可能性
「何故……こんなことをするのか答えてもらうぞ」
両手に魔術を展開させながら、同時に走り出す魔王ルーナと研究員代表、宮野景子。
風魔術で宮野景子の体勢を崩し、炎魔術で攻撃をするのだが紙一重でよけられてしまう。
常人の動体視力、ましてや現界人のただの人間が魔王ルーナの攻撃を見切っている。
多少なりと手加減しているというのはあったが、目を見開く魔王ルーナと俊介。
(特段容姿が変わっているわけじゃない。遺伝子レベルでいじっているのか?)
俊介は二人の戦いを目に焼き付けるように見ながら考察をする。
そしてそれは、ルーナも同様だった。
(上級魔術を見切られるとは思わなかったな。避けるのに精一杯って感じだけど奴は見えている)
やはり、魔界人を利用して自分達も魔界人同様の力を得ようとしている。
そして廃人となった魔界人はそのまま兵器として利用する。
なんとも人間が考えそうなことだ。
使えるものは全て使う。
ルーナの攻撃を避けた宮野景子は反撃するように手を尖らせ勢いよくふるいながら口にする。
「私達は何も得ず生まれた!未知の力を欲するのは自然の摂理だと思わないか!?」
「……っと。思わねぇな。お前らに与えられたのは平和だ。それで充分だったんだよ」
振りかざされた攻撃を避けながら答えるルーナ。
それに対して舌打ちをしながら両手を振りかざす。
「普通の人間はそうだろうね。でも私達研究員は違う。どうして三つの世界に別れ、それぞれ違う能力値を持っている。気にならないはずがないだろう?」
「そのために、魔界人を利用したのか?」
「そうさ!私達は長年の研究で導き出した答えがある!」
右手を振りかざし、それを避けたルーナだったがそう動くと分かっていたかのように回し蹴りをして地面をこすりながら飛ばされてしまうルーナ。
(動きを誘われたか)
当然だが、本気で戦えば一瞬で片が付く。
しかし、魔王ルーナは知りたかった。
どうしてこんなことをするのか。
そしてその先に出た答えを……。
宮野景子は両手を広げ、高々と宣言する。
「私達現界人は無限の可能性に満ちている!私達は何にでもなれる!」
「やはりそうか……天界でも同様の事が起きているが、サンプルを集めている段階」
「あっているが少し違う。天界は術の精度が極めて低い。まだ私達は整合性が取れない。だが魔力は違った!そしてそれを証明しているのが、お前なんだろう?」
指をさす先は俊介。
俊介はそれに一瞬動揺するのだが、ルーナは睨みつけながら口を開く。
「何故そう思った」
「私を欺けると思うなよ?もう私の中には魔界の血が混じってる。そこの青年は純潔の現界人……そして異常なほどの魔力質量を持っていると見た。そうなんだろう?」
あっている。この女の言っていること全て。そして研究成果もほとんど的を得ていることから、二人は何も言わず、それが肯定に繋がった。
「アッハハ!」と、狂気じみた笑みを浮かべながら魔王ルーナに襲い掛かる。
先程よりも薄く、鋭くなっている手を見ながら……ルーナは構えもしなかった。
そして、その手はルーナの胸部を貫く。
「……ッ!?」
「ルーナ!!」
俊介はもちろん、宮野景子本人も目を見開き驚いていた。
だが、ルーナは至って冷静。右手を俊介に向けて自分は大丈夫だと合図し、俊介の体は止まる。
どうして、と……思考した直後、ルーナは口を開く。
「天界より魔界の方がやりやすいって思われたのは癪だったが、お前らは無限の可能性を秘めていている。その通りだと思うぜ。」
「……ッ?!手が、抜けない!?」
どれだけ力を入れても、抜けない手。
ルーナは刺された直後、治癒魔術で体の内側を再生させていたのだ。
そして、怒りでも、睨みつけるような目でもない。普通の目を向けていった。
「こんな力が、お前らは恐ろしいと思わないのか?俺達は魔力を手にしている。だがそのせいで平和をてにするためにずっと戦ってきた。だがお前らは違う。争わなくてもいい世界に生まれたんだ。」
「……つく、知ったような口を!」
逆の手で顔面を刺そうとするが、左目の魔眼の力で身動きが取れなくなる。
どれだけ動かしてもピクリともしない体。
刺さっている手をスーッと抜き、治癒魔術で何事もなかったかのように完全治癒。
そしてさすがにやばいと感じたのか、ここで初めて宮野景子が冷汗を自覚する。
魔王ルーナは口を開き、手をポケットに突っ込みながら……魔方陣がルーナの体の前に現れる。
「お前らが欲している魔力、そしてその魔術と言うものがどういうものなのか身をもって知ればいい。」
何重にも重なってできる魔方陣。次の瞬間重なっていた魔方陣が宮野景子を囲い、その魔方陣からは様々な属性のボールが出現し、襲う。
その時のルーナの表情は、影が出来ていてあまりよく見えなかった。
だが、心の奥底では……やはり怒りをかっていた。
「……っく」
その場でバタン、と倒れる宮野景子。
ルーナはその場で佇み、天井を見上げる。
「終わった……のか?」
俊介が思わずそうぼやく。
終わっていてほしい。
生きていても、もう立ち上がらないでほしい。
倒れている宮野景子を眺めながら俊介はそう思っていた。
「お前らの思想は別にわるかねぇよ。許されないのはそれを俺らに無断でやったこと。事前に報告していたら何か変わったのかもしれないな」
ルーナは後ろを振り返り、進もうとしたところで……ザッという音が聞こえる。
「……ッ!?まじか」
「甘いわね。魔王様とあろうものが!」
振り返り、先程まで倒れていた宮野景子がふらつきながら立っていた。
それに驚く二人だったが、魔力を帯びていても瀕死寸前の技を撃った。
手ごたえもあった。
それなのになんだこの防御力は。
魔王ルーナはそう考えるが、これ以上動かせるとまずいと考えたのか……すぐに走りだす。
「……ルーナ!待ってください!」
何かを察したのか、俊介はルーナに待ったの合図を送るがもう遅かった。
宮野景子はにやりと笑みを浮かべ、ポケットからボタンを取り出しそれを押す。
直後……「ピッ」という音とともにその場いったいが重力にかけられ、ルーナの足元が開く。
一瞬の出来事だったので魔術の展開が間に合わなかったルーナはそのまま落下し、俊介からいる位置から50メートルほど落ちてしまった。
「ルーナ!!!!」
俊介は大声で名前を呼ぶが、微かに……魔力の意志共有で伝えられる。
『俺は大丈夫だ。すまねぇ。後は頼んだ。相棒』
俊介は拳に力を入れながら、頷き立ち上がる。
相棒。その言葉はルーナが俊介にしか書けない言葉。
俊介の事を心から信頼し、信用している証。
それに応えないわけにはいかない。
重力ももとにもどり、ボロボロの状態の宮野景子と俊介だけが残った。
宮野景子は手を耳に当て、俊介に聞こえない声量で研究員達に指示を出す。
「お前たち、暴れなさい」
「……っ!?何をした!」
「わざわざ研究員達は殺さない程度で気絶させているのだろ?すまないがこっちは本気だ。魔王がいなくなった今、あとはお前を殺すだけ!」
「……っく!」
構えを取る俊介と宮野景子。
おそらく研究員達に魔界人になるよう命じたと、予測する。
このタイミングということはルーナか俊介、どちらかを下に落下させる前提で戦っていたということ。
(そしてこの周りに気配が少ないということは、ルーナの方に魔界人になった研究員達が向かっている……あるいは待機しているということか)
どちらにせよ、好都合。
ルーナがいなくなった今、俊介はとあることをこいつに聞ける。
それに、宮野景子は俊介に対し大きな勘違いをしている。それを利用しないわけがない。
(こいつは魔力の質量が尋常じゃなく多い。だが先程の白髪の奴と比べれば怖くない!)
近接戦闘を仕掛け、殺す。
この時、まだ宮野景子も俊介も気づいていなかった。
「一瞬で殺してあげる!」
先程ルーナと戦っていた時よりも一段と早く、俊介に接近する。
「……ッ!?」
それを避け、右手を前に出し雷魔術を放出しようとするが。
体を回転させ蹴りが俊介に直撃する。ダメージは大したことない。
しかし、問題はそこじゃなかった。
「ほらほらどうした!受け身のままじゃ私は止められないよ!」
振りかざされる攻撃をよけ続け、反撃のタイミングを見ている俊介。
覚悟したはずだ。
それなのに何故、寸前でビビってしまうのだろうか。
初めての戦闘、初めての殺し合い自分の命に手がかかっているのは初めてだ。
やらなきゃやられる。
その立ち場にいて、どうして今更……。
(やはり!戦闘経験がない!やりやすい!)
スピードを上げる宮野景子。先ほどルーナから受けていたダメージを魔力で回復しているのか。
それともそもそもダメージをあまり受けていないのか。
その答えは分からないが、このままではまずい。
ここで死んでしまえば、ルーナに鍛えてもらった意味もなくなる。
それに、気になっていたことが聞けない。
俊介は振りかざされる攻撃をよけ、雷魔術をぶっ放す。
「……ッガハ……!」
青白い稲妻ではなく、青黒い稲妻が宮野景子の全身だけでなく……この研究施設にいきわたる。
間違いなく、今までで一番強い雷魔術。
何気ない初級魔術でこの威力。それも……稲妻の色が変化してしまう程。
宮野景子は稲妻を直で浴びてしまい、身動きが取れなくなってしまう。
「なに……その威力は……」
俊介はその問いに何も答えることはなく、ゆっくりと近づきながら問う。
「あんた、まだ隠していることがあるんじゃないのか?」
「……あ?」
何を言っているんだという視線を向ける景子。
俊介の目元に影があるが、明らかに怒りをあらわにしているのはひしひしと伝わってくる。
ここには、先日俊介が魔力をつけた男性。
自分の父親がいるというのは分かっている。
そしてその男は一定の位置から動いていない。
正確な場所までは分からない。魔界人や目の前にいる敵が魔力をまき散らしているせいだろう。
俊介の両手からバリバリと、稲妻を宿しながら……再度問う。
「一人の男性がいるはずだ。研究員じゃない。ただの一般人が。」
「……ッ!?」
あてずっぽうで言ったが、当たっていたらしい。
俊介の父親は少なくともここの研究員で働いていない。一般の人だと。
そしてまた一歩、近づきながら口を開く。
「その男は今どこにいる」
「ッハ!あいつは今気絶してるところさ!お前とあいつは何も関係ないだろう?」
身動きが取れないのにもかかわらず、宮野景子は余裕の笑みで俊介にそう言った。
俊介は視線を地面に向けて、一言……「そうか」とだけ言って青黒い稲妻を右手に集中させ、本気で殴る。
「……ッ!?」
その出来事は一瞬だったが、宮野景子にはこの瞬間だけゆっくり時間が動いているように見えた。
その理由は自分がピンチに追いやられているという状況だから……というわけではなく、俊介の表情と、大介の表情が偶然にも、一致してしまったからだ。
(まさか……そんなはずはない)
そう。そんなはずはないのだ。
14年前に捨てた子供が、尋常じゃない魔力を持ち、今こうして立ちはだかっている。
それがもし、本当なら……いや、あり得ない。あり得るはずがない!
もう自分の息子は消えた。
自分の思いをかき消すかのように、吹っ飛ばされながらも耐えて下半身のみ魔界人に変えて俊介を蹴り飛ばす。
「……グハッ」
俊介はその蹴りをもろに食らってしまい思いっきり吹っ飛ばされてしまう。
油断していたわけではなかったが、まさかの行動に驚き反応に遅れてしまった。
ズザーっという音を立てながら飛ばされ、一つの部屋の扉に体が当たってしまう。
そして、俊介はその部屋に人がいると瞬時に感じ取り、扉に背を向けながら立ち上がる。
◇
地下50メートル。ルーナはあたりを見渡しながら難なく着地する。
「結構降ろされたなぁ」
そんなことをぼやきながら自分が囲まれていると気づく。
一瞬でこの場所を破壊することもできるが、そんなことをすれば上にいる俊介や研究データが消失してしまう。
ルーナは頭を掻きながら独り言つ。
「ったく、ほんとにめんどくせーな。手加減しなきゃいけねぇってのは」
落とされたというイライラ。
あの女を殺せなかったというイライラ。
そして、研究員達が注射器のようなものをさし、直後そいつらは魔力を帯び、人間の姿から魔物の姿に変貌しているのを目の当たりにしてしまったルーナ。
「テメェらは魔界人じゃないから、確実に殺す。容赦はしねぇぞ」
全てのイライラをぶつけるように魔術を使用するルーナ。
決着は一瞬にしてついてしまう。
その注射器は試作品だったのか、言葉は話せずただルーナに襲い掛かってくるだけだった。
中には魔術を扱う魔物もいたが、怖いものはない。
全員の息が途絶え、スッキリしたかのようにルーナは微笑する。
そしてすぐに切り替え、上に行く方法を探す……が。
バリバリと上で俊介の魔力を感じるルーナ。
「ここまで届くって相当な威力だな。やるなシュン」
(それに、この研究員達は注射をさしたすぐに魔力を帯びて魔物に変貌していた。言語能力はなかった。)
ここまで考えれば自ずと答えは導き出されてしまう。
宮野景子はその完成形。
俊介を除き、おそらく現界人初……魔界人になった人物。
と、そこまで思考したところでとあることに気づいてしまったルーナ。
「あいつはこいつらみたいに魔物に変貌してねぇ……あの余裕の態度。そういうことだったのか!」
そう。まだ宮野景子には、もう一つの姿、進化が残っている。
これが仮に間違っていても、間違っていなかったとしても、ルーナは急いで上に戻らないといけない。
魔力を全域に広げ、場所を把握する。
俊介と宮野景子には気づかれない程度に広げる。
ルーナの頭上、50メートル先にはちょうど俊介と宮野景子がいる。
「ま、ちょっと力技だけど……このまま魔術で壊して上上るのが一番早そうだな」
両手に紫色の炎を発動させ、それを上に向けて破壊する。
これなら最速でいけそうだ。
魔術を防ぐ防魔術が施されているが出力をあげれば難なく壊せる。
現界人がつくる防魔術はたかが知れているというのもあるが構造が安直。
「父さんにはあれこれ言われてるけど、シュンを殺させないためには俺がいねぇと話にならねぇよな」
そうぼやきながら、次々と破壊し上に上がっていくルーナ。
実は、ここ現界に来る前……ルーナは大魔王サタンに単独で呼び出しをくらっていたのだ。
その内容と言うのは『ルーナは俊介が戦う戦闘で手を出すな』とのこと。
ルーナはしぶしぶ了承したが、大魔王サタンの言うことも分かっていた。
魔界全体で二人目の魔王として認識されている俊介だがまだ公にはしていない。
父親であるサタンは、この任務が終わり次第……正式に魔界の魔王として就任させると考えているらしい。
魔力の意識共有でやばくなったら知らせるようにと伝えているので、ほどほどに急ぐことに急遽変更。
「いつでも駆け付けれる距離にはいた方がいいよな」
そんなことを言いながら、徐々に上へと昇るルーナであった。
◇
ドンッ—————
部屋全体に響き渡り、その音で少しだけ意識が戻る俊介の父燈 大介。
意識がはっきりとしない。視界がぼやける。
ぼーっとしながら、先日の記憶が何故か蘇る。
なんで、あんな見ず知らずの人間に過去を話したのだろうか。
分からなかった。
けれど、何故か話したくなった。
彼に、聞いてほしかった。
どこか、近い人間にすら感じてしまったからなのか。
その理由は何故かは分からない。でも、直感的にそう感じてしまったんだ。
理解してほしかった。
「……うっ、ぐっ」
意識がはっきりと戻り、その中には誰もいない。だがドアは少しへこんでいた。
誰かが今目の前にいる。
そう思った大介はすぐに立ち上がり、ドアを叩いた。
「おーい!誰かそこにいるんだろ!開けてくれ!」
どうせ開けてはもらえない。
そう思いながら何度もどんどんと叩く。
そして今現在……その扉の前にいるのは燈 大介の息子であり、魔界の魔王である……燈 俊介だった。
「……ッ!?この声って……」
間違いない。
この後ろにいるのは俊介の父親だ。
そう確信した俊介はドアを開けようとするが、ゆっくりと近づいてくる宮野景子に気づき、構えをとる。
「開けなかったのはいい判断だ。開ければ最後、男の首は消し飛んでいた」
「おい!いるんだろ!?開けてくれ!」
「……ッ」
今、俊介がそこをどけば勢いで開いてしまうだろう。
カギはかけられていたのだが、俊介がドアにぶつかってしまった事によりその衝撃でドアのカギは開いてしまっている。
ドアの向こうにいる父親はカギがかけられていると当然思い込んでいる。
もう一度言うがここをどいてしまえば勢いで扉が開いてしまうだろう。
そしてそれらすべてを理解していて、舌なめずりをしながら話しだす宮野景子。
「で?どうする?このまま刺されて死ぬか?それともこの扉の奥にいるやつが死ぬか……二つに一つだ」
「……ッ、クソが」
思わず俊介はそう吐露してしまう。
(どうする。どうするのが正解なんだ)
どけば部屋の中にいる父親は死んでしまう。
どかなければ自分が殺されてしまう。
何かいい方法はないかと、頭を巡らせる俊介。
他の魔術を利用して……いや違う。雷魔術以外の魔術は方向も悪ければ威力が高い。
変に魔術を使用してしまえば父親をも巻き込んでしまう可能性が高い。
ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる宮野景子。
「さぁ、もう時間がないぞ?」
にやりと笑みを浮かべる宮野景子。そして今も尚後ろの扉はどんどんと音を立てて開けろと声をあげる大介。
もう時間はない。
俊介は二つに一つの選択ではなく、一つの賭けに出る。
勢いよく振りかざされる手を途中で掴み、魔術を使用しようとするのだが————
「遅いね!」
それすら読んでいた宮野景子は逆の手を振りかざす。
すかさず避けるのだが、扉が壊れてしまう。
「……しまっ」
「景子!?」
宮野景子は大介の顔を見るなり、怒りをあらわにしながら片方の腕を魔界人に変貌させ襲うのだが……
俊介は掴んでいる手で雷魔術を使用して体を麻痺させ、片方の手で風魔術を発動して宮野景子を吹き飛ばした。
「雷魔術以外にも……」
「他が使えないなんていついったよ」
青い瞳で吹き飛ぶ姿を見て、すぐ父親の安否に回る。
自分が息子だとばれないように。
「大丈夫ですか」
「君は……まさか、こんなところでまた会うなんてね。今のは……」
「魔界人を改造したり、魔界人になったりさせたりしている張本人。俺達は魔界人でその事件を止めに来ていたんですよ」
「……俺達?」
「あ、えっと、もう一人仲間がいるんです」
「そうか。最近ニュースでもやっていたその主犯格が……彼女と言うわけか」
「そうです。」
下を向きながら話す大介に申し訳ない気持ちが込み上げてくる俊介。
けれど、そんなことを思っている時間は正直に言ってない。
俊介はすぐに切り替え、真摯に告げる。
「彼女はもう、普通の人間じゃありません。平気で人を襲って殺せる。今すぐにこの場を離れて————」
「そんなことさせるわけないでしょ!」
なんとびっくり、勢いよく吹っ飛ばしたはずなのに……もう戻ってきている。
だがしかし、先程違うのは息切れをしているという点。
さすがに体が慣れていないのか、魔力も先程より少なくなっているようにも感じる。
それは当の本人も痛感しており、耐久戦に持ち込まれてしまえば負けてしまうと悟る。
そして、宮野景子は……魔物へと変貌を遂げる。
「私にはもう時間がないの!これで決着をつける!」
「……ずっと余裕ぶっていたのはこういうことか」
「そんな……景子……嘘だろ」
自分の元妻が化け物になっている様子を目の当たりにしてしまえば当然の反応だ。
大介はその場でうずくまるようにして、涙を流した。
俊介は後ろにいる父親を守りながら戦うという覚悟をして、両手を雷魔術で覆う。
今目の前にいるのが自分の母親だとは、知らずに。
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魔物……それは魔界にいる生物。
魔界を飼うこともできるが基本は人を襲う。
姿は人間とは似て非なるもので、肌の色が変色する。
魔界も普通の街並みをしており、そこに魔物が現れれば魔界の冒険者が駆除に当たる。
そして大きさ、強さによって当然ランクも異なる。
ルーナが相手をした研究員(魔物)は五段階評価中のBランク。
宮野景子は完成形と言うのもあり、Sランクの一つ下……Aランクに相当する。




