサと翼を動かし抗議をする。


「チーッ!!『離してー』」


パシパシと羽根が顔中に当たっているのに、気にした風もなく頬擦りを続ける当主様。

もう離して~。


「お父様?」


柔らかい問いかけなのに、どこか刺すように冷ややかさのあると言う絶妙な威圧感を発している。

それにビクリと肩を微かに揺らした当主様は、ピタリと動きを止めると、何事もなかったかのように私をテーブルに下ろしてくれた。

また捕まらないように海の元へ行くと、彼は可笑しそうに笑いつつ、小さな皿にお菓子を細かくして置いてくれた。側にはいつの間にか小皿に入った果実水が準備されていた。

ドッと疲れてちまちまとお菓子をつつくことにした。


「うん、すまんな。つい可愛すぎてやってしまったよ」

「限度というのをお考えになってね、お父様?」


これまた麗しい微笑みで海のお母さんは当主様を見る。


「彼女が南方の倅の婚約者か。還り人だと聞いている」


食べていたお菓子を中断し、当主様を見やる。


『はい、そうです』

「誰かに拐われ、西方のジルベルトに保護されてたと」

『はい、彼に助けられて、ルシアさんと言われる女性の元にいました』

「ああ、それも聞いた。ミディルカとリュイの友人だと聞いたが、還り人である君といつ知り合ったんだ?」


あ、そこは口裏を合わせてなかったぁぁ~。


思わず口ごもると海は私の頭を撫でる。


「実は彼女がルシアさんの所にいる時に知り合ったんだ。爺様、トルトイの街にある華人の館知ってる?」


あ、嘘と真実を混ぜて話してるけど、この口裏、陸は知ってるのかな?


「ああ、知ってるとも。そこで出会ったのか?」

「うん、そう。それから通って、仲良くなったんだ」

「そうか」


仲良く……?まあ、あの飴色配達の小鳥の大半が海の仕業だったのかもね……。

いつもより、小鳥の飛んでいる数がちょっと多いかな?とは思ってたし。

通っていたと言えば通っていたと言えるのか??

でも、懐かしい飴がたくさん食べられて嬉しかったけど。


「でも彼女、魔力が安定していないから獣化がとけなくて、こっちで保護することを相談して決めたんだ。同じ種族の方が解決法見つかると思ったし、リュイとも仲良くなって意気投合したんだ。だから、こちらに連れてきたんだよ」


これまたスラスラと言葉が出てくるなぁ……。


海の両親と当主様はそうなのか、と納得しているようで良かった。

これに前世やら、私とは前の世界ではガッツリ親族付き合いもあった人物だと言うことを話すと、神様とかの話も出さなければならなくなるから、そこは割愛だ。


「南方の倅には連絡が付いているから、4日か5日後にはこちらに到着予定だ。南方が後見となっているが、同種族のこちらが後見となることも出来るぞ?」


あ、それは正直迷う……。

こっちには海と陸がいるから。


「それは良いですね、爺様。是非ルティアの後見人になってあげてください」

「分かった、南方の倅が来たら提案してみよう」

「よろしくお願いします」


にこやかに海が返答すると、どこか胡散臭い笑みに見えるのは私だけかなぁ……。


そこからは家族の差し障りのない会話で終わり、面会は筒がなく……ちょっとびっくりしたけど、終わったことにホッとした。

ただ、あの鋭い瞳でどこか名残惜しそうに見つめられていたのにはちょっとドキドキしてしまった。



それから2日後、突然昼の空にキラキラと金色の粉が舞ったように煌めく。

とうとうやって来たのだ、新たな還り人が。


結局、アッシュに会うことのないまま、彼らはまた特別精鋭部隊を編成し、聖霊樹の元へ行ってしまった。

私はそのまま海達がいる東方で生活を続けた。

海の情報によると、現れた還り人は女性二人だったそうだ。


今世紀初めて還り人が三名になったことで、緊急に四方公爵家による会議が開かれることとなった。

保護先は中央神殿預かりとなり、その後誰が後見人にあたるのかを協議することなる。


それと同時に少しずつ海が話していた障気について、各地域で出始めたのもあり、それについても話し合うことになったそうだ。


周囲の慌ただしさとは関係なく、私は海の家でのんびりと過ごしていた。


何故かアッシュに会いたい、という焦燥感に苛まれることなく、普通に過ごしていた私はやっぱりどこか可笑しくなっているのだろうか。


そんな気持ちを抱きながら、ついに四方公爵協議が開かれる日がやって来た。

全くアッシュに会うことのないまま二週間以上が過ぎ、当主様・ガルレイ様と海、陸と共に中央神殿へ行くこととなった。


結局、獣化が解けないまま行くことになっちゃったんだけどね……。

はあ……複雑。アッシュは私と分かってくれるのかな。


複雑な気持ちを持ちつつ、とうとう中央へ発つのだった。

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