幻王の廃都
「魔晶石一つで夢が叶うはずだった——しかし、世界はいつも代償を求める。」
王族の保養都市ロイヤル・セレナでは、王族たちが日々、優雅な生活を送っていた。高価な魔晶石で動く噴水や、自動で音楽を奏でる庭園が当たり前だった。
ある日、王太子は古い王家専用の魔導書から「ニセモノの王権」を生み出す儀式を見つけた。それは特別な魔晶石を使い、王族の血を少しだけ混ぜることで、周囲の者に「この人物こそ真の王である」と信じ込ませる力を持つものだった。
王太子は満足した。これで臣下の忠誠がより強固になる。
王妃は微笑んだ。宮廷の争いが減るだろう。
貴族たちは競って儀式に参加し、「王太子こそ真の王だ」と口々に言った。
街の商人たちは、王太子の姿を見るだけで税を喜んで納めた。
使用人たちは、以前より深く頭を下げた。
王太子は毎日、広場に立ち、優しく語りかけた。「私はここにいる。この国を永遠に繁栄させる。」
ニセモノの王権の輝きが広がるたび、街は忠誠と喜びに包まれた。保養都市はかつてない平穏と繁栄を見せ、人々は「この街は真の王のいる楽園になった」と信じた。
しかし、数ヶ月が過ぎた。
王妃は気づき始めた。王太子の言葉が、昨日と同じものばかりだと。
貴族の一人は、儀式の後で自分の忠誠心が本物か疑い始めた。
商人たちは、王太子の命令が現実の経済と合わなくなっていることに気づいた。
使用人は、頭を下げ続けながらも、足が震えるようになった。
やがてニセモノの王権の力が干渉し合い、王太子の周囲だけが常に「忠誠の幻」に包まれるようになった。臣下たちは現実の危機を無視し、王太子の言葉だけを信じ続けた。税は上がり続け、食料は不足し、防衛は怠られた。
王太子は最後に、古い魔導書の端に書かれた小さな注意書きを読んだ。
「ニセモノの王権を与えることはできる。しかし、王族が自らそれを使えば、世界は本物の不信を三重に求める。偽りの忠誠は、王の血と重なると均衡を保てない。」
保養都市ロイヤル・セレナは、偽りの王権に導かれながら、静かに崩壊した。
今ではその街は「幻王の廃都」と呼ばれ、誰も王族の血を誇ろうとしなくなった。
「魔力の均衡は、決して保たれなかった。人間がそれを試すたび、世界は静かに、しかし確実に代償を回収した。」




