二人目の魔王
「まず、席に着こうか」
魔王ルーナは俊介の肩を軽く叩きながら落ち着かせるように優しく言葉をかけそこでハッとする俊介。
現界の長は『魔王誕生と今後の関係について(現界と魔界の)』と言っていた。ルーナは最初からこうなることをわかっていたんだ。わかっていたから……会議の内容を決めなくてもいいと、思っていたのだ。
(いや……それは単純に俺がめんどくさかっただけだけど)
頭を軽く掻きながら気まずそうにするルーナを横目で睨むようにするが、今はそんな事をしている場合では無い。
「早く席に着いたらどうだ?君の席も用意されている」
天界人……もっというなら大天使と言うべきか。
大きな白い羽根に頭の上には黄色の輪っかがついている。ザ・天使って感じの人物だ。そしてその護衛もこと人ほどでは無いが普通くらいの羽根が生えていた。
(つか、魔王様……護衛とはいえよく殺せるな!?一応会議の場ではあるんだよな?)
「よいよい……護衛などいくらでも替えがきく」
「……ッ!?」
「お前シュンの心読むなよ」
「すまんな。心を読むというより読めてしまうもので……癖みたいなものなんだ」
天界人は「すまんね」と軽口をいいながら軽く両手を合わせてそれを睨む魔王ルーナ。
ルーナの隣に俊介。向かいに天界人。そして現界人は魔界と天界を両の視界に捉える形で着席。この並びだけ見てしまえば現界人が一番偉いように見えるが別にそういう訳では無い。
「全員着いたな」
「ちゃっちゃと本題入ろうぜ。別にかしこまらなくてもいいだろ今更」
「そうはいかん。新たな魔王誕生……これをかしこまらなくてどうする」
「……確かに」
ちらっと横目で俊介を見ながら少し申し訳なさそうにするルーナ。
その行動を視界に捉えながらも天界人は遠慮なく話し出していた。
「まずは、自己紹介からしようか。私は天界人の大天使が一人……リュカだ。君とは仲良くしたいものだね。なんせルーナがこんなんだから」
右手で頬杖をつき、左の手のひらをルーナに向けながら言うリュカに対しルーナは大人……な対応をしようとしている。
「フンッ」
(落ち着け俺……こんな奴に踊らされるな)
って魔王様は思ってるんだろうなと思いながら「しまった」と、俊介も心の中で呟いてしまうが大天使のリュカはあえて触れないでいてくれていた。
「って……大天使が一人ってことは、あなたが一番偉い人という訳では無いのですか?」
「そうなるね」
リュカはそう言いながらそのまま話を続ける。
「大天使は12人いて、適材適所を行っているんだ」
「なるほど……リュカさんは現魔天会議に適している人材ということなのですね」
「理解が早くて助かるよ。ま、他がめんどくさいからここを志望したんだけどね」
きっと本当にそう思っているのだろう。あまりにも触れにくい内容だったため俊介は苦笑してその場を何とかやり過ごそうとするのだが……
「君、俊介君と言うべきか……そこの魔王よりよっぽど良い魔王になれるよ。なんなら是非天界に来なよ。」
そう言われ、俊介が軽い反論をしようとしたその直後───
「おい、俺が黙ってたら何言ってもいいと思ってんだろ。テメェ」
「怖いなやめてくれよ。冗談だよ冗談」
(魔王様……相当怒ってるな)
左の魔眼がギロッとリュカの方に向く。それを見たリュカはニヤリと口角を上げながら……
「それじゃあ、本題と行こうか」
現界人が口を開き、魔王ルーナと大天使リュカはじゃれ合いを止める。
「まずは、燈 俊介。君は現界人でありながら魔王の魔力を吸い取ってしまったせいか、魔王としての素質を覚醒してしまった。」
固唾を飲み込む俊介。
「君はこれから先、どうしたい」
「……これから先……ですか」
分かってはいた。こうなることは。だから考えていたが、イマイチ自分でもどうしたらいいのか正直わかっていないというのが本音だ。
「シュン、別に無理することじゃない。お前は元々現界人だ。お前が望むなら現界に戻ることだってできるんだ」
そうか……どうしてこの場にいる全員が重んじているのか、俊介は現界人で魔界の人間では無い。言ってしまえばこれはこの人達にとって予期せぬ出来事なんだ。
少しの沈黙が続き……俊介は口を開く
「すみません……お気遣いありがとうございます。ですが俺は現界に戻るつもりはありません」
「……ッ!?」
「そうこなくちゃ、面白くないよね」
「シュン……本気か!?」
三者全員が驚いている様子……リュカ含めしゅんすけがそう回答するとは思わなかったらしい。
俊介本人は現界にもどるという選択は頭に入っていなかった。
要するに……
「はい。俺は二人目の魔王としてこれからも魔王様……ルーナの護衛をしたいと考えております」
「本当にいいのか?もう後戻り……現界人になることは出来ないのだぞ?」
「それでいいです。俺が現界人に戻れないだけで現界には行けるし、魔界にも行ける。もっというなら魔王様と一緒にいられる。俺はこれだけで十分です」
「……シュン……」
うるうると涙を浮かべながら俊介を見つめる魔王ルーナ。そしてその前で座っている大天使のリュカは「クックッ」と微笑する。
「そんなこと言われたら惚れてしまうね」
「そうか。俊介がその気ならこちらは何も言うまい。と言ってもあなたは少し特殊な現界人だ」
「特殊……?」
「魔王の魔力に耐えれる人間は見たことない。ましてやそれを吸収して魔王になるなどこれから先現れることのない逸材だ。」
(そうなのか……ってかまぁそうだよな。こんなのポンポンいたら今頃世界がとんでもないことになっていても不思議では無いか)
俊介は右手を口元に当て、心の中で整理をしていると……
「という訳だ、これから二大魔王としてこれからも生きていくんだろう?」
これまたニヤリと笑みを浮かべながらひとつのものを取り出すリュカ。
「これは?」
俊介は軽く首を傾げながら聞き、ルーナは答える。
「これは魔力測定器……天界でいうとエナジー測定器だ。根本はほとんど同じだから気にするな。」
「ちょっと、全然違うんだけど」
「今はいいんだよ。」
ルーナは咳払いをして、そのまま続ける。
「ここに手をかざしてこいつに認められれば公認として魔王になれるというやつだ」
「なるほど……とりあえず、手をかざせばいいんですね?」
「ああ、頼む」
ルーナの言葉に俊介は少し戸惑いながらも魔力測定器に手を伸ばす。
(元々シュンには素質があった。俺の横に立っているだけなのに他の奴らは俺ではなくシュンを警戒していたし、俺の魔力を吸い取らなくても微弱だが魔力が備わっていた。これもおかしな話だ。)
(この子がもし……我々の探し求めている人物なら……)
魔力測定器に手をかざし、数秒待つ。
すると──────
バキバキッ…………パリンッ…………!!!
「なんだ!?」
「おい、マジかよ」
「なんと、これほどの魔力を……」
「ふ~ん、いいね」
かざしていた魔力測定器が勢いよく壊れ、紫色の魔力と青色の魔力が飛び出していた。
「やはり……そうだったか」
(俺の魔力とシュンの魔力に耐えきれず壊れたということは……)
「正真正銘……魔王の誕生という訳だ」
「なんですかこれは!?」
「落ち着きたまえ、これは君の魔力だ。すまない。少し君の力を甘く見ていたようだ。」
(これは最高強度の測定器……それを壊すものなど今まで存在しなかった。こやつはやはり……)
リュカが右手を俊介に向け、飛び出している魔力を俊介の体内に戻していく。
「……気分はどうかな?」
「はい。大丈夫です……ありがとうございます。リュカさん」
「ハッハッハ……君ほどの魔王に敬語を使われるとなんだか不思議な気分になるね」
そう言いながら無事なら良かったと視線を向けるリュカ。
「これで晴れて君も……魔王ルーナに肩を並べる魔王俊介だ」
「……ッ!?」
「おめでとう!シュン!やったな!」
まだ実感が湧いていない。それはそうだ。
護衛だったただの人間が……いきなり魔王。そんなの実感が湧くわけがない。
自分の両手を眺めながら本当に自分が魔王になったのかという疑問を抱いている俊介……だが本当の現魔天会議はこれからだった。
「君が魔王になったことによって、天界、現界からお願いしたいことがあるんだ」
「魔王になったことで……?」
「もし、君が現界に戻ると選択していたらそこで今回の会議は終わっていたのだが……」
「んだよ。勿体ぶらずいえよ」
「俊介くんだけじゃない。ルーナ、君もだ」
「俺も?」
驚きながらも首を傾げるルーナ。そして現界人が話を進める。
「今現在、現界と天界の状況があまり宜しくないのですよ」
「というと?」
「ルーナ。君は覚えているだろう?300年前の魔界の事を……」
「まさか……暴走薬のことか!?」
「そう。それと似たことが天界、現界で起きていてね。少し手こずってしまってるんだ」
「なんでお前らが手こずってんだ?300年前は天界のお陰でよくせいできたんだぞ?」
「それが分からないから君たちにお願いをしているんだ」
リュカの言葉にルーナは黙りこくり、拳を強く握った。
「似たようなことってことは、暴走薬?では無いということですか?」
「鋭いね。厳密に言えば症状はそれぞれなんだ。」
「俊介君に似たことが起きてるんだよ」
「……似たこと?」
俊介もよく分からず首を傾げてしまう。そもそも300年前に起きたこととはなんだ?暴走薬とは?そのような事が俊介の頭に巡る。
「すまないが、詳しい話はルーナに聞いてくれ。だがひとつ言えることは300年前より悲惨だ」
リュカのその言葉にルーナが反応した。
「現界人……いわゆる普通の人間が魔界人や天界人になるような薬を盛られてるってことか」
「そういう事だ。天界ではそれがただの暴走薬としてしか機能していないが……」
「なるほどな。だからシュンと似た現象っつってたのか」
ルーナはそう言いながら俊介の方に視線を向け、俊介は軽く肩を竦める。
「要するに、悪い奴らが現界人を襲って魔人や天界人にしようとしてるってことだ」
「……!?」
そこでようやく、俊介は理解した。
(だから俺への警戒心が強かったのか。今までの護衛も警戒はされていたけど今回の警戒のされ方は今までとは違った)
俊介が現界で起きている現象をされているのかと、様子を見ていたのだ。
「その薬っていうのは……一体どういうものなんですか?」
俊介はすぐに問うた。
「それが様々なんです。空気や飲食物、注射物など……こちらは分子的な何かを予想しているのですが」
「それを……俺たちにどうにかしろと?」
「そういうこと。と言ってもすご~く簡単だよ。ルーナの魔眼があればね。」
「わーったよ。二大魔王だから出来ること……ってことなんだろ?」
ルーナは面倒くさそうに頭を掻きながら言い、リュカは笑みを浮かべる。
「そうそう。症状のサンプルデータも後に送るからさ、頼まれてくれない?」
「だから、やるっつってんだろ」
「やります。魔王様が一緒ならなんでもやります」
「決まりだね」
俊介は即断即決で返答をする。その言葉を聞いていたリュカは用事が終わったからなのか、スタスタと会議場から離れていった。
「居なくなるのはやっ」
「あいつはあーいうやつだよ。仕事や自分に興味があるものにしか目がねぇの」
ルーナもそう言いながら立ち上がり、行きにあった扉の方へと足を運ぶ。
「本日もありがとうございました。」
現界人の人が頭を下げてルーナと俊介にお礼を言う。
「じいさん……現界とはこれからも仲良くしたい。絶対この件は片付ける。そしたら漫画いっぱい持ってきてくれよな」
ニコッと子供のように笑みを浮かべる魔王ルーナを現界人は見て一言……
「かしこまりました」
そして……俊介とルーナは開いた扉をくぐり、魔界へと戻った。
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天界にて……
「どうだった?ルーナは」
「どうって、いつも通りだったよ」
「私もそろそろルーナに会いたいなぁ」
「自分で会いにいけよ」
「どうしたの?リュカ……なんだかいつもより楽しそうだけど」
「ん~そうだねぇ……新しい魔王の誕生と言えば分かるかな?」
「嘘でしょ!?あんた……そんな大事なことをポロッと言うものじゃないのよ?」
「父上に報告よろしく~」
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現界……薄暗い路地裏での出来事。
一人の女性が薄暗い夜道を走り、何かから逃げている様子。行き着いた先は路地裏。排水溝や食べ物の残骸が残っており腐敗した空気が充満している。
だが、彼女は今そんなことを気にもとめずその先の照らされている薄明かりに向かって走り続ける。
だが、彼女がその薄明かりに到達することはなく……途中で倒れてしまう。
唸り声なのか悲鳴なのか……自分の首を絞めながら涙を流す女性……数分と経たずして、人間の姿から魔物に変貌し、またすぐ【人間の姿に戻った】
その女性は……次の日から今までどおり普通に暮らしている。
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