親子喧嘩
魔物退治から帰ってきた俊介たちは自室へ戻り、エスタも疲れたのか自分の部屋へと戻っていった。
俊介は頭の後ろで腕組をしながらぼやく。
「山一個分消しちゃったの結構やばかったかもな」
「どうしてですか?ものすごく強くてかっこよかったですよ?」
リーサは首を傾げながら主の姿をしっかりと目に焼き付けていたと伝え俊介は一瞬だけジト目を向けるが触れることなく続けて話していた。
「今この国に置かれてる状況は一か月という期間の間どうやって戦争をしないかという選択をしてきた。そんな中見知らぬ誰かが山一個分消せばラビリス帝国は戦争の準備をしていると勘違いするだろ?」
「確かに……言われてみればそうですね」
「まぁもう消しちゃったしあの方法しか思いつかなかったからいいんだけどさ……少し悪いことをしちゃったなって思って」
俊介の考えは正しい。
エスタを助けるため、あれは確かに最善だった。だが相手国であるラビリス帝国にも確実にこの情報は伝えられているだろう。
これがきっかけで触発される可能性も十分ある。
俊介はそれでももっと他にいい方法があったのではと、考えていたのだ。
リーサはいつもの俊介ラブ!という表情ではなく、いつになく真剣な顔で俊介に言っていた。
「わたくしは逆にシュン様の今の力が見れただけすごく嬉しいです」
「それはリーサの個人的な感想だろ?」
「はい。個人的な感想です」
「……」
リーサの言葉に俊介は眉をひくつかせるのだが、変に真摯的だなと思い何も言わなかった。
数秒の沈黙が続き、リーサは俊介をじっと見つめているだけだった。
それがものすごく気まずくて、俊介が何か話そうとしたタイミングで……リーサは再度口を開いていた。
「個人的な感想といいましたが、私の私利私欲の感情ではないです。シュン様はこの件がきっかけで戦争が早まってしまうのではないかと思っているのかもしれませんが、わたくしは逆だと思っています」
「逆って……戦争が起きないって思ってるのか?」
「いえ……起きないと思っているのではないです。向こうも未知が増えればうかつには動けない……といえばわかりますよね?」
「まぁ、わかるけど……戦争を望んでるやつらだぞ?それにガウルド国とは違ってラビリス帝国のバックには色々な国や人がついてる……女王陛下も言ってただろ」
至極真っ当な意見。俊介もこうは言っているがリーサの言っていることは理解していた。
理解したうえで、決めつけるのはよくないと。俊介はそう言いたいのだ。
リーサも俊介の言っていることに頷くが、真剣な顔は変わることなかった。
白い髪を耳の横にかけながら、リーサは言う。
「シュン様……この国には禁術がありますよね?」
「う……うん、あるけど……」
「ラビリス帝国はルマーニ女王陛下が禁術の使用権を持ちながら使えないと分かっています。ですがこの魔物の件で禁術を扱える人物かもしれないと、思わせることだってできるのですよ」
「……ッ!?」
俊介は、ようやくそこで理解した。
どうしてリーサはずっと自信満々に戦争が早まらないと言っているか。
それは未知の強敵が急に現れた……そう思わせるのと、そいつが禁術を使えるかもしれない。
そうなれば当然向こうは戦争で不利に動く。最小の犠牲で国を乗っ取れるのが犠牲を大きく出してしまうかもしれない。と、なればラビリス帝国も確かに戦争を積極的にすることはない。
が……しかし、ここで問題点がある。
俊介はルマーニから渡されていた禁書を手に取り、気まずそうに答える。
「けど実際、この禁書の事について何も解読できていないんだよな。ルーナなら何か知っているかもしれないが」
俊介がそう言い、リーサは覗き込むように顔を近づけた。
「解読出来たら一番ですが、まずは相手に禁術が使えるかもしれない……そう思わせるだけでもかなりアドバンテージは取れます」
「確かに、それもそうか」
この二週間弱で無理に解読しなくてもいい。
なんならあと少しでラビリス帝国に行ける。そこで禁術について何かわかることがあるかもしれない。
そこまで考えながら、俊介はルーナからもらった本をぺらぺらめくる。
(何か、禁術について何か書いてあるかもしれない)
が、その望みは一瞬にして消える。
『禁術は国の秘密だからその国に行って解読するしかないぞ!ちなみに俺は使えると思うけど興味ないしほとんど覚えてねぇ!わりぃな!』
文字の最後にピースの文字があり、俊介はイライラしながら声を上げた。
「あいつ……マジで肝心な所っていっつも教えてくれないよな!」
「そ……それがルーナ様って感じがしますよね」
「あいつらし過ぎて逆にむかつくよ……まぁ、仕方ないか」
俊介はため息交じりに言って肩を落とす。
リーサは苦笑して紅茶を入れようとその場を離れ、お湯を注ぐ。
コップを取り出し、俊介の前に置き……紅茶を注ぐ。
「ありがとう」
「いえ……わたくしの仕事ですから当然です」
「そうじゃなくて、山でのこと……リーサがいなかったら俺はエスタを無傷で助けることはできなかったと思う。だから、本当にありがとう。感謝してる」
俊介の急な感謝にリーサは驚き、頬を赤らめる。
持っていたトレイで顔を覆うようにし、もじもじしながら……
「わたくしは最善の事を尽くしたまでです。シュン様のお力があったからこそですよ」
「まったく、こういう時はリーサらしくないよな」
俊介の魔力はリーサとルーナが一番感じ取るのが早い。
感情を読み取るだけのものかと思っていたが、感じ取るのが早い、もっと深くの感情を読み取ることが出来る相手なら魔力信号といって心で会話することが多少だが可能だ。
それが出来なかったら少しでもやりたいことが遅れてエスタはもちろん、全滅だってあり得たかもしれない。
俊介は本当に、心からリーサに感謝している。
……今、この瞬間までは。
「わたくしはずっとシュン様に仕えるメイドなので当たり前ですよぉ!」
「何やってんのリーサ」
「なにって、愛を育んでいるのですよ!」
「……いったんそれやめれる?」
「いいじゃないですかぁ!わたくしへのご褒美だと思ってください!」
「もっと他にあるだろ」
「これがいいのです!」
「……もういいや」
リーサは俊介のほっぺをすりすり……すべすべの白い肌がこすれ、ほのかに甘い香りがしてくる。
嫌がっているけど、特段嫌だというわけではない。
ただ少し恥ずかしい。もし誰かに見られたりでもしたら本当にまずい。
しばらく、リーサはやめてくれなかった。
子供のよき行いに母親が褒めてくれている……そんな感覚だ。
俊介は恥ずかしさが増し、その場から離れる。リーサはほっぺを膨らますが、すりすりできたのが嬉しかったのか「でへぇ」とすぐに自分のほっぺを触り表情が和らいでいた。
そんなことをしていると、部屋がノックされ慌てて返事をする。
「……どなたでしょうか?」
「私です。ルマーニです……少しお時間よろしいでしょうか」
いつもより声のトーンが低く、俊介は何かあったのかとすぐに部屋の扉を開けて招く。
「どうしましたか?」
「実は、ラビリス帝国への入国が受諾されました」
「早くないですか!?」
「はい……私達も困惑しておりました。私の時は入国を拒否してきたのに、エスタの時はこんなにも早く……普通は最低でも二週間くらいはかかるのですよ」
「話すつもりになったとか?いや……それは考えにくい。やっぱり、一番予想できるのは……」
「「エスタを狙っている」」
「という事ですよね」
ルマーニと、俊介の言葉が重なる。
やはり、そう考えるのが妥当だろう。
それだけではないのだろう。
政治の話になると固くなる話が多い……一国の王女様ならまだ話す余地があると踏んだのだろう。
ルマーニよりエスタは当然魔術の錬度は低い。変な争いも避けられる。
が、俊介は気づいていた。少し前に「ラビリス帝国の王が一人で来た時何か言われたことはないか」そう聞いたとき、エスタは言いたくなさそうに視線を落とし、肩を竦めていた。それはきっと母親であるルマーニも知っていただろう。話してくれた様子はないのかもしれないが、それが間違いなく関係ある。
ルマーニは視線を落とし、口を開く。
「あなたに護衛を頼んだのは私です……ですが、今回の件、娘には敵国に行かせるのはやはり避けたいのです」
至極当然の意見だ。
俺が逆の立場でもそうする。
自分は入国を拒否され、その娘は一瞬で受諾された。
何か裏があると考えるのが自然だ。
そして様々な力を有しているであろう敵国に、王女様とはいえ一人の人間で、一人の娘を向かわせるなどさせたくない。
俊介も母親のお願いとあれば聞きたい。……が、どう話せばいいのかわからなかった。
「俺も、そうするのがいいと思います。一国の運命をエスタさんに背負わせるのは荷が重すぎるかと……」
「はい。ですが現状エスタをラビリス帝国に行かせるのが一番の解決策というのもわかっています。」
そして、ルマーニはそのまま……頭を下げて俊介に言った。
「行かせるのが一番いいというのは分かっています。ですが、娘まで失いたくないのです。ですからどうか……どうか、娘を説得させてくれないでしょうか」
考えるだけで頭痛がする。
国のため、戦争を起こさないためと分かっていながら……娘を失いたくないというのが頭をよぎる。
それがぐるぐるぐるぐるめぐり……最終的には国ではなく娘を守る判断をしてしまった。
私はいけない判断をしたのでしょうか。
答えはきっと誰にもわからない。分からないからこそ悩んで、悩んだ挙句にこういう決断をしてしまったのだろう。
俊介様に言っても……きっと変わらない。母親である私から言わないといけないのに、逃げるように……俊介様にお願いしてしまった。
情けない母親です。
「と、とりあえず顔を上げてくださ————」
俊介が言い終わる前に、勢いよく扉が開く。
俊介、リーサ……そしてルマーニは入ってきた人物に驚いていた。
「……エスタ……」
そう……この会話は、エスタに聞かれていたのだ。
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自室に戻っていたエスタは仮眠をとっていた。
そして目を覚まし、独り言つ。
「情けないなぁ私……護衛してもらってるとはいえ、足を引っ張っちゃった」
ベッドに大の字になりながら天井を見つめるエスタ。
戦えないというわけではなかった。俊介のサポートをしたかった。
けれどできなかった。俊介がエスタにリソースを割かれるというのを避けたかったからだ。
「あそこで私が加勢してても足手まといにしかならなかったし、私の魔術じゃ誰でも救えないよね」
エスタは小さくぼやいた。生まれつき魔力量が少なかったエスタ。ルマーニの、母親の後継にならないといけないのに、この世代も……禁術を扱えないのかと、常々思ってきた。
裏で色々な人に陰口を言われてるのも知ってる。母親以外は、全員エスタが男だったらと……思っているだろう。エスタ自身、そう思っている。
「私が男で、魔力量も多かったら、使える魔術も多かったんだろうなぁ」
そんなことを考えても意味はない。
わかっている。でも考えてしまう。
自分が男だったら、母親が苦労することなんてなかっただろう。
このラビリス帝国の協定というのも、少しは楽に断る事もできただろう。
魔術が使えないだけで、魔力量が低いだけで……他の国からは舐められてしまう。
仕方のない事だ。そういう世界なのだから。
でも、俊介の魔力を、戦闘を目の当たりにして思ってしまった。
きっと……自分が男でもあんな芸当はできないと。
エスタは溜息を吐きながら腕で目を隠すようにしていた。
「いつまでも変なことを考えても仕方ない!俊介様の部屋でも遊びに行こう!」
サッと起き上がり、ルンルンで部屋を出る。
見張っている兵士を横目に、挨拶をしながら俊介の部屋に向かうエスタ。
偶然にも、母親のルマーニを見つけてしまう。
「お母様?どうして俊介様の部屋に向かっているの?」
そして早歩きしていたのと忍び足に変え……後ろからゆっくりとついていくことにしたエスタ。
母親の表情も少し険しかった。
もしかしたら何かあるのかもしれない。
ルマーニは案の定、俊介の部屋に入っていき……魔力を隠しながら聞き耳を立てていた。
こもっていて聞こえづらい。
何を話しているのかわからない。エスタはそこで魔力を耳に込めてもう一度扉に耳を当てた。
『俺も、そうするのがいいと思います。一国の運命をエスタさんに背負わせるのは荷が重すぎるかと……』
(俊介様?国の運命を背負わせる?どういうこと?)
やはり。母親が俊介に何かを言っていたようだ。
エスタはこの時、ラビリス帝国についての話だと……すぐに分かった。
そしてルマーニは少し大きな声で俊介にお願いをしていた。
『はい。ですが現状エスタをラビリス帝国に行かせるのが一番の解決策というのもわかっています。ですが、娘まで失いたくないのです。ですからどうか……どうか、娘を説得させてくれないでしょうか』
(なんで……なんでそんなことを言うの?私が、私が弱いから?私がラビリス帝国に行っても……何もできないから?)
エスタは、この時ものすごくイライラしていた。
母親に無理を言って聞いてくれたと思っていたら、実の娘に隠れてそれを止めるようにと俊介に伝えていた。それがものすごくイライラを加速させていた。
部屋に入るつもりなんてなかった。
このまま聞いて知らないふりをしよう。
また後で俊介の部屋に行こう。そう思っていたが……体が勝手に動いてしまって扉を思いっきり開けてしまっていた。
みんな、驚いた様子でこちらを見ている。
母親はエスタが入ってきた瞬間、視線を落として肩を竦める。
そして……俊介が最初に口を開いた。
「エスタさん……落ち着いてください。これにはちゃんとした訳があるんです」
俊介は慌てて口にし、エスタは聞く耳を持たずに反論していた。
「俊介様は黙ってください。今私は……お母様にお話があるのです」
「……エスタ……」
「私の事を信用していないのですか?国のため、民の為に動きたい。お母様と何も変わらないはずです」
「違うんです……これは、明らかにおかしいことなのですよ」
「おかしいってなんですか!私がわざわざ敵国に行くのがおかしいのですか?」
考えるのを放棄して、思った事がどんどん口から出て行って住まう。
もし、部屋で……あんなことを考えていなかったらこんなことを言う事なんてなかったかもしれない。
怒りに身を任せるように、エスタはこぼしてしまう。
「もし私が男だったら……何か変わっていたのでしょうね」
直後……ルマーニ女王陛下はものすごい形相でエスタに近づき、勢いよく頬をはたいていた。
白い肌が赤く腫れあがり、エスタは頬を抑えながらルマーニを見る。
その瞳に映っていたのは母親は、目頭に涙を溜め……唇を震わせていた。
そして、ルマーニは声を震わせながら口にする。
「ラビリス帝国に行くのを拒否します。城から出るのも禁止です。」
「……ッ!?」
ルマーニはそう告げ、エスタは頬を抑え……部屋を飛び出しながら言った。
「さいあく」
誰も、追いかけようとはしなかった。
ルマーニは溜めていた涙を拭き取り、俊介の方へと視線を送る。
「お見苦しい所を見せてしまい申し訳ないです。魔物の件……聞きました。国を代表してお礼を言わせてください。ありがとうございます」
「いえ、大丈夫ですよ。むしろ勝手なことをしてしまったなと反省しております」
下げていた頭を上げて笑みを浮かべるルマーニ。
魔界の魔王様ともあろうお方の腰があまりにも低くて笑ってしまったのだが、それを悟られないよう……ルマーニは軽く咳払いをして再度口を開く。
「護衛の件は不問……ということにさせてください。国の事もおそらく戦争にはなりますが、もう大丈夫です。覚悟はできていますから……」
ルマーニのその言葉に、俊介の口から予想していなかった言葉が飛び出す。
「では、国の護衛をします」
「え?」
「俺が、この国を守ります。もし戦争になったりしたら俺が被害を出さず、解決させます。絶対です。約束します」
はったりではない。しっかりとした宣言をする俊介。魔王がバックにいたら心強いだろう。
だがしかし、今まで独立国家としてやってきたガウルド国がいきなり人をバックにつけるのはいかがなものかとルマーニは思考する。
俊介はそれをわかったうえで、一つの提案……これからの行動を言った。
「俺が勝手にしている事なので……お気になさらなくてもいいですよ。それと、ラビリス帝国の入国の件……少しだけ待ってください。」
「いったい、どういうことですか?何か考えでも?」
「まぁ……そんな所です」
「わかりました。では申し訳ありませんが、俊介様がいてくれるのは心強いです。お言葉に甘えてお願いします」
「はい!任せてください」
ルマーニはそう言うと、一礼してこの部屋から去っていった。
リーサは首を傾げながら問う。
「策というのは?」
「ん?そんなものないけど」
まさかの答えに、リーサは目を丸くする。
俊介はソファに背中をぐったりと預け、天井を見上げながら話す。
「国を守りたいって思ったのは手紙をくれた時からだし、是が非でも守るつもりだよ。でもさ……この国の人は血を流したくない。そう思ってるだろ?」
「まぁ……そうですね」
「だったらその可能性が一パーセントでもある入国を破棄にするのはもったいない。」
「ですが……今陛下が……」
「そうだな。ただの親子喧嘩……なんていうつもりはないけど、やっぱりこのままなのはこっちとしても嫌でしょ?それに……」
「それに?」
リーサは首を傾げるが、そこから言葉にするという事はなかった。
(それに……俺は両親と喧嘩なんてしたことないし。少し羨ましいなんて言えないよな)
喧嘩というのがどういうものなのか、少し気になってしまったというのが本音だ。
家族らしいことを間近で見られて少し嬉しい反面、羨ましいとも思ってしまった。
リーサは察して、何も言わなかった。
でも、状況が悪くなってしまったのは確かだ。
ビンタをするほど……それほどエスタの言葉がルマーニに刺さってしまったのだろう。
「男なら……かぁ」
「さすがにあれは……擁護できませんよ」
「どっちの気持ちもなんとなくわかるから何とも言えないよね。とりあえず今は……気持ちの整理の為にそっとしておこう」
「そうですね」
なんとなくわかる。
果たして本当にわかるのか……俊介は確信もないのにそう口にしてしまっていた。
女王が魔術を扱うと体に負担がかかってしまう。そしてそれを娘であるエスタも受け継いでしまっている。
もし男だったら……そう考えるのも無理はない。
「なぁリーサ……俺が街に出るのって結構やばいよな?」
「シュン様は一応この城にいるものしか来ていることは知りませんからね……今街に出れば前みたいにパニックになるでしょう。何か欲しいものでもあるのですか?」
「欲しい物っていうか……少し街を見て回ろうと思っただけだよ。もしよかったらリーサ、行ってきていいよ」
「よろしいのですか?」
「ああ、魔物退治のお礼……というか休暇みたいなものだ。今日はゆっくりしてきな」
「それでは……お言葉に甘えて。魔力信号を飛ばしてくれたらすぐにお戻りしますからね」
「わかったよ」
俊介はリーサに休暇を言い渡し、リーサは嬉しそうにこの部屋を出て行った。
周りに誰もいないことを確認して、俊介は窓から城を抜け出す。
「ちょっと気になることあるし……もっかい山の方に足を運んでみるか」
————————————————————————
「どうでしたか?お嬢様とお話はできましたか?」
自室に戻ってきたルマーニに執事は聞いた。表情らしてダメだったのだろうとなんとなく察するのだが……ルマーニは溜息を吐きながら言う。
「私……やっぱり母親失格です。あの子に強く当たってしまいました。せっかく話し合いをするチャンスだったのに、俊介様にお願いしてしまったし……はぁ、何をしているのでしょうね」
「ですが、言葉を交わす。これが出来ただけ一歩前進じゃないですか」
(本当は、俊介様に説得させるお願いをしに行ったのではなく、話に行く場所を設けてほしいとお願いしたかった)
それなのに、逃げるように口が勝手にそう言ってしまい、娘にも聞かれて最悪な結果になってしまった。
「あの子、私にさいあくといっていたのです。初めてあんな言葉を言われましたよ。もしかしたら……私の前、いや……民の前では偽っていたのかもしれませんね」
そう思えば思う程、自分が惨めだと実感してしまうルマーニ。
偽っていないといけない環境を作ってしまった事。
偽らないといけないと思わせてしまった事。
いくら女王陛下でエスタの母親だとは言え、情けないと思ってしまう。
執事は何も言わなかったが、話そうとしている事、自分の子供と言葉を交わすという事が少なかったのを知っているからこそ、この出来事はかなり前進していると思えた。
そしてそれと同時に、この国は戦争するのかと……確信してしまう。
「陛下……軍を今すぐにでも手配するべきかと……」
「そうね。まだ猶予は残っているにしろ、準備しておくのが得策でしょう。」
「他のもの達……ゴードン様のいう事はやはり聞かない方針なのでしょうか?」
「ええ、この国を渡すことはしない。取られるのなら、最後まで抗いますよ」
「御意」
ゴードンという男はレン・シュバルツが城に一人でやってきたとき協定を今すぐ吞むべきだと言っていた人物。
考えたさ。協定を結ぶということも。けれど……そうなればこの国はもう今までのような美しい街ではなくなってしまう。そしてそれをだれも望んでいない。いいように利用され、禁術を手にし……あまつさえ娘であるエスタを狙っている。そんな男の協定を結べるはずがないだろう。
それだけは……何としてでも避けたかった。
————————————————————————
窓も、カーテンも閉め切り……電気もつけず一人暗い部屋でベッドにうずくまる少女……エスタ。
「どうして、私……あんなことを言ったんだろう」
ずっと、後悔していた。
男ならと、言う言葉……おそらくは母親が一番嫌っているであろう言葉。それをわかっていて、言ってしまった。
今でも叩かれた頬がじんじんするのを感じる。
それに、俊介も庇ってはくれなかった。
むしろ賛同しているように思えた。会話を全部聞いてたわけじゃない。けど……母親も俊介も、エスタの事を信用していない。エスタはそう捉えてしまったのだ。
そして、エスタは独り言つ。
「最後まで……話を聞けばよかったなぁ」
それだけが、エスタの心に強く残った。
————————————————————————
天界、12の大天使が集う場にて……ルーナが現着し会議が開かれていた。
「んで、お前らは俺ら魔界を警戒してるんだろ?」
「当たり前だ。どうして天界の奴らが何の前触れもなく魔物に変貌しているんだ?」
一人の大天使が机を強くたたきながらルーナに問う。
ルーナは心の中で舌打ちをしながら、現界で起きたこと……そして見解を述べた。
「俺は、正直今回の件魔界の奴らの仕業ではないと思ってる」
「何を言って————」
「しーっ、黙れよ。話してんだろうが」
反抗してきた大天使を魔眼で動けなくし、ルーナは続ける。
「当然、その中に数パーセントは魔界の奴らじゃないと思いたいというのはある。だが、現界で起きていたのは一人の研究者が導き出していた答えだったんだ」
「つまりは、魔界の連中が手を貸したという痕跡はなかったのだな?」
「ああ、そういうことだ。隠れるのが上手いのか知らねぇが……少なくとも魔界の連中なら俺がすぐに気づくさ」
リュカがルーナの言葉に付け加えながら話し、ルーナは頷きながら言う。
そして、ルーナと俊介しか知らない情報を話していた。
「現界であいつは言っていた。現界人は無限の可能性を秘めている。魔界人にも、天界人にもなれるとな。俺は、この天界の件と現界の件は全くの別物と考えていいと思うが……そこの所どうなんだ?」
ルーナの問いに全員が口を閉じる。
やはり魔界の連中が絡んでいるのではないかと思ってしまうのだろう。
ルーナはそれをわかったうえで、人差し指を立てながら口を開く。
「ま、どちらにせよ俺が魔界の奴じゃないと証明する。これで天界人の仕業とかだったら、お前ら恥ずかしいぞ~?あんだけ魔界をあおっていたのに……ってな」
変な笑みを浮かべながらいうルーナに全員がイラつく。
そこで、大天使の序列第1位……ファールが席を立つ。
「お前の言いたいことは分かった。魔界を疑っている我々、そして天界を疑っているお前……だが我々も子供ではない。今天界では様々な所で様々なことが起こっている。それらを解決することが先だ」
「俺もそれには賛成する。が、その前に……ボロボロの状態で見つかったというエルフの長に一度会わせてくれ。話がしたい」
「いいだろう。我々は各自、解決に当たる。みんなも逐一報告してほしい」
「了解。そうと決まれば俺は西側の妖精の国へ行こうと思う。ワカ、お前も来い」
「へいへい……わかりましたよ」
「なら私は中央諸国のダークエルフの国に行こう。エルも来てくれるな?」
「わかった。我も向かおう」
それぞれが行き先を決め、向かう。そして残ったのがルーナと、リュカだけになる。
「すまないね。全員が全員魔界の仕業なんて思っていないんだよ。魔界の人たちがやっているにしては規模が小さい……これは明らかな前兆だ」
「ああ……わーってる。それを突き止めるために俺が来たんだ。現界の時みたいなへまはしねぇよ」
「現界の犯人が言っていたその言葉……もし本当ならとんでもないことが起こるかもしれないよ」
「……そうだな。」
「それじゃ、私も自分の仕事に取り掛かりますか」
その場から消えようとするリュカに、ルーナは小さい声で言った。
「兄貴。ありがとう」
「……ふっ、何をいまさら」
そう言って……リュカもルーナも、その場から消えた。
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