思わぬ再会
たまに……思い出してしまう。
俊介との出会いを。
基本的に人に興味がなかった魔王ルーナ。
だけど……14年前に人生を変えてしまう程の出会いをはたしてしまう二人。
「父さんからの依頼で現界人と条約を結んで来いって言われたけど、まじでいらなくねぇか?」
独り言をぶつぶつと言いながら現界を歩く魔王ルーナ。
元々仲は良かったらしい。
仲がいいというよりかは魔界の大魔王が三つの世界を作ったというのは現界のお偉いさん方も知っている。
なら、それだけでいいじゃん。
どうしてそれ以上の関係を求めるのか。
どうしてその仲を俺がよくしないといけないんだ。
きっとそれは俺が魔王だから。
だけどまぁ、本当に少し。本当に少しだけ、こんな退屈な三つの世界を少しでも楽しくできるのなら、と考えると、悪い気はしなかった。
確かこの日は、雨が降っていた。
その雨は止む気配すらなく、むしろ強くなって言っていたような気もする。
ルーナはそんな雨の日の中、打たれながら街中を歩く。
(あ~めんど。帰って魔界のダンジョン潜ってた方が有意義だな)
と、その瞬間だった。
「え~~ん。え~~ん。」
2歳ぐらいの男の子が道端で泣いていた。
最初、俺はスルーしようとして横切った。
二、三歩ほど歩いてまた泣いている男の子の方に近づいた。
「どうした?親はいないのか?」
ルーナは目線を合わせてそう聞くのだが、男の子は親と言う言葉が分からないのか、はたまた見ず知らずの人間に話しかけられて泣いているのか。
その両方だろう。
今度は濁点がつくほどの泣き声をあげていた。
「え゛~ん゛!え゛~ん゛」
「わかったわかった!泣くな泣くな!」
この瞬間、魔王ルーナの魔力が直感した。
『こいつはやばい』と。
どうしてそう思ったのかはわからなかったが、直感でそう思ってしまった。
正直、置いていくことは簡単だった。
けれど、父さんに言われた依頼とルーナの良心がそれを許さなかった。
(我ながら甘いな)
そう感じながら泣き止むまで傍にいてあげた。
仲良くしたいと魔界側から言うのに、子供を助けずして……どう依頼をこなすというのだ。
それに、どうでもよかった世界(現界)だったが、少しだけ嫌いになった。
(なんでこいつらは、子供が泣いてんのに知らないふりをして素通りできるんだ?)
現界の住民を見ながらルーナは睨みつけるようにしていた。
面倒事に巻き込まれたくないからなのか、いや、きっとそうだ。
この時、魔王ルーナは猶更現界と仲良くするギリなんかないんじゃないかと、そう思った。
子供は泣き止み、雨も少しだけ弱くなっていた。
「よしっ……ママとパパ、見つかるといいな――――」
「いや!」
ママとパパに反応し、子供は首を振りながら拒否した。
どうしてと、思う前にその時の自分の行動を思い出して腹を立てる。
このまま帰ろうとして……それは知らないふりをする現界人と同じじゃないか、と。
「嫌って言ったって、お前な……」
よく見ていなかったせいか、今ようやっと気づく。
この子が立っている隣にダンボールらしきものが置いてあり、そこには名前と、ちょっとした食料が置いてある。
(なるほど、捨て子か)
そう納得すると、先の行動も理解できる。
だが、今の時代にそんなことをする親がいるんだなと思いながら、再度しゃがみ込む。
「お前……あかり、しゅんすけ……しゅんすけ、一緒に来るか?」
名前を読み上げながら、手を差し伸べるように聞く。
すると、しゅんすけは「うん」と頷きながら泣こうとして――――
「わかった!泣くのだけはやめろ!魔界に帰ったらいくらでもないていい!」
弱く降り注いでいた雨も上がり、二人に日差しがささる。
やっぱ、こういうことを野放しにできる現界人はあまり好きじゃないな。
むしろ、嫌いだ。
とにもかくにも、こうして二人は出会ってしまった。
――――――――――――――――――――――――――――
あれから二人は、天界に送られてきたデータの元をたどり、その場所に行っては不発。
家に戻ってきていた。
「だぁー!疲れた~!」
「今日はずっと外にいましたからね」
ルーナはソファにダイブ。俊介は肩の力を抜いて脱力する。
今日は3か所を回ったけど、不発に終わってしまった。まだ全部を回っていないので諦めるのには早いが、二人の中では多少の結論が出ていた。
「それにしても、魔力が一切残ってないなんて不思議ですね。魔界人や天界人にされているのなら魔力やエナジーが残っていてもおかしくはないと思ってたんですけど」
「俺もそう思ってたよ。だけど……敵は思ったより手強いらしい」
ダイブして身を投げていたがすぐに体を起こしてソファに座るルーナ。
そして手を顎に当てながら考えていた。
(普通は残るはずだ。魔力やエナジーが残ってなくてもその後や痕跡などが残っていても不思議じゃない。)
そこまで考えた所で深い溜息を吐く。
現状、何も手掛かりはなし……変に考えた所で意味がないのだ。
ポンッといつものミニサイズの魔王に戻り漫画を手に取るルーナ。
「気になったことを聞いていいですか」
「ん?なんだ?シュン」
「魔界の住人達も、この現界には来れる手段があるんですよね」
「そうだよ。軽い審査的なのがあるけど……基本的に誰でも行ける。俺らはここが座標で設定できるけど、他の魔界人はランダムで転送される。魔界に帰りたかったら公園のトイレとかで自分で扉を作って帰ってくる。」
「やはりそうですか……天界人も似たようなことが出来るんですよね?」
「そうだ。天界人と違う所は体の構造とかなだけで世界のルールは変わらない。」
「それではやはり、現界人だけの仕業というのは考えにくいですね」
「ああ、というより確実に魔界か天界人のどちらかはかかわってるだろうな」
漫画とぺらぺらとめくりながら話すルーナと服の着替えをしながら話す俊介。
少し小腹がすいたので扉を開けようと手を伸ばしたところで……
ガチャ、と反対側から扉が開かれる。
「?」
「お、飯が来たか」
状況が理解できていない俊介。
それもそのはず、この家に俊介とルーナ以外の人はいるはずがないのだから。
「お待たせいたしました。こちらが今晩のご飯になります」
出てきたのは魔界の城のメイドと同じ服の人だった。
髪は白く、赤い瞳が電気に照らされる。
思わず綺麗だといってしまいそうなほどだった。
と思いきや……その後ろからぞろぞろとメイドたちが出てきて夕飯を並べる。
「なんですかこれは」
「ん?家を出る前に魔力でメイドを作っておいた。ナーシャや魔界のメイドと同じように会話もしっかりとできる」
「はい!できますよ!ルーナ様、シュン様!」
「シュン様って……」
(ルーナがメイドを作っているのなら必然的に俺の呼び方もそうなるか)
と納得しながら席に着く。
温かいお茶というのをコップについでくれるメイドさん。
「ありがとうございます」
「敬語などやめてください!私の事はリーサです。必要な時はいつでも呼んでくださいね!」
「わかった、ありがとうリーサ。」
白い髪に赤い瞳のメイドの名前はリーサ。右わきからお茶を入れてくれていたのだ、俊介の左わきからは別のメイドさんが登場。
「シュン様、他のメイドより私の事、イリアしか見てはいけませんよ」
「どういう情緒してんの?」
思わずそうツッコんでしまう俊介。
青い髪に黄色の瞳をしており、髪の毛は短め……ボブと言った所か。
そのメイドは睨みつけるように言うのだが、どうも態度と顔の表情が合っていない。
「せっかくだから、色んなメイドを作ってみたんだよ。アニメとか漫画とかにいそうなメイドを意識してみたんだけどどうかな?」
「ま、まぁ確かにいそうではありますけど……」
うん。魔界のメイドさん達よりうるさい。そしてキャラが濃い。
例えば奥に立っているメイド。平然と装っているが先程脱いだ服をくんかくんかと嗅いでいた。
そしてその反対側では我が子を溺愛するかの如く瞳をうるうるとさせてみてくるメイド。
本当に様々だ。
基本的に何されても気にしない俊介なのだが、メイドがその行動をしているとなると少し気になってしまう。
……が、せっかくの現界でテンションをあげているルーナなんだ。この家くらいは好きにさせておいてもいいかという気持ちになりお茶を飲み、ご飯を食べ始める俊介。
「いただきます」
「いっただっきま~す!」
食事を終え、タイミングよく差し出されたティッシュを手に取り口をふこうとして――――
「わたくしたちがやりますよ?」
「いいよ。自分でできる」
俊介はそのまま口の周りを自分で拭き、メイドたちはむすっとする。
やはり、少し居づらい空間だな。
なんて思いながらもお茶を継いでもらう。
「俺は読みたい漫画があるから先風呂入ってきていいぞ」
「わかりました。それではお先に」
席を立ち、風呂へと向かう俊介。扉から出て行く様子を見てはルーナはにやりと何かを企むように笑みを浮かべた。
◇
「しっかしすごいなぁ……本当に魔界の城そっくりだ。アパートの人がもし間違えてこの家を開けたときすごく驚くんじゃないか」
「そこは安心してください。現界人は普通のアパートの内装にしか見えませんので」
「ほぇ~……魔力ってほんとに便利なんだな」
「実際、そっくりではなく……そのまま魔界の城を再現しているのでトレーニングルームなどにもいけますよ」
「なるほど、まじで便利だな」
アパートの内装を超えた距離になると、亜空間を利用しての再現。
との事らしいです。
「なんでついてきてるの?」
「あなたの直属のメイドですので」
あまりにも自然だったので俊介は気にしていなかったのだがついてきていたのはリーサだった。
この人の感情を読み取るなら……
俊介の事を自分の所有物だと、思っているらしい。
その奥にはものすごい愛を感じる……。
もし他の女と話せばナイフを持って襲い掛かってきそうな勢い。
そんな感じだ。
「直属って、ルーナが決めたのか?」
「はい。基本は家の中だけですが……」
「なんで少し残念そうにしてるんだよ」
「だってわたくしは……ずっとあなたのそばにいたいのです」
「さいですか。それじゃ俺はお風呂入ってくるから」
そう言いながら浴室の扉を閉める。
ここから先はいくらメイドとはいえ入ってきてほしくない。
こういう時くらい一人でゆっくりしたいものだ。
そして小一時間くらい湯船につかり休息を取った俊介であった。
◇
「ルーナ様。どうしてナーシャ様を現界に連れてこなかったのですか?」
一人のメイドがルーナに質問をする。
ルーナは「ん?」と言いながら漫画を読み、そのまま口を開く。
「だって、ナーシャ厳しいんだもん。その点お前らは違う。俺の魔力で作ったってのもあるし、俺の様々な人格が組み込まれてる。せっかく監視から外れたんだ。いろいろと試したいだろ?」
「左様でございましたか」
メイドは頭を下げて一歩後ろに身を引いて目を閉じる。
ルーナは漫画から視線を外し、この部屋にいるメイドといないメイドには魔力で伝達する。
「最優先に守るのは俺ではなくシュンだ。これは絶対命令。いいな?」
メイド全員が頷く。忠誠を誓っているのは当然ルーナだ。だがそのルーナが絶対命令といい、守るべき対象が主ではなく、もう一人の王ならなおさらだ。
(この事件、すげぇ嫌な予感がするんだよな。仮に事件を解決できたとして、その後ろ……今後にも影響を及ぼしかねない。そんな予感だ)
ルーナは大方予想がついている。結論から言うと現界人なのではないか、そう睨んでいる。
現界に来る前に現魔天会議。現界人の長はこういっていた。
『現界と天界の状況があまりよろしくない』……と。
おそらく天界も現界と似たようなことが起きている。
そうなれば必然的に、今回の事件は天界人は除外され魔界人がやっているという疑いもできる。
(だがあのリュカの事だ。もっと別の何かを隠していてもおかしくはない。というより、それを俺達に探れと言っているようにも聞こえる)
天界は魔界と現界とは違い独立を望んでいる。
こういうむさくるしい事は天界人はしない。
確かに魔界と天界が関わっているとルーナは言っていたが、それはあくまで関わっているだけで主犯じゃない。
現界にも一応兵器というものは存在する。それを使えば魔界人や天界人の一人を捕獲して解剖……そこでサンプルを取り現界人に打ち込む。
そんな所だろうと、予想しているわけだが……いかんせん胸糞悪い。
「せっかく現界が好きになったってのに、嫌いになりたくねぇな」
そう呟きながら……魔王ルーナは漫画開きながら顔の上に置き、眠りにつく。
しばらくして、風呂から上がった俊介が部屋に入ってくる。
「ルーナ……って、寝たのか」
「リーサ達も、自分の部屋に戻って休んでいいよ」
「シュン様……ルーナ様だけでなくわたくしたちのも優しくしてくれるのですね」
「なんだと思ってるんだ俺の事」
俊介の言葉においおいと芝居かかった涙を見せるメイドたち。
この時のメイドたちは本当に嬉しくてたまらなかった。
魔力で作ってくれたとはいえ一人のメイド。
そして俊介の言葉はあまりにも優しく、温かい。そう感じ取っていた。
「ふぅ~……やっと出て行ったか」
あれから数分間、やいのやいのと言ってくるリーサやイリアだったがなんとか追い出すことに成功。
俊介はソファに寝転がっているルーナの下に座りアイスを食べる。
「うまっ……これはほんとにルーナが好きになるわけだ」
今食べているのはバニラアイスというものだ。
口の中にとろとろと解けて甘い甘味が広がる。まさに濃厚なミルク。
そして二口眼を食べようとした段階で……
「あ~~む!」
「え!?ルーナ!?起きていたんですか!」
「ずっとね!つかうんまこれ」
してやられた顔をする俊介とにやにやと笑みを浮かべるルーナ。
こんなのはもう日常茶飯事なので慣れている。
「お風呂空いてますよ」
「そうだな~、俺も入ってくるわ」
ソファから降り、ぐ~っと伸びをするルーナ。
そしてそのままこの部屋を出て浴室へと向かった。
「びっくりして目が覚めちゃったし、ちょっと散歩でもしようかな」
そういって、俊介は靴ひもを結んで玄関を開ける。
「外側から見ると普通のアパート……やっぱりまだ慣れないな」
苦笑しながら玄関扉を閉めて、コンビニへと向かった。
徒歩2分圏内にあるコンビニに到着し、先程のアイスを購入。
そこから3分ほど歩き公園についた。
今日案内してくれたおかげである程度頭に入れた俊介。
そのままベンチに座り、アイス口に頬張る。
「うんま」
二回目の一口。だけど一回目と変わらずうまさ。思わず吐露してしまう。
ふと上を見上げると夜空が人がっており、今日はちょうど満月という日らしい。
まんまるに光る月を眺めながらアイスを次々に口に入れていく。
「隣、いいかな」
「……?どうぞ」
仕事帰りなのか、少し疲れた様子でベンチに座る中年男性。
俊介は最初警戒していたのだが、この人に魔力やマナというものは感じられず最初程の警戒心は解いていた。
数秒の沈黙が続き、さすがに気まずいなと思い何か話そうとしたタイミングでその中年男性は話し出す。
「俺には、大切な子供がいたんだ。大きくなっていたら……君と同じくらいの子だ」
体をプルプルと震わせながら話す中年男性。
俊介は何も言わず、ただ中年男性の話を聞いているだけだった。
「昔、色々あってね。妻とはもう離婚したのだが、俺はあの事を思い出すと無性に腹が立つ。家に帰ったら子供がいなかった。2歳の子供が家でなんかしない。その日妻はなんていったと思う?」
次の瞬間、涙を流しながら怒りをあらわにして口にする。
「『言うことを聞かなかったから捨てた』あり得るか!?一人の親がだぞ!?」
親になったことがないのでわからない。
でも、人としてどうかとは思った。
その後も愚痴を吐き捨てていたが、しばらくしてその中年男性は俊介に謝罪した。
「すまない。見ず知らずの人にどうにもならないことを言ってしまって。」
「いえ、さぞつらかったのでしょう。大丈夫ですよ」
「……ッ!?……本当に、すまない」
涙を流して、うずくまる中年男性。
「今まで話したことがない愚痴、どうしてだろう。君になら大丈夫だと思ってしまった。本当に不思議だ。」
もうこの時、俊介は気づいてしまっていた。
この人が話す内容、そして容姿……
「邪魔したね。そろそろ帰るよ。」
「お気をつけて」
ベンチから立ち上がり、そのまま立ち去っていくのをみる俊介。
手から、たらたらと零れ落ちるバニラアイス。
「まさか、こんな形で再会するとは思わなかったな。」
そう、あれは紛れもなく、俊介の血縁……父親だった。
現界人の俊介だ。それは当然両親にもどこかで会うかもしれないということは思っていた。
だがまさかこんな形で会うとは思っていなかった。
そして妻とは離婚している。
俊介は再度、空を眺める。
予め魔力を中年男性に仕込んでおいた。
自分の父親を疑うことはしたくないが、万が一と言うこともあるので念のため。
だがしかし、そんなことなど今現在俊介は考えてすらいなかった。
血縁で、自分の父親だけど……何も感情が湧かなかった。
どんな人なのだろうという興味はあった。
だけど特段帰りたいとか両親に会いたいという気持ちはなかった。
「けど、あの人はいい人そうだったな」
空を見上げながら、俊介はそう呟いた。
本当に、それだけだった。
でもきっと、あ人は今も妻を恨み、俊介を探しているのだろう。
そう思うと少しだけ、胸の奥がざわついた。
その理由は、今の俊介には知る由もなく……
「帰りますか」
ベンチから立ち上がり、俊介は自分の家へと向かう。
家に着くなり、お風呂上がりのルーナが立っており、一人で出歩くなとものすごく叱られた。
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