~発表。終幕。勧誘。告白。~
「さて、私たちのシフトはこれで終わりだし、どうする?」
昼食の後、僕たちは今後の行動に付いて話し合っていた。
「この人混みの中を歩き回るのはもう懲り懲りですわ」
「うん、私もできればあそこはもういいかな」
そこで僕はあることを思いついた。
「ならホールはどうでしょうか。生徒は投票できませんがどれくらいお客様が居るのか気になります」
「そういえばそうですわね。私のグランプリは揺るがないものとしてもどれくらいの賑わいなのかは気になりますわ」
「・・・まぁいいさ。どうせ今日の文化祭が終わった頃には結果がわかるんだ」
「思ったより展示数が多いのですね」
僕たちはホールの2階で下の展示会の様子を眺めていた。
同じ考えなのか、ほかにも何人かの生徒が2階のギャラリーで休憩していた。
「ざっと50くらいだな」
「これだけのなかから選ばれるのは名誉だ。しかも今回、私の絵はヘレーネの隣にわざわざ置いてもらったんだ。直接対決だな」
「あら、そうでしたのね。結果が楽しみですわ」
こうやって2人のように互いに認め合える人がいるというのはとても良いことだと思う。
競う相手がいるからこそ得るものも失うものもあるのだろう。
ただそれが2人にとって良いことであるのは間違いないし、そのために僕も出来る限りのことをしたいとは思う。
ただ、僕はずっと彼女たちの側にいることはできないし、正体がバレれば絶縁されてもおかしくない。
そんな考えを一瞬持ってしまったのが原因なのだろうか、ポケットの携帯が震えていることに気がついた。
メールではなく、電話だということに気がついた僕は、相手が相手だったのですぐにその場から離れて人気の無い場所まで行き、通話に出る。
「突然の電話でごめんなさい。どうしてもあなたに緊急で伝えなければならないことがあったの。今時間は大丈夫?」
「はい、今でしたら大丈夫です美羽さん」
そう、電話は妹の長光美羽からだった。
「今日、柚希のところで文化祭があるでしょう。もしかしたらそこに次男家の長女が行ってるかもしれないの」
「次男家というとゆりさん?」
戸籍で言うなら僕の父の弟の娘、ということになる。
「えぇ、どうやら出資者に次男の隆道様が関わっているようで、どうやら隆道様の代理として訪れているみたいなんです」
「わかりました。情報ありがとうございます」
「いえ、それは構わないです。ただ向こうはあなたの顔を知りませんし、ましては女子高、あなたが居るなんて露ほども思ってないはずですから、気を付けれいれば大丈夫なはずです。じゃあ切りますね。私も急いで電話したので忙しいんです」
それだけ言うと電話は一方的に切れてしまった。
どうやら急いでいたようだが、助かった。
長光ゆりさんか・・・。たしか今は25歳だから僕の姉にはなる。まぁ気づかれないとは思うが念には念を入れておこう。
一応従姉弟なんだし。
『ただいまを持ちまして、文化祭の全日程を終了とさせていただきます。ご来場の皆様は正面玄関よりご退場くださいますようお願い申し上げます。またお帰りの際にはお忘れ物なきよう十分ご注意ください』
16時になり、校内放送が流れて文化祭が終わった。
「お疲れ灯華」
「ありがとうございます」
結局あの後はユリアさんに振り回されるような形で色んなところを回り、最後はクタクタになりなんとかサロンにたどり着いたような感じだった。
僕は柚希様からパインジュースを受け取って飲む。
「とても美味しいです。ありがとうございます柚希様。私のために」
「・・・なんで私が作ったってわかったんだ?」
「秘密です」
『展示会に出展した生徒につきましてはこの後、総評と最優秀賞の発表を致しますのでホールに集まってください』
「じゃ行こうか。最優秀賞もらいに」
「はい!」
僕たちはサロンを出てホールへと向かった。
「柚希!ここですわ」
既に他の4人が揃っていて、席も確保してくれていたようだ。
「どうして最前列の右端なんだ・・・」
席が自由に選べるとき、柚希様は必ずと言っていいほど目立たない場所を好む。
「どうせグランプリは私たちの中の誰かですから。すぐに壇上に上がれる場所にしたのですわ」
これには神林様も苦笑い。
「本日はお疲れ様でした。大きな事件も起きることなく無事に終わって一安心してます」
学長が壇上に上がり、総評を述べる。
「まぁ今日は皆さんお疲れだと思うので私の話は短めにして早速各種表彰に移りたいと思いますので、あとは実行委員さんお願いします」
それだけ言うと学長は壇上から降りた。
「では続きまして展示会での総評を、来賓の長光さんよりお願いします」
一瞬頭が真っ白になった。落ち着け。一番前だから顔を合わせる可能性もあるから動揺を見せるな。
来てるというのを聞いていたからなんとかすぐに立て直せた。
肩まで伸びる真っ黒な髪を揺らしながらその女性は壇上に上がった。
猛禽のような鋭い目つきのその女性は壇上のマイクの前に立ち、一礼をした。
綺麗すぎて怖いという感情が心を支配する。
まるで彫刻のように冷たい笑顔を見せた彼女は一言、こう言った。
「クソばっかりだった」
会場がざわつき、横の実行委員が驚愕する。
「私が観る価値があった作品は片手ほどしかなかった。今回、グランプリに選ばれた作品は才能溢れる物だという確信はあるが、このようなクソに囲まれて変な影響を受けなければいいなという不安がある」
そして彼女は右手の指を4つ立てる。
「よかったと思える者は4名いた。名前だけをあげさせていただく。神林霧架、井能真澄、ヘレーネF・ヴァルデック。成川柚希。この4名については良かった。それぞれ自分の世界観を持ち、それを表現できるだけの技術もある。ただまだ若いがゆえに浅いところもある。君たちはもっと色んなところへ行き、色んなものを見て、感じて、そしてできれば’恋’をして欲しい。そうすればもっと良くなるはずだ」
よかった。友人の3人とも名前が上がって嬉しい。
「そしてグランプリだが、あくまで一般客の投票だし、私は審査に一切関わっていない。それを踏まえて聞いて欲しい。それじゃあ発表する」
実行委員がゆりさんに賞状を渡す。
「今回の最優秀賞は--神林霧架、君だ」
歓声と共に拍手が会場に響き渡る。
「おめでとう」
「まぁ今回は負けを認めますわ。おめでとうキリカ」
「ありがとう。行ってくるよ」
神林様は壇上に上がって賞状を受け取る。
「素晴らしい作品だった。おめでとう」
「ありがとうございます」
横目でチラっと確認すると柚希様は壇上の神林様に向けて笑顔で拍手を送っていた・・・。
でも僕にはその笑顔が少し悲しそうに感じた。
「では続きまして・・・」
表彰も終わり、文化祭も全日程が終了した。
「これより有志による後夜祭を行いますので、是非参加してください」
解散となり、帰宅する生徒と後夜祭に参加するため校庭に向かう生徒に分かれた。
僕たちも後夜祭に少し顔を出そうということになり、ホールを出ようとしたところで思わぬ人物から声が掛かった。
「成川さん、少し時間いいかな」
その人物は先ほど壇上で総評を述べた長光ゆりだった。
「はい?なんでしょうか」
「少し話がしたいんだ。10分ほど付き合ってくれないか」
「えぇわかりました。彼女は使用人なのですが付き添いで呼んでもいいですか」
「あー・・・。うん。構わないよ」
どうしよう。今更断れないし、付き添うしかないよな・・・。
できるだけ顔を見ずに印象に残らないように接しよう。
「じゃあ先に行ってますわね」
ヘレーネ様たちは先に校庭へと向かった。
先程までの喧騒が嘘のようにホールは静かになる。
残っているのは僕たち3人だけ。
「で、用事というのは一体なんでしょうか」
「・・・単刀直入に言おう。君をスカウトしようと思ってね」
「スカウト・・・ですか」
「うん、今回の展示会、どう考えても君の絵が一番だった。あれほど希望と生命力に溢れた作品を初めて見た。神林って奴も良かったが君には到底及ばない」
友人を悪く言われたためか柚希様の顔がムっとする。
「ですが今回は一般客に投票してもらうというものでしたので大衆向けを描くべきだった。テーマなどに合わせて描くことができるのも力の内だと思いますが」
「はははっ。いいね。やっぱり君がいい」
ゆりさんは獲物を見つけたタカのような目つきになる。
「私、実はこう見えてもデザイナーグループの代表をやってるんだ」
そう言って彼女が取り出したのは一枚の名刺。
「卒業後は是非私たちのところに来て欲しい。もちろん退学して今すぐ来てくれるのがベストなんだが」
名刺にはここ数年で一気に有名になったクリエイターグループの名前があった。
「色々部門があってね。CGから音楽から色んな才能を持ってる人を集めてる。君の絵に惚れた。給与と待遇だって良いものを用意する。どうだろうか」
その名刺を受け取った柚希様は名刺を僕に渡す。
「ありがとう。まだ受賞歴の無い私を評価してくれるのは嬉しい。ただ私は絵で金設けをする気がない。自分の好き勝手に描くのが画家だろう。それで商売をしようと思うと欲が絵に混ざる。もちろんそれが悪い事だとは思ってない。ただこと私に関しては自由気ままに描いてたほうが良い出来になるから」
自分のポリシーじゃない。そう断った柚希様に対し、ゆりさんは小さく笑った。
「ん、そっか。じゃあしょうがない。ただ私たちはいつでも歓迎してるから。何かあったら連絡してね」
「すまないな。灯華、名刺」
僕はカバンから柚希様の名刺を取り出す。
「はい、こちらです」
僕はゆりさんに柚希様の名刺を渡す。
「随分美人のお付を選んでるのね。いいわー私も美人のメイドが欲しいな」
「当家自慢のメイドだ」
「尾上灯華と申します」
僕の事への話題になってしまったのでとりあえず挨拶だけする。
しまった。早めに柚希様にゆりさんが長光一家の人だと伝えればよかった。たまたま同性の人だと思っているだろう。
「てかあなた、どっかで会ったことない?」
「申し訳ございません。私の記憶にはございません。長らく海外で生活していましたので、お会いしたことはないと思います」
「ふーん。海外かーどこ?」
なんでこんなに聞いてくるんだろう。もしかして僕の正体に気づいているのか?
「あまりうちのメイドの個人情報を聞かないでもらいたい」
「あーごめんごめん。なんとなく知り合いに顔が似てるなーって思ったけど、よく考えたらそいつ男だし」
息が止まった。
「こんなに可愛らしいお嬢さんが男なわけないしね。そもそもここ女子高か」
「友人を待たせてるしそろそろ失礼しますよ」
「あーごめん。そうだったねじゃあね。いつでも連絡して」
僕と柚希様はホールから出た。
「美羽の親戚!?」
柚希様には僕が長光一家ということだけは伝えずに美羽さんの従姉妹ということだけを伝えた。
「美羽に使えてた君と面識があったんじゃないのか」
「直接お会いしたことはなかったはずです・・・たぶん」
「念のため警戒しなくてはだな・・・。うかつだった。長光と聞いた時点で気づくべきだったな済まない」
柚希様が腕組みをして人差し指で腕をトントンと叩く。最近気づいたが、これは柚希様が考え事をする時のクセだ。
「私こそお伝えせずにすいません」
「いや、あの状況で伝えるのは無理だった。今回に関しては私の落ち度だ。まぁどうせもう会わない人だし・・・名刺渡しちゃってたな」
「はい・・・」
「まぁ向こうから連絡が来ても流せばいいし、もし会うことになっても藤田でも連れてくさ」
そうだな・・・。どうせもう会わないだろうし関係ないか。
「遅かったですわね」
校庭の中央ではキャンプファイアーが行われており、男女混ざってフォークダンスを踊って過ごす人たちもいた。
そういえば普通科は共学だっな。
棟が違うので会うことがほとんどないのですっかり忘れていた。
「灯華さん!私と踊りませんか!?」
座っていたユリアさんが立ち上がって僕の手を握る。
「一度こういうのやってみたかったんです」
「えぇいいですよ」
僕はユリアさんと手を繋いだまま輪に混ざり踊る。
「1、2・・・おっとっと」
「わわ、すいません」
「いえいえ」
最初の一週目はユリアさんに踊りを教えながらだったため、何度か足を踏まれてしまったが、2周目になると慣れたようですっと踊れるようになった。
「本当に凄いですね。フォークダンスまでできるなんて」
「ユリアさんだってすぐにできるようになったじゃないですか」
そして3周目に差し掛かったところでユリアさんがくるりと反転する。
ちょうど僕と向き合う形になったユリアさんは真っ直ぐに僕を見つめる。
「私、灯華さんのことが好きです」
「私もユリアさんが好きですよ」
「うー」
ユリアさんが言いたいことはわかる。だから言われないような方向に持って行きたかったが。
「憧れ、羨望、最初はそんな感じだったんです。でも最近は灯華さんと話してると胸がドキドキするんです。これって恋って言うんですよね」
「いえ、違います。それはきっと愛なんです。聖書を読んだ事はありますか?」
「ないです」
「それは友愛というものです。恋とはまたちょっと違うものです。第一私は女ですから。ユリアさんとの恋は成立しません」
「ぬー。そうなのかな」
「えぇ、だからユリアさんも素敵な男性を見つけてくださいね」
「はい・・・あー灯華さんが男性だったらよかったのに」
「仮に私が男性だったとしてももっと良い男性がいっぱいいますから」
「でも灯華さんより素敵な方なんていないと思いますよ」
「じゃあユリアさんはどんな人がいいですか?」
「うーん、優しい人でー・・・。」
良かった。どうにか逸らせた。
その後、僕たちは楽しく2周したところでみんなのところに戻った。
「ユリアだけずるいですわ。私とも踊ってくださいな」
「かしこまりましたマダム」
僕はそっとヘレーネ様の手を握ってエスコートする。
「あら、男性役もできますの?」
「はい、エスコートは任せてください」
「じゃあお願いしますわね」
その後、ヘーレネ様と4週、柚希様と3週も回った僕はもう疲れてしまったので、今日はもうお開きにしようということになった。
「じゃあまた週明けに」
神林様を乗せた車は走り去って行った。
「疲れてるとこ悪いが最後の仕事だ」
「はい、お任せ下さい」
うー。車の運転やだなー。
この4人の中で運転できるのは僕しかいないからしょうがない




