暴走の欠片都
「魔晶石一つで夢が叶うはずだった——しかし、世界はいつも代償を求める。」
灰の廃都グリムヴェールでは、下級魔物たちが人間の残した魔晶石の欠片を集めて暮らしていた。魔王軍の上層部は大きな魔力を使い、下級魔物たちは小さな欠片で細々と生きていた。
ある日、一匹の下級魔物——角の折れた小鬼は、古い人間の工房で「増幅の欠片」を発見した。それは小さな魔晶石の欠片に触れるだけで、周囲の魔力を少しだけ増幅し、下級魔物でも強い力を使えるように見えるものだった。
小鬼は仲間たちに欠片を分け与えた。
「これで俺たちも強くなれる。もう上級魔物に虐げられなくていい。」
他の下級魔物たちは喜んだ。
一匹は欠片を握り、炎を大きく噴いた。
一匹は欠片を飲み込み、走る速度が速くなった。
一匹は欠片を頭に載せ、重い石を軽々と持ち上げた。
廃都は活気づいた。下級魔物たちは欠片を使って廃墟を修復し、食料を集め、互いに競うように力を見せ合った。
「これで俺たちはもう下級じゃない」と、彼らは信じた。
しかし、数ヶ月が過ぎた。
最初に異変に気づいたのは、角の折れた小鬼だった。
欠片を握った手が、日に日に震え始め、炎が自分の体を焼くようになった。
他の魔物たちも次々と気づいた。
速くなった足は止まらなくなり、壁に激突して傷だらけになった。
力が増した体は重くなり、動くだけで息が上がった。
やがて増幅の欠片は暴走した。下級魔物たちの体は魔力に耐えきれず、互いにぶつかり合い、廃墟の中で暴れ始めた。強い力を持った者ほど早く崩れ、弱かった者も巻き込まれた。
灰の廃都グリムヴェールは、下級魔物たちが力を求めた代償として、静かに沈黙した。
今ではその街は「暴走の欠片都」と呼ばれ、上級魔物ですら近づかなくなった。
「魔力の均衡は、決して保たれなかった。人間がそれを試すたび、世界は静かに、しかし確実に代償を回収した。」




