氷の沈黙都
「魔晶石一つで夢が叶うはずだった——しかし、世界はいつも代償を求める。」
魔王軍の西方前線を預かる四天王の一人、冷徹な「氷の侯爵」ヴェルガは、氷と闇の街「クリスタルヴェイル」を拠点にしていた。
人間界の魔晶石依存が激しくなっているのを知ったヴェルガは、ある日、自身の氷の魔力を凝縮して「完全氷結の宝珠」を作った。それは触れた対象を瞬時に凍りつかせ、魔力を封じ込める強力な道具だった。人間の軍勢を一網打尽にできるはずだった。
ヴェルガは満足した。これで西方の戦線は私のものになる。
配下の氷魔族たちは喜んだ。もう苦戦はない。
下級の雪狼たちは宝珠の冷気を浴びて咆哮した。
人間の捕虜たちは恐怖に震えた。
宝珠はすぐに前線に投入された。人間の騎士団は次々と凍りつき、魔導師の呪文は封じられ、西方の要塞はあっという間に落ちた。ヴェルガの名は魔王軍内で高く評価され、街クリスタルヴェイルは氷の勝利の象徴となった。
しかし、数ヶ月が過ぎた。
氷魔族の一人は、宝珠の冷気が自分の体にも染み込んでいることに気づいた。
雪狼たちは、凍りついた獲物を食べられなくなり、飢え始めた。
ヴェルガ自身は、玉座に座るたび、手足の感覚が少しずつ失われていくのを感じた。
やがて宝珠の氷結力は制御を超え、街全体を覆い始めた。建物が凍りつき、魔族たちは動けなくなり、ヴェルガの命令すら凍った唇から出なくなった。勝利の象徴だった街は、完全な氷の牢獄と化した。
ヴェルガは最後に、宝珠の中心に浮かんだ小さな文字を読んだ。
それは彼自身が刻んだものだった。
「完全氷結の宝珠はできる。しかし、四天王が自らそれを使えば、世界は本物の熱を十重に求める。偽りの冷たさは、頂点に近い者ほど均衡を失う。」
今ではその街は「氷の沈黙都」と呼ばれ、魔王軍ですら近づかなくなった。
「魔力の均衡は、決して保たれなかった。人間がそれを試すたび、世界は静かに、しかし確実に代償を回収した。」




