61 俺はあのおっさんをもらうからな!
「まさかとは思うが、俺達の勝負を断ろうって言わないよなあ?」
「おっさんが尻尾巻いて逃げるなんて、みっともないぜ?」
「女の子一人も守れないような奴が、でかい顔するんじゃねえぞ?」
「悔しいからって、母ちゃんに泣きつくなよ?」
しまった。いきなり退路を断たれてしまった。
これでは何を言っても、俺が情けないおっさんだと思われてしまう。
ミユ達はそう思わないだろうが、俺にも世間体とプライドはあるのだよ。
「……仕方がない。勝負を受けよう。だが、俺が勝ったら、絶対にお前達をパーティーには入れないからな?」
「心配するな。俺達は絶対に負けない。そう、絶対にだ!」
「流石はリーダーだぜ!」
「なんという豪胆さ!」
「俺も見習いたい!」
こいつら、他にパターンは無いのかよ。
「それで、どんな勝負をするんだ?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれた! お前達は最近この周辺を騒がしている盗賊を討伐しにきたのだろう?」
男達のリーダーがそう言うと、野次馬達が静まり返った。
恐らくだが、盗賊達の話は一種のタブーとなっているのだろう。
一応は誤魔化しておくか。
「そのつもりは無かったんだがな。仲間の商人の護衛でケンベルナの町にきただけだ」
「隠す事は無いぜ? 俺達も盗賊の討伐を狙っている。他の奴らは怖じ気づいて、そうでも無いらしいがな!」
リーダーが周囲を見渡すと、他の冒険者達が気まずそうに視線を逸らしている。
「という事は、どちらが先に盗賊を討伐できるかの勝負なのか?」
「おっさん、話が早くて助かるぜ。その通りだ。丁度お互いに四人だ。人数のハンデは無いだろう?」
人数でどうにかなるって勝負でもないだろうに。
仕方がない。このまま勝負を受けておくとしよう。
「分かった。それでいつから始めるんだ?」
「今からだ! じゃあ俺達は行くぜ!!」
「流石はリーダーだぜ!」
「なんという行動派!」
「善は急げだ!」
あっという間に出て行ってしまった。
なんか色んな意味で凄い奴らだったなあ。
妙に感心していると、三人娘からの視線に気づく。
「えっと、なんかすまん。勝手に話を進めてしまった」
「クラタんは気にすることは無いにゃ」
「そうです。あそこで引かなかったソウジ様は素晴らしいです!」
「ですが、万が一負けたら私達はあの変な四人の男達の物になってしまうのです。おとうさん、責任重大ですよ?」
うう、エーシャの言葉が重い。
「冗談ですよ。どうせ、あの程度の実力なら何もできませんから。相手の力量を測れないなんて、遅かれ早かれ退場する運命です」
辛辣にも程があるな。思わずあの四人に同情してしまいそうになる。
お茶で乾いた喉を潤していると、成り行きを見守っていた冒険者に話し掛けられた。
「あんた達、例の盗賊団を討伐する気かのか? 悪い事は言わない、やめておいた方がいい……」
「そうよ。私達の仲間も随分とやられちゃってるんだから。獣人の子なんて、捕まって帰ってこないんだよ! きっと今頃、奴隷にされてしまってるかも……」
次々にやめておいた方がいいと止められてしまった。
そんなに被害が出ているのか……。
「さっきも言っただろ? 俺はCランクなんだ。大丈夫だって」
「たかがCランクじゃないか! 相手は元Aランクが四人もいるって噂だぞ!?」
「そんなのは最初から承知だ。……困っている人達がいるのだろう? だったら、誰かがやらないとな」
少し恰好をつけすぎただろうか。
心配する冒険者達が黙り込んでしまった。
「心配してくれるのは嬉しい。俺だって、伊達におっさんじゃないよ。ちゃんと対策は考えてるさ」
これ以上、長居は無用だ。
三人娘にアイコンタクトを送り、ギルドを後にする。
流石に目立ち過ぎだ。あの中に盗賊の手下がいたら、かなりマズいぞ。
「えへへ。クラタんがかっこよかったにゃ~」
「ソウジ様が輝いて見えました!」
「流石はおとうさん、さすおとですね」
君達、そんなにおだてないでくれるかなあ。
年甲斐もなく調子に乗っちゃうぞ。
「冗談はさておき、あの対応で良かったと思いますよ」
「エーシャ、それはどうしてにゃ?」
「あの場に残っていても、大して情報は入らないですし。それに私達の情報は十分に広まったでしょう」
「それでは盗賊達に警戒されてしまうじゃないですか!」
「それが狙いですよ、フィルデさん」
「そうか、盗賊達をおびき寄せる罠か。流石エーシャだな」
「うふふ、あの四人の冒険者達はいい囮になってくれそうです」
えげつないなあ。
恐らくだが、四人組の冒険者が盗賊の討伐に立ち上がったとの情報が出回る事だろう。
そして、あいつらも四人組だ。勘違いされるだろう。
「だけど、あの四人の動きなんて把握できないだろう?」
「そこはご心配なく。既に居場所を把握できる魔道具を彼らに取り付けておきましたから」
いつの間に……。エーシャは普通に盗賊稼業にも向いてるんじゃないか?
「ささ、私達も改めて情報共有と討伐の準備をしましょう」
「その前にお昼ご飯にゃー」
「ああ、唐揚げとハンバーグどちらにしましょう……!」
このお嬢さん達は、本当に緊張感ってのが無いのだろうかねえ。
そんな訳で、昼食を堪能した後に準備を整えて町の外に出た。
うかうかしていると、日が暮れてしまう時間になっている。
「エーシャ、あいつらの反応はどうなってる?」
「いい感じですよ。盗賊多発地帯に向かっています」
「多発地帯なんて場所があるのか?」
「ほら、この地図を見てください。こういう街道で難所と呼ばれる場所が大体そうです」
エーシャが示した地図を見ると、道が狭まっている場所やカーブで見通しの悪い場所だな。
確かにこんな場所で襲われたら、身動きが取れない。
だからと言って、安全を優先して遠回りするには費用と時間が掛かり過ぎる。
商売にはリスクが付き物と言うが、中々に厳しい。
「じゃあ、アタシ達も出発にゃー」
「活躍して、ソウジ様に褒められたいです!」
本当に緊張感が無いね、君達。
「それでは、この荷車を引いてください」
エーシャが腹部の謎ポケットから、数人は乗れる荷車を取り出した。
荷台には何かを積んでいるらしく、シートが被せられている。
「なんでこんなのを引くんだ?」
「一応、私達は商人とその護衛ですよ? 忘れたのですか?」
「そりゃまあそうだけど、今回は別に必要なくないか?」
「保険ですよ。あの四人組が囮になって引っかかってくれればいいですけど、そうでなければ、私達でおびき寄せないといけません。商人が荷を引いていれば、寄ってくる確率が高まります」
「ふむふむ、エーシャは頭が良いにゃ!」
「そのような作戦があったとは! 目からウロコです!」
二人とも大絶賛である。
「そんで、一応聞くけどさ。この荷車は誰が引くんだ?」
一斉に三人の視線が俺に集まる。
まあそうなるよなあ。
「べ、別に私が引きたくないからではありませんよ?」
「アタシは咄嗟に身動きが取れないと困るからにゃ! ホントにゃ!」
「仮に私が引いていると、知らない人が見たら、ソウジ様が虐待しているように見られてしまいますからね。仕方なくですよ!」
そういう事にしておきますかね。
街道で荷車をゴロゴロ引きながら歩く。
俺も地道にレベルを上げているので体力的に問題無いのだが、魔導力車でけん引してもいいんじゃないかと思ってきた。
「なあ、初日で見つかると思うか?」
「どうでしょう? あの四人組は順調に先へ向かっていますよ」
「周囲の警戒はアタシ達に任せるにゃ」
「ソウジ様は荷車を引くことだけに集中していてください」
一応、俺は探知魔法が使えるんだけどなあ。
せっかくやる気になっているミユとフィルデ達の気分に水を差さないよう黙っておく。
「さて、ここが第一の多発地帯ですよ」
エーシャが辺りを見回すが、人っ子一人も見当たらない。
旅人や隊商も避けているのだろう。
「ここはハズレみたいにゃ」
「先程の四人もいなさそうですね」
そんなこんなで、第二、第三の多発地帯も何ごとも無く通り過ぎ、とうとう第五の多発地帯を目前にするところまでやってきた。
俺の探知魔法が前方に反応を示している。
「エーシャ、あいつらの反応はどうだ?」
「四人とも一ヶ所に固まっていますね」
休憩しているのか、それとも盗賊達と戦っているのだろうか。
俺の探知魔法だと、結構な人数の反応なんだよな。
「うにゃ、いよいよアタシ達の出番にゃ?」
「元パーティーメンバーだか知りませんが、盗賊は討伐をしないといけませんね」
ミユはガントレットを両腕に装備し、フィルデはガイラさんからもらったドラゴンの爪剣を抜き放った。
俺もいつでも戦えるように心の準備をしておく。
「さあ、何食わぬ顔で行きましょうか」
エーシャも中々豪胆だよな。相手はAランクの元冒険者達だぞ。
今の俺なら正攻法で勝つのは難しいかもしれない。
そのまま荷車を引いて、カーブを曲がり切った先にあの四人はいた。
四人は手足を縛られて地面に転がされている。
早速捕まってるんじゃねえよ。
盗賊達は二十人程はいるだろうか、下卑た笑いを受かべてこちらを見ている。
「お、こいつの言う通りに本当にきやがったぜ。運が良かったな。少しだけ命拾いしたぜ?」
転がされている四人組のリーダーを踏みつける男がニヤリと笑う。
まるで俺達を待ち構えていたみたいだな。
「おとうさん、あいつら私達がここに来る事を喋ったみたいですね」
「命乞いって事か? 俺達が追ってこなかったら、どうするつもりだったんだろうな」
四人組は猿ぐつわをされてるので、何を言っているのか分からないが、必死に何かを訴えている。
多分、助けを乞うてるのだろう。
「クラタん、あいつら悪者にゃ?」
「露払いは私にお任せください!」
俺が何も指示しないうちに、ミユとフィルデが飛び出していく。
君達、少しは警戒しろよな。
「上玉の女だ! 高く売れるから出来るだけ無傷で捕まえろ!」
「ヒャッハー! 今夜はお楽しみだぜ!」
「獣人の泣き叫ぶ声は興奮するんだよなー!」
「俺はあのおっさんをもらうからな! ペットにしてやるぜ!」
ちょっと待て!
何故この状況で俺を狙うんだよ!?
「うふふ。多様性の時代ですよ、おとうさん」
エーシャのやつ、他人事だと思いやがって……!
「おい、あいつエルフじゃないか!?」
「うわ! 胸の無いエルフは勘弁だわ!」
「俺も洗濯板は趣味じゃねえぞ!」
エーシャは盗賊達のお眼鏡にかなわなかったらしい。
その当の本人はというと……。
「失礼ですね! 私はハーフエルフです!! エルフだからって胸が大きいと思わないでください!! むしろスレンダーなのが普通だったんです!!」
ブチ切れながら、盗賊達を殴り飛ばしていたのであった。




