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二大魔王~魔王の護衛をしていたらいつの間にか俺も魔王として生きていくことになったので二人で世界を救うことにしました~  作者: Mini
第2章 魔王俊介視点 ガウルド国編

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19/23

王女様

 私は多分……望まれて生まれてきた人間じゃない。

 父、ロバルト・ワクタビア、母、ルマーニ・ワクタの娘として生まれた私。

 それはもう16年前の話。両親は千歳を超えており、私は魔界の王女の中でもかなり年齢が低い。

 父はものすごく優しくて、いつも私を甘やかしてくれていた。

 それとは逆に母親は甘やかすという事はせず、とても厳しい人だった。

 元々母親は一国の王女で、父親が堕としたんだとか……。自分が女であるという立場を強く理解していたのだろう。それ相応の対応……一切母親らしいことはしてもらえなかった。

 絵本を読んでもらったり、花を飾ったり。母親に抱き着くことさえも……許してはもらえなかった。

 でも、父親は……違った。


「パパ……今日もお仕事なの?」

「ごめんな我が娘よ。世界一可愛いのにパパが遊んでやれなくて……」

「ううん。いいの!パパはいつも国のために頑張ってるの知ってるもん!」

「ああ……なんてすばらしい子なんだ。すぐに帰ってくるから、いい子にして待ってるんだよ?」

「うん!」


 強く、パパを抱きしめて見送った。

 いつも城を出ると一週間は帰ってこない。国の王様だ。外交や色々なことに関して忙しいのだろう。

 父親はとても賢い人だった。

 国のため、民のためにずっと行動してきた。そしてそれが家族になるとも考えていた。

 けど……現実は厳しかった。


「あの人!家族の事は放って、国のためとか言ってまた仕事に行った!少しはこっちの身にもなってほしいものだわ!」

「気持ちは分かりますが……実際あの人のおかげで独立国家として認められていますし……禁術の使い手としてもすごく優秀な方なんですよ」


 ガウルド国の偉い人は母をなだめるようにそう言っていた。

 母の気持ちもわかる。もっと家にいてほしいと思った事あるし、遊んでほしいとも思った事がある。

 でも、それが出来ないのなら仕方ない。自然とそう思うようになっていた。

 現にそれで国も平和でいい事じゃないか。

 隠れて母とその人たちの会話を聞いていた私。


「あの子が男で……あの人の魔術を受け継いでいたら、変わっていたのかもしれないけど」


(私が男なら……もっと国はいい方向に進めたの?)


 母親が何を言っているのかイマイチ理解できなかった。

 したくなかったのだろう。

 その母の言葉が、私の心に強く残った。

 父は確かに魔術に関してものすごい人だった。魔術が苦手な私にも優しく教えてくれることもあったし、わからないことは何でも答えてくれた。

 この国の唯一の禁術の使い手……一国を滅ぼせる程の力を父は持っていたのだ。それが優位に働いたというのもあったが、父はそれ以上に人柄がよかった。仲のいい国も増えて戦争もなかった。


 

 でも……一か月が経過しても、父親は帰ってこなかった。


 大丈夫。いつものように遅くなったとか言って、すぐに帰ってくる。

 そう思っていても、今回はどこか違った。胸騒ぎがするような……落ち着かない感じ。

 そしてその答えは……すぐにわかってしまう。


「嘘……嘘よ……なんで……こんな」

「すみませんが……ロバルト様はもう……助からないでしょう」

「……パパ?」


 もうこの時点で、息はしていなかった。

 布で覆われていたけど、胴体が真っ二つにされていた。

 体には魔力の痕跡が残っており、おそらくは誰かが暗躍したのだろう。

 父親は抵抗することなくその死を受け入れたのだろうか。

 最後は……何を考えていたのだろうか。

 父親の顔は、少しだけ……幸せそうだった。

 呪縛から……地獄から解放されたような、そんな感じ。国の王という呪縛から解き放たれて、幸せそうに感じてしまった。


 ねぇ、パパ……もし、パパが優しくなかったら……暗躍されずに済んだのかな。

 答えは否だ。優しくなかったらそもそも国同士の関係もうまくいかなかったと思うし、そこまで父の事を好いていなかったと思う。言ってしまえば結果論だ。


 それでも、受け入れたくなかった。

 嫌だよ。いなくなってほしくないよ。

 ずっとそばにいてほしかった。

 笑ってほしかった。

 魔術をもっと教えてほしかった。

 色々な国にお出かけしたかった。


 そう考えていても……元に戻らない。

 葬式を開き……そこには色々な人が来ていた。

 様々の国の偉い人から子供。そこで再度、この人は色々な人から愛された人なんだなと実感した。

 私も、そんな王女になりたい。国を代表する人間になりたい。そう思った。


 しばらくして、国が落ち着いたころ……正式に母が女王陛下としてその座につき、禁術の使用権も移った。

 そこから更に母は激減した。


「絶対に、あの人が創ったこの国を……絶やしてはなりません。あなたも王女の自覚を持ちなさい。いつまでも子供のままではいられませんよ」

「はい……お母様」


 母は父が築き上げた全てを受け継ぎ、外交をし国のため……民の為に働き続けた。

 そして私は父のようになりたいという思想もどこかへと消えてしまい……母親の思想に染まってしまった。

 今思えば、母もすごく辛かったと思う。家族の時間をとか言っていても……国の為に働く仕事に就けば家族のためにとかっていう言葉は聞かなくなった。

 国のため、民のためと自分の言い逃げ道を作って、私との距離をどんどん離していった。

 そんな母親は当然のようにあまり好きじゃんかった。

 母の期待を裏切らないよう、国のために……民の為に動こう。私はいつしか、本当の自分を隠し、偽るようになっていた。

 一人になるといつも思う。父の思想やこうなりたいというのはなくなっても、父がしてくれたことは思い出していた。

 優しかった、温かった手が好きだった。

 会いたい。

 またぎゅって抱きしめたい。

 そう思って、いつも自分の布団を抱きしめていた。

 本当の私を知っていたのはパパだけだった。


 母が女王陛下になってから、やはりうまくいくことは少なかった。女だからというだけでガウルド国をいいように使ってやろう。いつも仲良くしてくれていた国の態度が急変した。

 そして母は、独立国家という道を選んだ。

 禁術が使えるから手を出してこなかった国、人柄で人々の心を掴んでいた父とは違い……女で、尚且つ禁術の使用もできない女王陛下。自ずらだけ見てしまえば舐められるのも必然だろう。

 当時はこの選択が最善だと、誰もが思った。

 でも、時間が経つにつれて国の経済もあまりいい方向には回らなくなり、ついにラビリス帝国という魔界の中でも上級国に目を点けられてしまった。

 それでも母は頑張っていたと思う。でも……独立国家を選び、他国との交流も減った今……手を貸してほしいというのも虫がいい話だ。他国の偉い人は口をそろえて無理だと、こちらの誘いを断った。

 私も、仕方ないと思った。

 そこで試しに魔王様に手紙を送ってみた。ルーナ様でも、新しい魔王になった俊介様でも……どちらでもよかった。

 そして初めて対面したとき、この人たちならなんとかしてくれるのではないかと思った。

 そう思うと、偽っているのも馬鹿らしく感じて俊介様の前では……本当の自分でいられたと思う。

 それでも、俊介様は私が使えないと思ったのか……母の言葉に頷いていた。

 何をいまさら母親面しているんだと心の底から思った。

 いつも逃げていたくせに、どうしてこういう時だけ母親を利用するのかと……今まで通り国として王女の自覚を持てと言ってくれたらそれでよかった。



 なんで……なんで……


 私が男だったらって言った時、涙を浮かべていたの?


 だってそれじゃあ……後悔していたってことになるじゃん。


 私がまだ小さい時に言っていたあの言葉……私はずっと、今でも鮮明に覚えてる。


 でもなんで……今になってそれを後悔したかのように私にそれをぶつけてくるの。


 そう思えば思う程、感情がぐちゃぐちゃになり涙が溢れて溢れて仕方がなかった。


 ベッドでうずくまっていると、部屋にノックオンが響いた。

 その人物はリーサだった。


「なんでしょうか……」

「少し、わたくしと話しませんか?」

「すみません……今はそういう気分ではないので————」

「今日一日だけ休暇をいただいたんです。街を案内してください」


 長く白い髪をなびかせて赤く優しい瞳がエスタを映す。

 父も、目が赤かったなぁ……そんなことを考えていると、断れず了承してしまった。

 そして軽く身支度を済ませ、二人は街中へと出かけていった。


「王女様だ!今日も美しい!」

「王女さま!こんにちは!」


 子供たちやご老人に笑顔で会釈し、その隣で歩いているリーサに視線を送って話しかける。


「どうして、私なんですか?私は今……城を出るのも禁止されているんですよ?お母様にバレてしまったら……」

「その時は私が言ってあげますので安心してください。それにシュン様はやることがあるみたいですので」

「そうですか」


 けれど、街中を歩くのはやはり疲れる。偽りの自分を民たちに見せ、挨拶をする。

 ここでもし、本当の私を見せたら皆驚いて王女様なんてことは言わなくなるのだろうか。

 もういっそのこと、それが良いんじゃないかとも思ってしまう自分がいた。

 

「この街……ものすごくいいですね。落ち着きます」

「そうですか?普通だと思いますけど……」

「その普通が、わたくしからしたらいい事だと思いますよ。これを見てたら戦争なんてしたくないでしょう?」

「まぁ……それは、そうですね」

「わたくしは、正直国なんてどうでもいいんですよ。わたくしの行動原理はシュン様ですから」


 ふふんと鼻を鳴らしてどやるリーサにエスタはジト目を向けるが、次の瞬間彼女は視線を空に向けて口を開いていた。


「ですが、そのシュン様はこの国を守りたいといっていました。わたくしはこの街の雰囲気が好きです。一緒に守らせてください。」

「気持ちはありがたいですが……わたくしの力じゃどうにも……ラビリス帝国に行くのもなくなってしまいましたからね」


 エスタは肩を竦めながら言い、リーサは軽く睨みながら口にした。


「それ、本気で言ってます?」

「え?ええ……お母様が仰っていましたから」

「私は、あなたの気持ちを聞いているんです。親に言われたからできない?あなたも結局、母親と同じで逃げているだけなんですよ」

「……ッ!?」


 リーサの言葉に、エスタは何も言い返すことが出来なかった。

 自分で納得してしまったからだ。

 母親が国のため民のためといって私を避けていたように、母親がそう言ったから、母親のいう事を聞けばいい。そうやって自分に言い聞かせて逃げてきた。

 この時、初めて自分も母親と同じ逃げ続けていただけなんだと、思った。


「別に、逃げるのはいいと思いますよ。誰だってそう思う瞬間はあると思いますから。でも、自分から行動しないと何も変わりません。」


 リーサは、知っている。

 俊介という身近な人が一度は逃げようとしていた。あそこで逃げる選択をしても誰も攻めなかったと思う。ルーナも仕方ないと思っていたから。

 でも、俊介は逃げずに戦う道を選んだ。前に進む選択をした。

 だから、人は変われると……知っている。


「どうしたら……いいか、わかりません。どうしたらいいと思いますか?」


 エスタは真摯にいい、リーサは少し困惑した様子をしていた。

 無理もない。周りには街の人がたくさんいて、視線が凄い。

 そしてリーサは視線をあちこちに飛ばしながら言った。


「正面からぶつかる。それしかないでしょう……それに、あなたはシュン様の部屋に来た時、全部の会話は聞いていなかったですよね?」

「そ……そうですね」

「しっかりと話をしないと、わかりません。陛下もあなたもそれなりの意見、言葉がありますからね」


 確かにそうだ。確かに全部の話を聞かず、失望して、当たってしまった。

 勝手に。

 いったい私は、何をやっているのだろうか。

 情けない。本当に情けない。

 自分の両頬を叩き、よしっと両手を握る。

 リーサも周りにいた街の人も目を丸くして驚いていた。


「いつまでもなよなよしてちゃいけませんよね!」

「まぁ……いつまでもってほどじゃないと思いますけど……」

「あ、いえ……この件の話だけじゃないです」


 自分を偽り、逃げてきた。

 母もやっと、向き合ってくれているんだ。

 考えてくれていたから、叩いてくれたんだ。

 痛かったけど、あれが初めての母親らしさなのだと、私は思った。

 だから話し合わないという手はない。

 そう思うと自分が考えていたのもバカバカしくなってきていたのだが……


「今日はさすがに……やめておきます」

「そうですね。互いのためにもそれが良いと思います。シュン様がラビリス帝国の入国の件は取り消さないでほしいとルマーニ女王陛下に掛け合ってくれています。明日にでも話してみるといいでしょう」

「そ……そうだったんですか。本当にありがとうございます」


(これをいうとシュン様は怒ると思いますが、これぐらいは許してください)


 そしてそこから二人は、しばらく街中を見て回り……エスタに案内してもらっていた。

 オレンジ色の夕焼けが街を照らし、二人は少し離れた丘へと足を運ぶ。


「今日はありがとうございました。いろいろと街を見て回れていい休日になりました。」

「いえ、礼を言うのは私の方です。私を誘ってくださりありがとうございます」


 エスタは肩を竦めながら言い、リーサは少し気恥ずかしそうに視線を逸らす。


「べ、別にあなたしか誘う相手がいなかっただけです」

「それでも、ありがとうございます」


 きっと、リーサに誘われていなかったらこんな感情にはなっていなかった。

 母親と話そうだなんて、思っていなかった。今でも部屋でうずくまって、考えても仕方のないことをずっと考えていたと思うから。

 エスタは目を瞑りながらリーサを感謝し、目を開けて沈む夕日を眺めながら言った。


「幼い時に父を亡くし、そこから私は本当の自分を隠して偽って生きてきました。ですが……もうやめようと思います」


 私はこの国の王女だから。そう言い聞かせて色々と我慢してきた。

 でも、それももうやめよう。

 本当は我儘で自分が大好き。でも……国や民も大好きで、ずっと大切にしていきたい。

 私にかかわってきた人たちは皆好き。そんな人たちを騙して生きてきた。

 けど皆には本当の私を知ってもらいたい。

 たとえ幻滅したとしても……私はありのままをみんなに知ってもらいたい。

 民はもちろん、それを一番知ってほしいのは母だ。


「私は私が好きで、偽っていた私を好きだと、敬ってくれている民、そして大切に思ってくれている母。そんな皆が好き。これって我儘ですかね?」


 頬をぽりぽりと掻きながら言うエスタに対し、リーサは笑顔で返す。


「いいえ。我儘なんかじゃないです。立派な王女様だと思いますよ」

「父も……こんな私を見て引かないといいですが」

「むしろ父はそんなあなたが好きなんじゃないんですか?どういう人かは分かりませんが、今のあなたを見ていればなんとなくわかります。自分の思想をしっかりと持った、優しい人なんだと……わたくしはそう思います」


 リーサにそう言われて、胸の奥から湧きたつ何かを感じるエスタ。

 気が付けば涙が頬を伝い、自分が泣いているのだと気づかなかった。

 知り合ってすぐの人間に言われているのに、心から……嬉しいと思った。

 そして鮮明に、幼かった記憶が呼び戻されるようにエスタの頭を巡った。


(お父様……私、頑張りますから)


 そう心の中でつぶやき、涙を拭いながらエスタは言う。


「私ってそんなにわかりやすかったですか?」

「女王陛下といる時のあなたとシュン様といる時のあなたは明らかに違いましたし、今も表情が柔らかくて親しみやすいですよ」

「そうですか」


 そして、日が落ち暗くなるまで話していた。


 小さい時はこれが好きだった。

 父のあれがすきだったこれが好きだった。

 街の雰囲気が好き、国が好き……今まで言えなかったことを全部伝えリーサさんは嫌な顔をせず全部聞いてくれた。

 そして全部言い切った時には、心が軽くなりすっきりしていると自分でもわかった。


「そろそろ帰りますか……陛下にバレると色々とめんどくさいことになりますし」

「ですね」


 そして二人は急いで城に戻る。

 運がいいことに母は部屋から出ていなかったらしく、城から出ていることはバレなかった。

 自室に戻り、カーテンを開け、電気を点ける。


「そういえば……俊介様、やることがあるってリーサさんが言ってたけど、いったい何をしていているんだろう」


 気になり、訪ねてみようと部屋を出ようとしたところで……

 窓がコンコンとなり、そちらの方へと視線を向ける。


——————————————————————


 帽子を被った男……ガルシアはガウルド国へと足を運んでいた。


「入国許可証を見せてもらおう」

「はい。こちらに……」

「……入ってよし」

「どうも」


(やはり、山での一件が気になる。いったい誰がやったのか……自分の目で確かめないと気が済まない)


 心の中でそうぼやきながら門をくぐる。

 魔物の気配も消え、山は魔術によって半壊どころかなくなったに等しい。

 そしてそれが誰かわからないと来た。

 もしかしたら魔王が関わっているのかもしれない。


(魔王ルーナは自分から国に出向いて何かをするって柄じゃないし、あるとすれば新しく魔王についた俊介という男。だがあの男は未知数でお世辞にも強いとは言い切れない)


 おまけにローブで自分の魔力を隠しているときた。

 そんな奴が強いわけがない。

 山を一個破壊できるほどの力は有していないと思うのが当然。


 が、しかし……どこか胸騒ぎがするんだ。

 理由は分からない。

 だからこそこうやって自分で確かめに行かないと気が済まないのだ。


「ラビリス帝国と戦うというのを避けたいガウルド国……他の国も助け船は出していないと聞いている。それなのにガウルド国と隣国のヒューロン国の間の山が消えた。そんな魔術師は限られる」


 しらみつぶしで行けば、やはり考えられるのは俊介という魔王だ。

 門をくぐり、ガルシアは自分の姿を消して宙へ浮きその山へと向かった。


 ◇


 ほぼ同時刻、俊介は城の窓を飛び出し山へと向かっていた。

 禁書を片手に、何かを思い立ったように俊介は空を飛ぶ。


「禁術っていうくらいだから神王級に等しい力って事なんだろうけど……なんでわけられてるんだろ」


 国で禁じられているのが禁術……神王級も同等の力を有しているのなら禁じる意味がない。

 もしかしたら神王級以上の()()が禁術に秘められているのではと俊介は考えていた。

 そして、魔力が少ないルマーニはこの禁書を解読できていなかった。

 


 もし、この禁書に()()()()()()()()()どうなるのだろうか。

 それが気になり、俊介は山へと向かった。

 俊介の考えていることが当たっていた場合、禁術はある程度の魔力があれば使えるという事。

 だが、それだけではない。何かを感じさせるこの本を試してみたくて仕方がないのだ。


(国によって禁術は違うと聞く……もし、この禁術が俺の魔術に会えば……)


 と、そんなことを考えているうちに山へと到着した。


「それじゃ、始めますかね」


 持っている禁書を開き、そこに魔力を流しこむ。

 すると……青く光り、禁書が反応する。

 

「?」


 青く光って、すぐに引っ込む。

 それだけだった。


「おかしいな……俺の考えは外れたか?」


 いいや、そんなはずはない。

 青く反応している。

 それが答えだ。

 確かに俺の考えが正しい。やはり……これ以外の何かが存在する。


 何だ。

 何が条件だ……頭をフル回転させ、今までの話、過程、そのすべてを振り返る。


(……これだ)


 俊介は、一つの答えにたどり着いた。

 のと同時に、人の気配を察知し振り返った。


「誰だ?」


 ローブを握り、臨戦態勢を取る俊介……するといるはずのなかった場所から姿を現した人物がいた。


「なるほど……透明魔術……操術の王級を完璧に使いこなしてるな」

「これはこれは新魔王様……こんなところで何をしているのですか?」


(っち、いやな予感が当たったな。やはりこの山での出来事はこいつか……)


 ガルシアの予感は的中する。

 が、自分が敵国の人間だとは悟られないようにするため防御態勢に入る。


「俺の質問にまず答えろ。お前は誰だ……どうしてここにきている」


(禁書を見られたか?咄嗟に隠したから問題はないと信じたいが……今はこいつが何者かを知るのが先だ。こいつがラビリス帝国の人間だった場合、魔王が関わっているとバラされたりでもしたら面倒)


 俊介のこの遭遇はどちらにせよ不利に働いてしまうものだった。

 自分の存在を隠しながら動くと決めた。それに徹するのが吉だったのに油断し一人で外出をしてしまった。

 ガルシアが敵国の人間であっても、そうじゃなかったにしても……魔王がここにいる。それだけでガルシアからは十分だった。

 かぶっていた帽子を取り、紳士的に振る舞いながら自己紹介をするガルシア。


「私はただのしがない魔術師……ガルシアと申すものです。ここでの出来事が少し気になりまして、様子を見に来たのですよ」

「そうか……単刀直入に聞くが、お前はラビリス帝国側の人間か?」


 俊介自身、自分がここにいる時点で何を言っても無駄だというのは自覚していた。

 それに、ガルシアという男がここにいる。それだけでただの民ではないことも理解していた。

 だからこそ、俊介は勝負に出た。先に先手を打つことで自分はガウルド国側についている。下手に手出しはできないぞと。

 そしてそれを理解したうえで、ガルシアは帽子をくるっと回しながら声のトーンを上げていった。


「さすが魔王様だ。察しの通り俺はラビリス帝国側の人間だ。けど勘違いしんといてほしいのは……俺は()()()()()()()()の魔術師という事」

「雇われているだけ?」

「そう……別に今あんたと戦いたいと微塵も思ってないし、これを報告するつもりもない」

「信用できるかよ」

「そうだな……でもそれでいいんだよ。だって俺がそう言ったって魔王様はそうはいかんだろ?見た感じ、ガウルド国のお偉いさん方しか知らない。裏で動こうとしていたって感じか」


(こいつ、かなり頭がきれるな……それに、なんだこの感じ。鳥肌が立つようなこの感覚)


 ガルシアは不敵な笑みを浮かべながら続ける。


「どうする?俺はあんたと戦う気はない。この山を確認しに来ただけ。あんたがこの国にかかわっているとラビリス帝国には言わない。こんな寛大な敵は相違ないと思うけど」


(とりあえずはこれでいい。相手の出方を伺う。こっちは魔王が関わっているという一番デカい事を知れた。もしかりにこれで襲われてけちょんけちょんにされてもアドは取れてる)


(クソ……どうする。相手の言葉を信じるのか?どちらにせよ、こいつがラビリス帝国側の人間という事しか確証は得ていない)


 どうするのが正解なんだ。

 考えないといけないこと、エスタの事やこの国の事が思考を邪魔してくる。

 俊介はコンマ数秒の間に幾千というルートを考え、出した答えは……


「ラビリス帝国側の人間なら知ってると思うが、もうそろそろガウルド国の王女と一緒にそっちに行くつもりだったんだよ」

「ほう?」

「あんたには、魔王と王女が一緒に来ると伝えてくれよ」

「裏で動きたかったのでは?」

「別にいいさ、バレてしまったら仕方のない事だからな」


 実際、民たちにバレなければいいと思っていた。

 どのみちラビリス帝国の王やその城の人間にはバレていたと思うし……。

 そう考えていくうちにどうでも良くなった。

 そしてそれを感じ取ったガルシアは身構える。


(おいおいおい……聞いてないぞ。魔王就任式の時は赤子同然だったじゃねぇか)


 それなのに、今のこいつからは……その時の感じは一切感じられなかった。

 一歩でも動いてしまったら喰われる。

 気づけば体が震えて足がすくんでいた。

 ガルシアは冷汗をかき、その汗が頬を伝う。


「どうした?さっきの薄ら笑いが消えてるぞ?」


 俊介が威圧的に、見下しながらそう言った直後……ガルシアの手は勝手に動き、魔術を発動していた。


「っく……」


(体が勝手に……防衛反応ってやつか)


 撃たされたという事実に怒りながらも、俊介の方を見る。

 今はなった魔術は水魔術の上級……氷魔術だ。そしてそれをローブで受け、魔王俊介はにやりと笑みを浮かべていた。


「ふ~ん……氷魔術ってそうやって出すんだな」


 俊介はそう言いながら、ガルシアの頭上から先程出した氷魔術を発動する。


「……ッ!?」


(さっきと全く同じ……ではない!?)


 威力もスピードも桁違い……当たれば致命傷だとすぐに理解した。

 そして……俊介はローブを脱ぎ捨てて口にする。


「俺の魔力質量ってさ、他の人たちより多いんだってさ。だから弱い術でも俺のは威力が上級以上王級未満になるらしい」

「ぺらぺらと……お前がその気なら戦ってやるよ」


 俊介の禍々しい魔力を目の当たりにし、こいつは明確に魔王なんだと理解するガルシア。

 抑えきれない魔力を隠していたんだとわかったガルシアだったが、もう遅い。


「ここでお前を消す。んでこの出来事を全部なかったことにする」

「できるもんならやってみろ金魚の糞王様が」

「……いいね」


 直後……同時に走り出し、互いに魔術を発動していた。

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