本当に魔王なんだよね?
現魔天会議から約一週間が経過した現在……
「魔王様、リュカさんが言っていた症状のデータって届いたんですか?」
「届いてると思うぞ」
「思うって……」
魔王ルーナはいつも通り、50センチのマスコットキャラのような姿で漫画をぺらぺらとめくり笑いながら話をしていた。
その様子を見ていた俊介はおでこに手を当てて少し諦めた様子。
「あの……一応俺達って大役を任されたんですよね?」
「大役?あんなの日常茶飯事だよ」
「そうなんですか?」
読んでいた漫画をぱたんとたたみ、机の上に置く。
マスコットのような身長からじゃ想像つかないようなかっこいい声で俊介を呼ぶ。
「シュン……一つ、頼みたいことがある」
「……なんですか?」
めったにない真剣なルーナを見て肩を竦める俊介だったのだが……次の瞬間————
「お願いします!何でもしますのでこの漫画の続きを見せてはくれないでしょうか!」
「……はい?」
「だって!気になるんだもん!これ!ねぇお願いだよシュン!」
どでかいため息をつきながらもやいのやいのと言ってくる魔王ルーナをなだめるように口を開く。
「魔王様言ってたじゃないですか。現界の件を片付けたら、漫画を読ませてくださいって」
「それとこれとは別だろ!?」
「一緒ですよ」
(この人……本当に魔王なんだよね?)
「おい、今俺の事を心の中で馬鹿にしただろ」
「……ギクッ!」
「そんな分かりやすい反応をするな!」
第一……本当に魔王なのか疑う時がある。何せこの人、本当に普段は子供のように見えるからだ。いや、ようにじゃない……子供にしか見えない。
だからこそたまに見せるギャップが凄いのだが、今回のように真面目な顔でこういうことを言う人なので俊介は魔王なのかと疑ってしまうというわけだ。
「……と、まぁ冗談はこの辺にして、シュン。少しついてきてくれ」
「……わかりました」
ふざけていた雰囲気から一転。今度こそしっかりと真剣な表情になりマスコットのような姿から一週間前の現摩天会議の時のような姿になり、扉を開ける。
魔王の部屋を開けたら直属のメイドが必ず一人は経っているのだが、魔王ルーナが軽く手をひょいっとやりメイドはさっと身を引く。
(やっぱ……この人魔王の貫禄があるときとない時で差が激しすぎるよ)
そんなことを心の中でつぶやきながら魔王ルーナの後ろをついていった。
当然だが、この屋敷はものすごく広い。やれることがたくさんある。一番の違いと言えば……現界の扉や天界の扉があること。
これもまた当然だが人が簡単にでいる出来るものではない。限られたものしか入れない場所なのだ。そしてルーナはその二つの扉に続く道をゆっくりと歩いていく。
魔王ルーナの歩き……雰囲気でなんとなく察する俊介。
(今、変に話しかけちゃダメな時だ)
いつもの魔王さまなのに、どこか緊張して肩を竦めながら歩いてしまう。ルーナは前を歩いているはずなのにそのことを察して俊介に話しかける。
「シュンはさ、どうして魔界にいる選択を取ったんだ?」
「どうしてって……そりゃ魔王様といるのがすごく楽しいからですよ」
「そっか」
俊介の答えにルーナは微笑し、天井を見ながら現摩天会議の事を話す。
「俺さ、正直に言うとお前がいなくなっちゃうんじゃないかって思ってたんだ。シュンは元々現界の人間だ。あの場でお前が現界に戻る選択をしても俺は止めなかったと思う。」
ルーナはそう言いながら立ち止まり、振り返る。
「ありがとう。シュン……お前がいてくれて俺は毎日が楽しいよ」
「……そう、ですか。それはこちらもです……」
いつもは漫画を読んで、ふざけて……でも会議の時や魔界の大事な用事の時は魔王様で……改まって言われることなんてなかったから少しうるっと来てしまった。
……が、出てきそうな涙をぐっと堪え、俊介はルーナに質問をした。
「それで、今これはどこに向かっているのですか?」
俊介はあたりを見渡しながら聞く……しかし、魔王ルーナは返答に困った様子で口を開かなかった。
「……どうしました?」
「それ、やだ」
「はい?」
意味が分からない。いつも通り話しているだけなのに、何が嫌だったのか……ルーナは顔をプイッと背けながら声色を少し高くしていう。
「何で同じ魔王になったのに敬語なのかな~!てかずっと敬語外せって言ってんじゃん」
「……それで不機嫌になったんですか」
「それでって言ったかお前!シュン!お前はもう俺と同じ魔王なんだぞ!?現摩天会議から帰ってきたとき、全員が驚いてただろ!?」
「は……はぁ……まぁそりゃ……」
未だに自分が魔王だという実感がわいてこない。急にお前社長なって言われてはい分かりましたって二つ返事をする奴はいないと思う。いや、いるか……。
帰ってきたときの驚きは確かにすごかった。
◇
現摩天会議から帰ってきてすぐの事——————
「みんなただいま~」
「「「……ッ!?」」」
「なに驚いてんだ?みんなも薄々こうなることは分かってただろ?」
「いや、そうですけど……今までより魔力がものすごいことになってませんか?シュン様」
「そりゃそうだろ!俺の相棒だぜ?」
当の本人……燈俊介はその場にいたメイドや執事の驚きように驚いていた。
(まじか……こんなに驚かれることあるんだな)
「なんか俺、魔王になっちゃったみたいです」
てへぺろ!みたいな効果音がなりそうな場面……当然ならず。事件性のような悲鳴や驚いた声が白全体に響き渡る。そしてそこからはあっという間に、城の人たちだけでなく魔界に住む奴ら全員に知れ渡った。
なんとこれが現摩天会議から帰ってきて1時間ほどだ。
魔界に住んでいる奴らは魔力を扱う。今この魔界にいる人物で凄まじい魔力を帯びているのは魔王ルーナと、俊介の二人。魔力探知に優れている魔界人はすぐに気づいたらしい。
「会議に行かれる前までは魔王様の魔力はどんどん弱まっていったのに、今は弱まっていくどころか少しずつ戻っているようにも見えるのですが……それは気のせいですか?」
一人のメイドがそう口にする。
「いや、気のせいじゃないよ」
全員が考える動作をしていた所でルーナが答えた。
「実際、何気ない動作……ハイタッチをしていただけなのにそれが契約となって俺の魔力を吸い取っていたけど……シュンは現摩天会議で正式に魔王になった。契約を制約したという形だな。そういうのもあって俺の魔力は戻っていってる。」
「なるほど……そんな仕組みがあったんですね」
俊介は感心そうに答え、ルーナは軽くツッコミを入れる。
「お前、本当に魔力について何も知らないよな」
「知らないも何も、魔王様がそう言う話を一切されなかったんじゃないですか」
「……ツッコミたかったのに、正論を言われるとは」
ルーナは俊介が魔王になるだなんて一ミリも思っていなかったので魔力とかそういう戦闘系に関係あるものは何も言ってこなかった。だが、ルーナも魔王だ。バカではない。自分の魔力が吸い取られていると実感してからはそういう話もしないといけないと自覚していたのだが、漫画を読んでいたり後回しにしたせいでこうなってしまっているというわけだ。
◇
「帰ってきたときの驚きもすごかったですけど、魔王様が魔力とかに関してなにも話してくれなかった方が驚きですよ」
「はいはい俺が悪かったよ。だから今から話そうとしてるんだろ?」
「……だったら早くそう言ってくださいよ」
「だから!敬語やめろ!あと魔王様ってのも禁止だ!」
「急すぎじゃないですか!?」
ルーナの情緒がジェットコースター並みにすごいことは分かったが急に禁止と言われてもそれはそれで困る。
「敬語はまだいい!だが魔王様はダメだ!もう一度言うがお前はもう――――」
「わかりましたよ!じゃあルーナ様って呼べばいいですか?」
「様じゃない!俺がシュンって呼んでるんだ!お前も呼び捨てにするんだよ!」
「……ル、ルーナ」
「……お、おう」
何だこの空気。
室内とは思えない寒気さ。風がひゅ~んとふいていてもおかしくない。
(何これ……恋人?」
「これが漫画で読んだ気まずいってやつか!?」
(あーほんとこの人がバカで助かった)
俊介は耐えきれなくなり右手をおでこに当て、溜め息をつく。
「どうした?」
ルーナは目を丸くしながら俊介を覗き込むようにするのだが、俊介は軽く首を振りながら答えた。
「いえ、何でもないです。そんなことより、本題に入りましょう」
「ん、確かにそうだな。ついたぞ」
長~い道のりを歩き、現界と天界に続く扉をスルーして目的地にたどり着いた二人。
「でっかいですね。この扉」
天界と現界の扉より数倍大きい扉。なんかここにでっかい魔物がいてもおかしくはない。
「そうだな。今から行くところは魔界と天界の間……言ってしまえば俺の父さんがいる場所に行く」
「……何しに行くんですか?」
「お前が魔王になったっていう報告……それと俺達が頼まれた任務について知ってることとかあれば聞いておこうって思ってな」
「なるほど……だからマスコットキャラみたいな魔王様じゃないんですね」
なんなら現摩天会議の時より少しかしこまっている感じがするのは気のせいだろうか。心なしか服装もきちんとしているような……。
大きい扉を眺め……二人に緊張が走る。
(待てよ?今から俺……魔王様のお父様に会うって事!?多分だけど魔界の人たちって会ったこともないんじゃないの!?)
そう心の中であたふたしていると、これまたタイミングよくルーナが口を開く。
「父さんは基本的に誰とも会わない……というより会えない」
「会えない?」
「ああ、まぁここはおいおい話すとして。俺と一部の大天使しか会うことを許されてねぇんだ。それなのに、お前をここに連れてきた。その理由が分かるか?」
「俺が魔王になったからですか」
「そういうこと。基本的に魔王ってのは父さんの血筋しかなれねぇんだ。シュンが魔王になったのは異例中の異例。俺との魔力の相性が良かったこと。お前が微弱な魔力を持っていたこと。そんでお前が優しかったこと。このどれか一つでもかけてたらお前は魔王になれなかった。」
はたして最後のは関係あるのか……というツッコミはしなかったが、そう思いながらも俊介は肩を竦める。
「安心しろ。怖い人だけど誰彼構わず襲う人じゃない。それに俺がお前の話をよくしてたからむしろ興味があるはずだ。」
「本当にそうですかね」
「ああ……俺から言えることはただ一つ。」
ぐいっと顔を近づかせながら人差し指を立て……目を大きくしながらルーナは言った。
「父さんの機嫌を損ねるな。以上」
「機嫌を損ねるなって……具体的にはどうしたらいいとか」
「知らん!それは自分で考えてくれ!」
腰に手を当てながら丸投げをするルーナを見て俊介は再度、溜め息を吐こうとしたが……
(下手なことを言ったら殺されるかもしれないってやばくね?肝心なところはいつも適当なこと言って丸投げだし……この人、本当に魔王なんだよね?)
ルーナが魔王なのを再度疑い、ジト目を向ける俊介。そしてそれを見ては「なんだよ」と焦りながら答えるルーナ。
「ま……いざとなったら俺が守ってやるから安心しろよ、相棒」
「またこういう時だけ調子のいいことを言うんですから。」
だがしかし、いざとなった時の魔王様は頼りになる。俊介はそれを身をもって知っている。
「魔王さ……ルーナのお父さんってどういう人なんですか?」
魔王様といいかけ、ぎろっと睨みつける視線を感じてすかさず名前で呼ぶ俊介。敬語なのに呼び捨てもいかがなものかと考えながらも質問に答えてくれる魔王様。
「ん~……簡単に言えば大魔王様ってところかな」
「大魔王!?どういうことですか!?魔王ってルーナと俺だけじゃないんですか!?」
「これも話せば長くなる……まぁ三つの世界を作った神様みたいなもんだね」
「ほぇ~……」
スケールが一気にでかくなり、考えるのをやめた。
口がポカンと開いたままフリーズした俊介を見てルーナは右手を俊介の顔の前で振りながら声をかける。
「お~い、生きてるか~」
「そういう時は大丈夫かですよ」
「あ、そうだったそうだった」
いつもみたいに流れるようにツッコミをしてしまい、ハッと意識が戻る。
だがしかし今から会いに行くのは三つの世界を作ったとされている大魔王様……確かに機嫌を損ねるなというのも納得できる。
(あー、話が急展開すぎて頭がおかしくなりそうだこれ)
今まで魔界の、魔王様の部屋で護衛として生きていた人間が急に魔王になり、急に魔界ではない他二つの世界から協力をお願いされ、今から大魔王様に会いに行く。いくらなんでも濃密すぎるだろ。
(んなこと考えても、きっとこれからもっとすごいことになるんだろうな)
そう心の中で独り言つ。
「んじゃ、このまま突っ立っててもあれだし早速中に入りますか」
覚悟を決めたのか、深呼吸をして扉に手をかざそうとして――――
「ルーナ……何か忘れていませんか?」
「お!そうだったな!」
(行くぜ!相棒!)
(死にたくねぇ~)
そして……いつも通りのハイタッチをして、扉を開けてその中へと足を運ぶのであった。
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