魔王様達は出国するようです
俊介とリーサが部屋に戻った翌日の朝……。
(あ~すげぇ暑い。なんだこれ……別に昨日はそんな暑くなかったのに……)
俊介は目を瞑り、唸っていた。
最初は体調が悪いのか?と思っていたのだが、明らかに暑い。
もう少し寝ていたかったが原因が何かを探るために目を開ける。
すると……目を開けても部屋が見えるどころか何も見えない。
「ん?なんだこれは……」
俊介は寝ぼけながらそれが何か触れようとして……
(ちょっと待てよ?この暖かい感じ……俺は今誰かに抱かれているな!?)
思い当たる節は一つしかない。そう……直属のメイドであるリーサだ。
と、すれば今目の前にあるのはリーサの立派な柔らかいものである。
俊介は寝起き声で言った。
「おい、そこどけよ。起きてんだろ?リーサ」
「あら!お目覚めになられましたか?今の気分はどうですか!」
「最悪だ」
「嘘ばっかり!」
嘘……といえば噓になるかもしれない。だがこれは生理現象で決して欲情したわけじゃない。
確かにリーサは一人の女性としてとても魅力的だ。
惹かれる人は五万といるだろう。だがしかし、主と従者という関係なので俊介は本当にそのような感情を抱いたことは一度もないのだ。
「とりあえず、そこどいてくれない?」
「もう少し、このままでも……」
「息苦しい」
俊介の頭はリーサの腕でしっかりホールドされている状態。今淳介はなるべく息をしないようにしている。
今ここで大きく息を吸って吐けばとんでもない声を出されかねない。
おっと、もう息も続かない。そろそろまじで死ぬかもしれない。
リーサはほっぺを膨らませながら「仕方ないですね」といいその場から離れた。
「ぷはぁ!死ぬかと思ったぁ……」
「普通にしてくれればよかったのですよ」
「できるか」
「わたくしを女として見ていないという事ですか!?」
「そうじゃねぇよ」
「では何故!」
「あのな?今俺達は仕事をしに来ているんだ。そんな事出来るか」
「それではわたくしたちの城であれば——」
「ぜってぇしねぇよ?」
にっこにこな笑顔で言うリーサに対し俊介も満面の笑みで返す。
絶対に最後まで言わせないという意地を俊介は見せ、リーサはプイッと顔を逸らした。
俊介はベッドから立ち上がり、ソファへと腰を掛ける。
「エスタさん……うまくやれるでしょうか」
「まぁ、やれるんじゃね?俺はそこまで心配していない」
「何か、別の心配事があるのですか?」
起きて早々、俊介は険しい顔をしているので小首を傾げながらリーサは聞いた。
すると俊介は険しい表情のまま、自分の手を見つめながら言う。
「昨日、俺は禁書の事について調べていたんだ。そこで……ラビリス帝国の人間と接触してしまった」
「……!?」
「それだけならよかったんだが、そこで軽い戦闘になってな。俺が魔王だってバレてしまった」
「それって……かなりまずいんじゃ……」
カップに注いでいた手を止め、リーサは驚いた様子で俊介を見る。
「まぁ、別に魔王だってバレるのは覚悟していたから正直そこは割り切ってる。」
「ラビリス帝国、そしてガウルド国の国民にバレるのを避けているといっていましたもんね」
「そうだ。問題はその戦った後……接触した人物は逃げるのではなく誰かに連れ去られるように姿を消した」
「どういうことですか?」
「あいつの足元に魔方陣が現れて……そいつは消えたんだよ。おそらくラビリス帝国の王か、王に近い誰かの術だろう。相当な魔力を感じた」
リーサは俊介の言葉にあまり理解が出来ていなかったのか、驚いた様子を見せつつも小首をかしげていた。
俊介が危惧しているのは戦闘面。
もし、仮にその戦闘を映像化して見られていた……もしくは解析できる状況だった場合、かなりまずい。
そうなっていたら俊介は雷魔術を扱うのはかなり厳しくなるだろう。
対策され、戦闘を優位に運べない。
だからこそ、あの山で魔王だとバレるのは避けたかった。
俊介は顔をあげ、リーサに真摯に告げる。
「リーサ、この戦い……もしかしたら負けるかもしれない。」
「負けるって……何か策はあるんですよね?」
「あるにはあるが……かなり望み薄だな。一か八かでお願いしようとは思ってるが……」
俊介の言葉にリーサはホッとする。
なんとなく、その策というのが分かったからだ。
そして、そのカギを握っているのは……この国の王女である、エスタ・ワクタビアなのだ。
俊介は頭の後ろで手を組み、ソファにもたれながら言った。
「だからまぁ……エスタの話の後で行こうと思うんだけど、いいよね?」
「問題ないかと思いますよ」
(あとは、俺の技量の問題だな)
そこは追々考えるとして……マジで頼むぞエスタ。
さっき俺はそこまで心配していないと言ったが実は少しだけ心配している。
大丈夫だとは信じてるはもしかしたら……仲直り出来なくなる……なんてことがあったりでもしたらそれこそこの国は確実におしまいだ。
正確には、戦争にもつれ込むしか方法はないといった方が正しいか。どちらにせよ……この国の運命はエスタに託されているも同然。
(頼んだぞ……エスタ)
そう心の中で言いながら窓の外を眺める俊介。
この日は朝食はないとの事。エスタとルマーニ女王陛下が二人で話をするらしいと、城内で軽い騒ぎになっていたのをリーサが聞きつけすぐに教えてくれた。
◇
朝、エスタ・ワクタビアは目覚めベッドから降りる。
閉めているカーテンを開け、日光を浴びる。
「ん~!今日もいい天気ね」
伸びをしながら声を発するエスタ王女様。
エスタには執事やメイドはついていない。
少し前にそういう話があったそうなのだが、エスタは自分でやりたい主義というのもあり断ったそう。
寝巻から王女の服に着替える。
「さて……今日も王女をしてやりますか」
エスタはずっと、自分を偽って生きてきた。朝起きてこの服装に袖を通した瞬間……みんなの望む、期待に応えないといけない王女様を演じなければいけない。
けれど、それはもう昨日で終わり。
今日からは自分らしい……偽ることのない王女様として歩んでいく。
袖を通し、軽いメイクをして部屋を出ようと手をドアノブに翳し————
「やっぱり、緊張してきたぁ……」
自分のほっぺを両の手でたたき、気合を入れる。
実際、かなり緊張している。
今まで母親と二人きりで話したことがない。それなのにアポなしで今から向かおうとしているのだ。
心臓の鼓動が早くなっていってるのが分かる。
怖い。また叩かれたらどうしよう。
(考えても無駄だっれわかってるのに、足がすくんで動けない)
震える足を、私は無理やり動かし部屋の扉を開ける。
廊下を一歩一歩進むごとにどんどん重くなっていく。
それでも、前に進まなければいけない。
ありのままの自分を見せると決めた。母親に幻滅されようと、これが私なんだと……言いに行くと決めたんだ。
気が付くと、母親の部屋に到着していた。兵士や執事、メイドとすれ違い挨拶を交わしていたがほとんど覚えていない。
覚えていたのは私が母親の部屋に向かっているのに対し驚いている事だった。
そして、私はつばを飲み込み……深呼吸をして扉をノックする。
母親の返事に私が来たと告げる。数秒何も返答がなかった。部屋の前にいる時間がとても長く感じた。
しばらくすると母親の直属の執事が部屋の扉を開ける。
「おはようございますエスタお嬢様。陛下の身支度が完了しましたのでお部屋へどうぞ。私は外で待機しています」
「わかりました。ありがとうソウカ。」
エスタは一礼して部屋の中へと入っていく。いつもの淑女のような態度ではないことに気づき、執事であるソウカは少し驚く。
「おはようございます。お母様。昨日の件で少しお話したいことがありまして」
エスタの言葉に、母親であるルマーニは振り向かずに鏡の前に椅子に座っていた。
「空いてる場所に腰を掛けてください」
ルマーニはそう言って、エスタは空いている椅子に座った。
(やっぱり……昨日の発言で怒ってるのかな)
男だったら……その言葉だけがエスタの心に強く残っていた。
幼い頃話を盗み聞きしていたというのもあって忘れられない言葉になっていた。
視線を落とし、緊張で手に汗がにじむのを誤魔化すように服を握る。
この時、ルマーニは何故振り向かなかったのか……彼女なりの理由があったのだ。
(あぁ……どうしましょう。娘が自ら部屋に来てくれた。それだけでも嬉しくて顔が緩んでしまいそうなのに、怖くて振り向けない)
そう、この時のルマーニも緊張でものすんごいことになっていたのだ。
しかし二人は喧嘩をしている。それが唯一の救いだった。
今振り向けばルマーニの緩んだ顔が娘のエスタにバレてしまう。それだけは避けたかった。
目の前の鏡を見て、視線を落としているエスタを見ながら……ルマーニはついに口を開いた。
「エスタ……昨日は急に頬を叩いたりして申し訳なかったです」
「……!?」
まさかルマーニから謝ると思っていなかったのでエスタは目を真ん丸にして驚いていた。
「いや、その……私が男だったらなんてことを言ってしまったせいで……本当に不適切な発言だったと思っております。ごめんなさい」
席を立ち、頭を下げるエスタ。
それを鏡越しで見ていたルマーニは立ち上がり振り向いた。
「あなたには辛い思いをずっとさせていました。思えば母親らしいことなんて一度もしていなかったですよね」
「……ッ」
母がそう言うと自然とエスタは涙を流していた。
こんなはずじゃなかった。
自分の意志をちゃんと伝えるとそう決めたのに……いざここに来てみれば思い通りに行かなくて。
母であるルマーニも自身の行いに深く反省し、後悔していたのだと気づいた。
でも、仕方ないというのも分かっていた。
女というだけで一国の先頭に立つことは極めて難しい。男であれば幾分ましだっただろう。
それでも……ここに生まれてきてしまった以上仕方がない。
だから母は自分に厳しく王女としての自覚を持つようにエスタに厳しくしていた。
でもそれはもう必要がないのだと、ルマーニは気づいていた。
「私は、あなたに厳しく当たっていたのを後悔しています。あなたが父であるロバルトを強く慕っていたというのも知っています。でも私はあの人が死んでどうしたらいいのかわからなくなってしまいました。残されたのはこの国。そして女王陛下という仕事。私は忘れるように仕事に没頭していました。娘という……あの人が何よりも大事なあなたが……傍にいたのに……」
「正直私はお母様……お母さんに嫌われていたと思ってた」
「……ッ!?」
今までに聞いたことがない言葉遣いを聞いてルマーニは驚く。
それでも今、ようやく娘と話せていると分かって安堵感も覚えていた。
「昨日、俊介様やリーサさんと話していてわかったの。私を守ろうとしていたから、ラビリス帝国の入国を禁止にしたんだよね?」
「……そうです」
「それを聞いたとき嬉しかったよ。でも……私もこの国の王女なの。国のため、民のためって言ってきたしそれも事実だけど、私もお父さんがしていたような仕事をしてみたい。私も……外交をしてみたいの。危険だとしてもそれはお父さんも同じだったでしょ?」
確かにそうだ。外交……すなわち自分と敵対するかもしれない。あるいわ嫌っているかもしれないという国に自ら出向くその行為は娘だからという理由じゃなくても危険な仕事というのはエスタ自身わかっていた。
ルマーニはエスタの真剣な眼差しを見て、心の中でこう思っていた。
(やはり、あなたの娘ですね。ロバルトさん……)
それでもやはり、母親としてはいかせたくはない。
が、ここでもしそう言ってしまえば娘に嫌われてしまうかもしれない。
今そうなればルマーニは傷ついて一か月は部屋に引きこもってしまうだろう。
目を瞑り、覚悟を決めエスタに視線を向けて言った。
「わかりました。あなたの信念は私じゃどうすることもできません。ラビリス帝国に入国することを許可します。」
「……ほんと!?」
「ええ……お父さんはとても立派な人だったわ。私はあの人のようになれなかったけど……あなたならなれるかもしれないですね」
「お母さんは立派だよ」
「え?」
「だって、お父さんが亡くなって……一人で全部やらないといけないって急になったのに今こうして国の人たちは幸せそうに暮らしている。誰が何を言っても、私はお母さんは立派な人だって胸を張って言えるよ」
「……ふふ。ありがとうございます」
エスタの言った言葉はどれも本心で、ルマーニもとてもそれが伝わり感極まって涙を流してしまった。エスタはルマーニに近づき、抱きしめる。
「……ッ!?エスタ!?」
ルマーニは思わず声を上げてしまう。
身を引き、手を軽く上げながら体を震わせる。
そして、エスタは母を抱きしめながら言った。
「こういう時は抱きしめるんだよ。お父さんがよくこうしてくれたの……お母さんともしてみたかったの」
「……ッ」
エスタは優しい言葉でそう言い、ルマーニはゆっくりエスタの腰に腕を回す。
そして、エスタはそのまま……ぎゅぅっ————
と、強く抱きしめ……ルマーニも返した。
一度も娘とはこういうことをしたことがなかったため恥ずかしさが込み上げてきていたのだが、気が付けばそんなものは消えてなくなっていた。
こんなにも、幸せなんだと……心の底から思った。
二人は抱きしめるのをやめ、エスタが口を開く。
「お母さん……私はすぐにでもラビリス帝国に行きたい。いつから入国できるの?」
「あなたが望めばいつでも向かうことはできますよ。もう入国許可証はありますからね」
「そ……それじゃあ……」
「明日……行けるように手配しておきます」
「ほんと!ありがとうお母さん!」
「俊介様とリーサ様……数人の兵を護衛につけますがよろしいですね?」
「わかった!」
エスタは喜びルマーニはその行動をまじまじと見ていた。
(この子は……こんなにも無邪気な子だったのね)
そう心の中で言いながら、軽く咳払いをするルマーニ。
エスタは小首をかしげる。
「その喋り方……絶対に民の前ではやめてくださいね?」
「やっぱり……そうだよね」
「当然です。ですが前みたいに完璧な淑女を演じる必要はないわ。私の前では今のままで結構」
母の喋りもこの時だけ柔らかくなり、エスタはびっくりしながらも頷いた。
全部が通るとは思っていない。
でも、このやり方に否定することなく受け入れてくれたことがすごく嬉しかった。
二人はそこからしばらく談笑し、部屋の外で待機しているソウカにも笑い声が聞こえ……思わず言葉をこぼす。
「よかったですね……二人とも」
そして……前方から一人、こちらに向かってきているのが見え背筋を伸ばす。
その人物は俊介で、右手には禁書を持っていた。
「すみません。今エスタ王女様とルマーニ女王陛下が話しておられますので……」
「大丈夫です。入ろうとは思っていないので」
「?」
俊介はそう言うとソウカのいる位置の反対側に立ち扉に背を向けていた。
その行動にソウカは首を傾げ、尋ねる。
「いったい……どういうつもりですか?俊介様も女王陛下に用があるのでは?」
「そうだけど、エスタが部屋から出るのを待ってるだけだよ」
「そうですか」
ものすごい気まずい雰囲気だったが、扉に近づきながら笑うエスタの声が聞こえソウカは扉を支える。
「ありがとう……って、俊介様じゃないですか!おはようございます」
「おはようございます。エスタさん……無事仲直りが出来たようですね」
「はい!おかげさまで!本当にありがとうございます!」
「俺は何もしていないですよ。ですが……その気持ちはありがたく受け取っておきます」
俊介は笑顔で返し、エスタも俊介が持っている禁書に目が行き尋ねた。
「俊介様も、お母様に用事ですか?」
「そうです。今お時間大丈夫ですか?」
俊介はソウカの方に視線を向けながら言った。
そして執事であるソウカはルマーニに視線を向け、頷くのを見て部屋へと招いた。
再度……扉は閉まり、次は俊介とルマーニが話を始める。
「まずは……この件に関して俊介様には頭が上がりません。国の事だけでなく私達家族の問題も救ってくださいました。本当にありがとうございます」
ルマーニは頭を深く下げて礼を言う。
「やめてください!俺は本当に何もしていませんよ!エスタさんが自分の意志で行ったことです。それに国の事に関してはまだ何も解決していませんよ!」
「ふふ……そうですね。ですが、本当にありがとうございます」
ルマーニは少し笑いながら言い、俊介は禁書を見せて真剣な表情になる。
「禁書の解読……一通り終わりました」
「本当ですか?それで……どのようなことが……」
「この禁書は魔力を流し込むことでその詳細を知ることが出来ます。ですが……俺は使うことが出来ないでしょう」
「……そうですか」
俊介に告げられ、ルマーニは肩を落とす。
この時、ルマーニはもう禁術を使うことはできないのではと頭によぎっていたが、次に発せられる俊介の言葉に……ルマーニは驚く。
「そこで、一つ提案というか……お願いがあるのですが——————」
——————————————————————
次の日になり、俊介とリーサ、そしてエスタと数名の兵士が城を出ようとしていた。
三人は今からラビリス帝国に向かう。
国民にもそのことを知らせ、街中はものすごい人であふれかえっていた。
「それでは、お母様……行ってきます」
「気を付けていくのですよ」
ルマーニは三人に向けて言い、エスタに近づいて再度口を開く。
「このような言葉をかけるのは少し変かもしれませんが……この国の運命はあなたにかかっています。よろしく頼みますよ」
「任せてください。いざという時は俊介様方が守ってくださいます!」
「はい。絶対にこの外交を成功させます」
「リーサさんならお手の物です!」
俊介とリーサは言葉を返し、ルマーニは手を胸に軽く当ててほっとする。
こんなにも、頼もしい人がガウルド国についてくれるという事。
ルマーニ一人だけでは絶対にこんな状況は作れなかったという事実。
全ての重なりがあって今なんだと、強く思うルマーニ。
「ですが、俺とリーサは先に裏口から出て門の外で待っていますね」
「わたくしとシュン様はここの国の人たちからはいないものとして話が進んでいますからね!」
「そうですね。それでは先に国の外で待機していてください。」
そして、俊介とリーサは先に城を出て国の外へと向かった。
数名の兵士がエスタを囲うようにして城の扉を開ける。
外には街中の人々が集まっていた。
「エスタ王女様だ!」
「今日も美しい!」
「初めての外交!頑張ってください!」
ネガティブな言葉は一切聞こえてこなかった。
真ん中の道だけが綺麗に開けられており、エスタと数名の兵士はその道を渡り……エスタは国民に手を振りながら対応していた。
その様子を城の玄関から見ていたルマーニ。
隣にいたソウカが尋ねる。
「どうですか……今のお気持ちは」
「なんていえばいいのでしょうか……嬉しいような、少し寂しいような……不思議な気持ちです」
「そうですか。きっと……それが親という事なのでしょうね」
「そうですね」
二人は話しながら、エスタが見えなくなるまで見届けていた。
リーサと俊介は空中からエスタの様子を少しだけ見ていた。
「なんか……めっちゃ嬉しいな」
「そうですね!立派です」
見ていて不思議と胸が熱くなる。
魔王で、その側近のメイド。国のいざこざに口を出すという事に対してはじめは正直怖かった。どう思われるのか……認めてもらえないのでは……と。けれど実際は人に頼りたかったけど頼れなかっただけで娘であるエスタが頼りこの国は大きく変わろうとしている。
王女としての自覚を持ちながら小さい頃のトラウマを克服し、女王陛下も今じゃ悩んでいたことが嘘のように表情も、気持ちも晴れていた。
二人はしばらく空中で見ていたためエスタが門をくぐろうとしていた。
「やっべ!早く降りるぞリーサ!」
「はい!」
◇
「揃いましたね。それではラビリス帝国に向かいましょうか」
全員が国の門の前で集合し、エスタはそう言っていた。
二人の兵士が馬を引き連れていたのをリーサは見て口を開く。
「馬車ですか!ラビリス帝国はここからどれくらいでつくのですか?」
「そうですねぇ……二日もあれば行けるでしょう」
エスタは人差し指を口に当て唸りながら言葉にし、俊介たちを馬車に乗るように促した。
「疲れたら交代するので遠慮なく言ってくださいね」
「俊介様に馬車を運転させるわけにはいきません!自分たちはこれでも鍛え上げられた兵士!これぐらいなんてことないですよ!」
「そうですよ!」
(魔王様ってこんなに優しかったんだ)
(俺……好きになっちゃうかも)
二人の兵士は心の中で俊介の温かさに感激しているのだが、俊介はジト目を向ける。
「わたくし、馬車に乗るの初めてなので少し楽しみです!」
「実は私も何ですよ……冒険って感じがしてワクワクしますよね!」
リーサとエスタはワクワクした様子で馬車の中で談笑していた。
準備が出来、前に座っていた兵士が声を上げる。
「皆さん、準備はいいですか?出発しますよ」
「はい!」
「よろしくお願いします」
そして……三人はガウルド国から離れ、ラビリス帝国へと向かった。
ここからラビリス帝国に向かうには何個かの山を越え、一つのダンジョンがあると俊介は聞いていた。
そのダンジョンまでは馬車で行き、ダンジョンを攻略した先がラビリス帝国とのこと。
俊介は少し胸騒ぎしているのを感じ取っていた。
(何もなければいいけど……一応今からラビリス帝国に向かうというのはあっちにも伝えているはず……)
そう。この道中で何かをされてもおかしくはない。
リーサもエスタもそれは思っているらしいが、二人は初めての馬車にテンションが上がっている。
「どうしたんですか?シュン様」
「ん?いや……別に何もないけど……」
「もしかして……ダンジョンの事に関して考えていますか?」
「まぁ……そうですね。ダンジョンの詳細は分からないのですよね?」
「はい……お母様曰くそのダンジョンというのは日が変わるのと同時にダンジョンの内容も変わるらしいのです。階層は少ないらしいのですが……」
「詳細が分からない分少し時間がかかるかもしれないってことですもんね」
「……はい」
二日でつくと言っていたが、ダンジョン次第では二日を超える可能性だってある。
今の段階で猶予は一週間を切ろうとしている。かなりぎりぎりになる恐れがあるということだ。
「最悪俺がダンジョンを壊してでも間に合わせるので安心してください」
「安心できないですよ」
「いいですね!」
「よくないです」
俊介の言葉にリーサは同調しエスタはツッコミを入れる。
俊介の天然、そしてリーサの俊介だけに全肯定するラブっぷり。
ここでエスタは思ってしまう。
(もしかして……私がずっとツッコミ役?)
エスタは額に手を当て軽く溜息を吐いた。
◇
その日の夜……ガウルド国の女王陛下の部屋にて……事件が起こる。
「うっ……」
いきなり倒れ、執事であるソウカが駆け付けるのだが……。
「陛下!陛下!」
「な……んですか……これは」
いきなり体が燃えるように熱くなり、体が動かなくなる。
◇
ラビリス帝国……玉の間にて。
「現在、こちらにエスタ王女が向かっているとのこと」
「そうか……それでは予定通り、ダンジョンに仕掛けをしておけ」
「わかりました」
一人の兵士にそう告げると、頬杖をついたままレン・シュバルツは声を上げる。
「ガルシア」
「はい……ここに」
「お前も手筈通りに頼むぞ?」
「かしこまりました。」
「もし……次ヘマをしたらわかっているだろうな?」
「心得ています」
頬杖をつきながら威圧的な態度をとるレンに対し、ガルシアは怯えながらも顔を下にして膝をつく。
ガルシアはこの作戦で失敗してしまえば命はないと覚悟している。
そして、王女の護衛には魔王俊介がいる。
(この借りは必ず返しますよ……魔王)
ガルシアは顔を下に向けたまま……睨みつけるようにして心の中でつぶやいた。
レン・シュバルツは立ち上がり……手を広げながら高々と口を開く。
「さぁ!始めよう!外交という名の蹂躙を!エスタ……お前はここに来た時点で詰みなんだよ。そして魔王!お前を殺し、俺が新たなる魔王として……この世界に君臨してやる!待っていろよ!」
片手で顔を覆い、不気味な笑いをするレン・シュバルツ。
そしてその指の間からは赤い瞳が垣間見える。
「せいぜいこの道中を楽しむがいいさ……頼むから、死なないでくれよ。魔王様」
笑っていたレンだったが、その表情は……笑っていなかった。
その様子を見ていた兵士、そしてガルシアは恐怖し……顔が引き攣っていた。
直後……玉の間の扉が開き、レンはその人物を目にして興ざめした様子で椅子に座った。
「我が息子……レンよ。分かっているな?」
「当然ですお父様……計画は順調。この国が頂点を取るのも時間の問題化と」
口角を上げながら話すレン。父親であるロウ・シュバルツは自分のひげを撫でながら、口にする。
「ならよい。もし……この作戦が失敗したらお前はこの国の王ではなくなってしまう。せいぜい頑張れよ」
その言葉にイライラしながらレンは父がいなくなるその瞬間まで表情を崩さなかった。
そして、扉が閉まり……レンは口にする。
「ッチ……あのクソ親父が」
レンは差し出されたワイングラスを、口にせずその場でひねりつぶした。
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