冠の愚才都
「魔晶石一つで夢が叶うはずだった——しかし、世界はいつも代償を求める。」
王都に近い学園都市では、魔導学院の学生たちが日夜、魔力の研究に励んでいた。本物の才能ある魔導師は少なく、誰もが手っ取り早い力を求めていた。
技師Hは、以前エクスリアでニセモノの聖剣を、バリオンでニセモノの勇者を作った男だった。今度は学院の依頼を受け、「ニセモノの才能」を生み出す装置を完成させた。それは魔晶石と幻術を組み合わせた冠で、かぶった者の魔力を一時的に高め、知識や呪文を完璧に操れるように見せかけるものだった。
学院長は満足した。これで学生の成績が上がり、学院の評判が保てる。
教授は言った。優秀な弟子が育つだろう。
裕福な学生は冠をかぶり、講義で完璧な答えを述べた。
貧しい学生は借金をして冠を手に入れ、夜通し勉強したふりをした。
Hは工房で静かに微笑んだ。三度目のニセモノだ。これで自分の技術は完成に近づいたと。
街は活気づいた。試験の合格率は上がり、学院の発表する新魔法は次々と増えた。人々は「この学園都市は天才の街になった」と噂した。
しかし、数ヶ月が過ぎた。
教授は気づき始めた。学生の答えが、教科書と同じ文言ばかりだと。
裕福な学生は、冠を外すと何も思い出せないことに気づいた。
貧しい学生は、冠をかぶったまま眠り続け、講義に出なくなった。
学院長は冠の効果が薄れると、学生たちが一斉に混乱するのを見た。呪文は暴走し、実験室は破壊され、知識の幻が街中に溢れ出した。
Hは最後に、装置の内側に刻んだ小さな注意書きを読んだ。
「ニセモノの才能を与えることはできる。しかし、三度繰り返せば、世界は本物の無能を三重に求める。偽りの力は、重なるほど均衡を失う。」
学園都市は偽りの天才たちに満たされながら、静かに機能不全に陥った。
今ではその街は「冠の愚才都」と呼ばれ、誰も魔導の冠を近づけなくなった。
「魔力の均衡は、決して保たれなかった。人間がそれを試すたび、世界は静かに、しかし確実に代償を回収した。」




