~発見。脱衣。解決。~
「だからさー早く脱げって言ってるの?日本語わかる?」
僕の予想は当たっていた。ただそれが良くないものということも含めて。
普通科の3階の空き教室から人の気配と話し声がした。
ノックもせずに無言でドアを開けるとそこには男性3名に囲まれてうずくまっているユリアさんが居た。
特に乱暴された形跡は見当たらない。ギリギリ間に合っただろうか。
教室の隅ではお盆とコップが散乱しており、ドリンクも零れてしまっていた。
「あ?誰お前」
教室に入ってきたのに1人の男性が気づき、その声を聞いてユリアさんも僕の存在に気づいたようだ。
「・・・ひぐっ・・・と、灯華さん・・・」
「もう大丈夫です。遅くなってごめんなさい」
立つことができないのかユリアさんは這って僕の元へと来る。
僕はしゃがんで彼女をそっと抱きしめて耳元で囁く。
「助けに来ました。ここは私がなんとかしますので先に教室へ戻っていてください。皆さん心配してましたよ。助けはいらないのでユリアさんの無事を皆さんに伝えてきてください」
顔を泣き腫らして・・・こんなひどいことなんで・・・。
「で、でも・・・」
「私は大丈夫です。ユリアさんが逃げたら私もすぐに逃げますから」
無言で頷いた後、ゆっくりと立ち上がったユリアさんは教室から駆け足で出て行った。
「何勝手なことしちゃってるわけ?お前が代わりに相手してくれんの?」
「えぇ、私でよければ」
相手は素人3人・・・。問題ない。体術の訓練はみっちり受けてる。3人くらいならなんとか・・・。いや、僕が今ここで暴力事件を起こすのはまずいか。
となるとやはり逃げるしか・・・。
「へへ、じゃあ早速脱いでくれよ」
なんて下賎な目をしているのだろう。同じ人とは思えないし、こんな下品な人がいるとは思わなかった。
「早く脱げって言ってんだよ!」
「う゛っ・・・ゲホッ」
いきなり蹴られると思ってなかったので綺麗に鳩尾に入ってしまった。情けない。訓練なんて久しくやってなかったから相当鈍ってしまってる。
落ち着け。状況的には僕のほうが不利だ。
騒ぎにならずこの3人に去ってもらう方法・・・。
「結構可愛い顔してるし優しくしてやっから安心しろよ。もしかして処女か?」
いや、処女も何も男だし・・・あ、これだ
「じゃあ脱ぎますね」
もうこれしか思いつかない。
ゆっくりと僕は立ち上がり、それからメイド服を一気に脱ぎ、まずは上半身裸になる。
「あ?」
3人組は僕の胸を見て絶句する。
当然だ。僕は男なのだから胸があるはずもない。
「パンフレットをご覧にならなかったのですか?女装喫茶ですよ。下も確認します?」
スカートをガバっと持ち上げると3人とも顔が真っ青になっていた。
スパッツを脱ごうとすると1人が舌打ちをした。
「ちっ、萎えたぜ」
「だな・・・パチンコでも行くか」
「クソが」
帰り際に4、5発殴られたが構えていれば耐えられないことはない。
「ふぅー」
とりあえずなんとかなって良かった。
顔は覚えたし文化祭が終わった後で警備員に報告しておこう。
とりあえず服を着てみんなのところに戻ろう。
ユリアさんは大丈夫かな。あんまり遅くなると心配かけそうだし早めに戻ろう。
「灯華さん!」
「あ」
着替えている最中に教室に椿さんが飛び込んできた。
空手の段持ちだから助けに来てくれたのかもしれない、がタイミングが悪すぎた。
乱れた服に殴られた形跡、他の人が見たら暴行された後にしか見えないだろう
「灯華さんっ!」
「おわっ」
勘違いをしたであろう椿さんが僕に抱きついてきた。
「遅くなってしまってごめんなさい。辛かったですよね。すぐにお風呂に行って、その後病院へ行きましょう」
「あの、いえ大丈夫でしたから。ちょっと殴られただけなので」
「うん、大丈夫よ。わかってるから。心配しないで、私が居るわ」
あーどうしよう。一難去ってまた一難だ。
とりあえず僕は椿さんに無事ですという伝言を頼み、2階の更衣室に来ていた。
今日はここは立ち入り禁止なので1人でゆっくり休めた。
「いたっ」
殴られた時に口の中を切ってしまったようで、水を飲むと痛みが走った。
痕にならないといいなー。
鏡を見ると右頬が赤く腫れてしまっていた。
持っていたハンカチを水で濡らし頬に当てる。
とりあえずなんとかなって良かった。ユリアさんが暴行されるよりはるかにいい。
ただもっと上手く解決する方法は絶対にあったはず。きっと柚希様やヘレーネ様ならこんな風にはならずに解決できただろう・・・。
もっと精進しないとだな
「災難だったな」
一休みが終わり、さて戻ろうかと思った時、更衣室に柚希様が来た。
「みんな心配してたんだが、灯華のことも考えて1人で来た。大丈夫か」
「えぇもう大丈夫です。ちょっと殴られただけですし、男ですから」
「うん、それはわかってる。でもあまり無茶はしないで欲しい。君は確かに使用人だが、私の大切な友人でもある、友人が傷つくのは悲しいからな」
「ご心配をおかけしました」
柚希様は僕の化粧ポーチを持ってきてくれたようだ。
それを受け取り赤くなってしまっている部分をごまかす。
「とりあえず交代の時間になったからいつものメンバーは7階で休んでるよ。ユリアは特に何もされてなかった」
「そうですか・・・間に合って本当によかったです」
「本当によくやってくれた。騒ぎにもなってないし、クラスの出店が中止になることはなさそうだ。君はきっとそこを心配してくれたんだろ?」
「はい、せっかくの文化祭ですから、中止になったら悲しいじゃないですか」
「うん、そうだな。でも次からは自分の体を最優先にしてくれ。私もこんな思いはもうしたくない」
「わかりました。僕ももう殴られるのは嫌ですから」
「ん、ちょっと化粧が濃くなったがこれで赤くなってるのは誤魔化せてるな。とりあえずみんなと合流しよう」
「はい、そうですね。やっぱりユリアさんが心配です」
女の子なのに人気のないところに連れ込まれて男3人に囲まれてたんだ。トラウマになってもおかしくない。
僕たちは非常階段を使い7階まで上がる。
7階は特別教室の生徒が優先で仕えるサロンになっていて、個室も用意されているのでたぶんそこにいるのだろう。
柚希様は一番隅の個室の前まで案内してくれたので中に入る。
中では神林様とヘレーネ様、椿さんとユリアさんがいた。
「あ、トーカ。大丈夫でしたか?」
「はい私は特に何もされてませんから。ユリアさんは大丈夫でしたか?」
ユリアさんは膝を抱えてうずくまってしまっていた。
「ごめんなさい灯華さん、私のせいで・・・」
「ユリアさんは何も悪くありません。第一私もすぐ逃げたので大丈夫でしかたから。気にしないでください」
僕はポケットからユリアさんが落とした髪ゴムを取り出しそっとユリアさんの手に握らせる。
「連絡通路にこれが落ちてたんです。これがあったからユリアさんを見つけることができました。あの日ユリアさんがくれた物と同じデザインの物です。お揃いのやつですよ」
僕は手首に付けていたあの日貰った髪ゴムで髪を後ろに1つでまとめる。
「灯華さん・・・」
ようやく顔を上げれくれたユリアさんは受け取った髪ゴムで自分の髪をくくった。
「お揃いですね」
「はい、昨日の夜に自分の分も出来たんです・・・。ありがとう灯華さん」
「大切な友人ですから」
それから20分ほど休憩し、ようやくユリアさんもいつものように戻ってくれた。
「そういえばお昼がまだでしたわね」
ヘレーネ様に言われて気がついた。そういえばまだお昼ご飯を食べてなかった。
「適当に何か買ってくるからちょっと待ってて」
神林様が個室から出て行ったのを見て、ヘレーネ様と柚希様、それから椿さんも追いかける。
僕とユリアさんも立ち上がったが柚希様に静止させられる。
「2人はそこで待ってろ、すぐ戻るから」
そう言ってみんな行ってしまったのでサロンには僕とユリアさんの2人きりになった。




