幼女王の花都(8)
「魔晶石一つで夢が叶うはずだった——しかし、世界はいつも代償を求める。」
幻惑の花都エンヴィリアの玉座の間では、いつものように静かな時間が流れていた。
幼女の姿となった魅惑の女王リリアーナは、銀色の短い髪を揺らしながら、玉座に座っていた。
彼女の隣では、侍女長シルフィーナが幸せそうに微笑み、リリアーナの小さな手を握っていた。
リリアーナはようやく我慢の限界を迎えた。
「シルフィーナ。」
小さな、しかし精一杯低い声で呼びかけた。
シルフィーナは目を細めて答えた。
「はい、女王様。何なりとおっしゃってくださいませ。」
リリアーナは幼い手を振り払い、玉座の上で背筋を伸ばした。
足が床に届かないまま、できる限り威厳を込めて言った。
「もう十分だ。
お前はいつまで私をこのような姿で可愛がり続けるつもりだ?
頭を撫でるな。頰を突くな。おんぶするな。あーんなどするな。
私は四天王だ。魔王軍を支える一翼である。お前のような侍女に、毎日のように玩具のように扱われてたまるか。」
シルフィーナは少しも動じず、むしろ嬉しそうに目を輝かせた。
「まあ……女王様の怒ったお顔も、とても可愛らしいですわ。」
リリアーナの小さな眉がピクッと動いた。
「聞いているのか、シルフィーナ。
私は命令しているのだ。
今すぐ私の冠を外す方法を探せ。元の姿に戻す方法を探せ。
それが出来ないなら、せめて私を一人で歩かせろ。一人で食べさせろ。一人で風呂に入らせろ。
これ以上、私を……この姿で甘やかすな。」
シルフィーナは優しく膝をつき、リリアーナの視線の高さに顔を近づけた。
「女王様……申し訳ありません。
でも、こんなに小さくて柔らかくて、声も可愛らしくて……
どうしても、守ってあげたくなるのです。
元の絶世の美女に戻られたら、また私は遠くからしかお仕えできなくなってしまいます。
今だけ……もう少しだけ、このままでいてくださいませ。」
リリアーナは小さな拳を握りしめ、精一杯の怒声を上げた。
「シルフィーナッ!
私はお前の玩具ではない!
四天王リリアーナだ!
もう一度言う。私の命令を聞け!」
しかし出てきた声は、結局幼い高音のままだった。
シルフィーナは目を細めて微笑み、リリアーナの頭をそっと撫でた。
「はい、わかりました。
……でも、まずはおやつの時間ですよ。女王様。」
リリアーナは小さく肩を落とし、ため息をついた。
幼い体では、たとえ叱咤しても、その怒りすら可愛がられる材料にしかならなかった。
今でもその玉座の間では、侍女シルフィーナが幼い女王を偏愛し続け、
リリアーナの小さな叱咤の声が、時折「可愛い」と受け止められるだけの日々が続いている。
「魔力の均衡は、決して保たれなかった。人間がそれを試すたび、世界は静かに、しかし確実に代償を回収した。」




