魔王様は王女様を護衛するようです
俊介とリーサは出された紅茶を片手に、王女であるエスタ・ワクタビアの話を聞いた。
「お母様や他の兵士たちに魔王様の事を伝えなかったことを詫びさせてください。」
「ま、まぁもう俺もこの国に来てしまいましたし大丈夫ですよ。それで……本題を聞かせてください。ラビリス帝国に協定を持ち込まれていると聞きましたが……」
俊介は来てしまったものはしょうがないとエスタの行動に理解を示しつつ、自然と本題に入った。
その様子を見ていてリーサは敬愛な眼差しなのか、愛の眼差しなのか。とにかく主の俊介をすごいまなざしで見ていた。
エスタはそのリーサの行動を見ては少し気まずい表情をするのだが、俊介は気にするなといいエスタも軽く咳払いをして続けた。
「約一か月前、ラビリス帝国から一通の手紙が届いたのです。内容は協定を結ばないかという誘い。ですが私達は断ったのです。何度も協定を結べという内容が届き次第に脅迫に変わったのです」
「……脅迫?」
「はい。協定を結ばなければ戦争を起こす。ガウルド国の民は無残な死を遂げると。そして二週間前、ラビリス帝国の王……レン・シュバルツが単独で城に潜入しお母様……ルマーニ女王陛下を脅し一か月の猶予を設けたのです。」
「なるほど……そこから二週間。俺達に協力を要請したのか」
「ええ……自分勝手だと重々わかっています。」
反省しているのか、エスタは肩を竦めながら答えた。
俊介は手を口元にあてて整理をする中、リーサが口を開く。
「その協定内容というのは聞いてもよろしいのですか?」
「構いませんよ。こちらがラビリス帝国が要求してきた内容になります」
エスタはラビリス帝国がよこしたであろう手紙を俊介たちに見せ、それを手に取る。
一見普通の手紙だ。
魔術も魔力も感じられない。
そしてゆっくりとその手紙を開き、内容を音読した。
協定を結ぶにあたって
・そちらの軍の六割をラビリス帝国に流す事
・ガウルド国が所有する魔術に関する技術を全て提供すること
・禁術の書を渡す事
・協定するにあたり、王はラビリス帝国のレン・シュバルツが指揮する。
と書かれていた。
その内容を読んで俊介とリーサはドン引き……
「何と言いますか……協定、とは言い難いですね」
「ああ……乗っ取りも同然だ」
こんな手紙を渡されて頷く国はどこにもない。
これはもう誰が見ても明らかだった。
第一、国同士の協力を話し合うのなら手紙ではないだろう。
「何でラビリス帝国はガウルド国に向かわず手紙で済ませようとしているんだ?」
「それは私達にもわかりません。お母様も他の者たちもこの国に眠る禁術が目的なのではないかと予想しています。」
「禁術?……ああ、ここに書かれているものか。」
俊介はリーサに首を傾げて聞いた。
「禁術ってなんだ?」
「そうですか……シュン様は何も知りませんものね。無理もないです」
「ちょっと待ってください!?禁術をご存じではないのですか!?魔王さまなのに……!?」
俊介はエスタの言葉にグサッと心に何か刺さるような感触を覚えた。
が、知らないものは仕方ない。俊介はエスタの方へ視線を向けて頬をポリポリと掻きながら言った。
「実は魔王になったのも結構不本意でして……魔界の事は何も知らないんですよ。お恥ずかしながら」
「なるほど……魔王様の護衛、という事もお伺いしておりましたが……」
「護衛……というか、ルーナに守られてたのは主に俺だったかなぁ……ごめんね。魔王なのに。情けないよね」
自分で言っていて恥ずかしくなってきた俊介。
リーサは俊介の背中をさすり元気づけるのだが、エスタはその言葉を聞いて軽蔑するわけでも、怒りをあらわにすることなく微笑していった。
「なんか……安心しました。ルーナ様は近寄りがたいって感じですけど、俊介様は少し親近感があると言いますか……あ、すみません!魔王様に親近感もありませんよね」
親近感……俊介はその言葉を聞いてどことなく安心した。
エスタの立場からしたらルマーニ女王陛下の王女。国と兵士が守ってきた人物だ。
そして俊介もルーナに守られてきた。
親近感というのも納得できた。
「大丈夫ですよ。それに俺の事は魔王様ではなく、俊介で結構です」
「そんな!魔王様を名前呼びするなど……」
「まぁ無理にとは言わないですけどね。自分は自分で魔王と認めていないので」
「……!?」
「それに、俺は魔界の事をもっと知りたいんです。ルーナがしていたことをして、皆に認めてもらうことが俺の魔王としての最初の仕事です」
こんなことを言ってしまってよかったのだろうかと思う俊介。
当然目を見開き驚いていたが、これもまた不思議でエスタは笑顔で言葉を返してくれていた。
「そうですか。それでは俊介様と呼ばせていただきます」
「似たもの同士、よろしくお願いします」
俊介はそう言いながら手を差し伸べ、エスタは迷いなくその手を取った。
エスタと俊介は固い握手を交わし、禁術について触れた。
「禁術というのは言葉の通り禁止されている術……発動すれば国や下手したら世界が滅ぶかもしれない術なのです。」
「なるほど……ラビリス帝国にもその禁術というのは存在するのか?」
「はい。ほとんどの国が禁術を所有しています。」
(国の最終兵器……というべきなのか。ラビリス帝国はガウルド国の禁術を欲しがる目的はなんだ?この感じだとその理由は分かっていないのだろう)
俊介は手を口元にあてながら整理していく。
禁術といわれるほどだ。発動させるのも相当な魔力、もしかしたら生命力を要するのかもしれない。
そう思った俊介は視線をエスタに向けながら聞いた。
「禁術を持っているだけで、それが発動できるかは別……ですよね?」
「……!?すごいですね。どうしてわかったのですか?」
エスタは目を見開き、視線を逸らしながら答える。
俊介の考えが当たったという事だ。
俊介はそのまま真摯に告げる。
「禁術は国の最終兵器……それを有している国となれば戦争など正直怖くないでしょう。それがラビリス帝国。ですがこの国は戦争を恐れ、助けを求めている。そう考えれば必然と禁術は何らかの理由で使用が出来ないと考えるのが妥当だ」
「さすがシュン様です!」
俊介の推理にリーサは拍手をしながらラブな視線を送る。
エスタは手をもじもじとさせながら視線を落として答えた。
「そうです。俊介様の言う通り今現在我が国では禁術を扱う者が存在していません。お母様……ルマーニ女王陛下がその禁術の使用を認められているのですが、陛下は魔力量が足りず禁術の使用が出来ないのです」
エスタの言葉に、俊介とリーサは驚く。
魔力が全てという世界において魔力量が少ないのにもかかわらず女王陛下に上り詰めていたという事実。敬意を表さない訳にはいかないと思い、俊介は称えた。
「すごいですね。皆さんから認められて勝ち取ったものなのでしょう」
「俊介様……ありがとうございます」
「任せてください。必ず俺が何とかしてみせます」
俊介はルーナに習ってサムズアップしていった。
確証はなかったが、こういう時は相手を安心させること。それがルーナ流というものだ。
エスタは涙を浮かべそれを拭きながら言った。
「ですが、本当によろしかったのでしょうか?お母様ともまだ話していませんが……」
「それはまた後日、しっかりコンタクトを取ってくるつもりです。それに俺は最初からこの国を救うと決めていますから」
俊介は優しい笑顔で言い、その青い瞳に映るエスタの姿。
彼女は少し赤面して、驚いていた様子だった。
俊介はそんなエスタの様子に気づくことなく、辺りを見渡しながら話していた。
「兵が少ないようですが……見張りなどは大丈夫ですか?」
「そこは安心して下さい。そもそも客室で大事な話をするんです。兵士たちはかなり反抗的でしたがそこは権力で黙らせておきました」
「……そ、そうか」
客室こそ兵を呼ぶべきではとツッコミそうになったが無理やり突破しようとするそのやり方は先程ガウルド国に入るときに俊介も同じことをしていたというのもあり何も言えなかった。
俊介はそんなことを思いながら再度ラビリス帝国の手紙を手に取る。
不思議そうに見つめるエスタとリーサ……。
「これのほかに、何か言われたことはなかったのですか?以前一人で城に来た時とか……」
俊介がそう言うと、エスタは気まずそうにしながら頷いた。
きっと、その内容は今は言いたくないのだろう。
そう察した俊介は立ち上がる。
「それでは俺達は一度帰ります。エスタさんもお疲れのようですし、そうした方がいいでしょう」
「すみません……ありがとうございます。それではまた二日後に……」
「はい。明日手紙を送りますので、その手紙をルマーニ女王陛下に渡してください。」
「わかりました」
俊介はそう言うと、リーサを連れてその部屋を出ようとして……
「また国中が騒ぎにならないかな」
「あ……確かに……」
申し訳ないがあの空気感はあまり好きではない。どうにかして他の方法はないかとあたりを見渡し、窓が目に入る。
「少し横暴ではあるかもしれませんが、その窓から飛んできます。そっちの方がエスタさんも都合がいいでしょう」
「そうですね……すみません。何から何まで……」
「いいですよ。お気になさらず……それでは!」
俊介はそう言って、次こそはこの部屋を……国を離れていった。
飛んでいく様子をみるエスタは……一言呟いた。
「これで……国が救われる……」
エスタは両手を胸にあてながらそう言った。
◇
俊介はリーサをお姫様抱っこをして窓を出て、転送魔術で来た森の出口に来ていた。
リーサは赤面しながらも強引とも呼べる俊介の行動にきゅんとしていた。
「もう、シュン様ったら……強引なんですから」
「うるさい。あれしかなかったからしょうがないだろ」
「一つ言っておきますが、わたくしはナーシャ様の近接を模倣しているだけで魔力はあるので飛べますよ?」
「早く言ってくれ!?」
俊介はおでこに手を当てながら溜息を吐き、リーサはウキウキとしながら笑みを浮かべていた。
二人はそのまま魔方陣で自分の城付近にある湖に来て自室へと戻る。
「おかえりなさいませ。シュン様……リーサ」
「ああ、ただいまイリア。何も変わりはないか?」
「はい。何も問題ございません」
俊介は自室へ足を運んで早々、何もお土産は買ってこれなかったと後悔する。
仕方のない事だ。あんな騒がれてはお土産どころではない。
イリアもそれは分かっていたことなので何も言わなかった。
そしてリーサはイリアに対し挑発するように魔力で自身にしてもらった事を伝え、イリアの瞳からハイライトが消える。
「お嬢様抱っこ?いい度胸ですね」
「あれは仕方なかったんだ!」
「問答無用です」
そしてかれこれ十分間の拷問とも呼べる質問攻めが続き、俊介は何とか耐え抜いて自室のソファに座り込む。
「それでシュン様……これからどうするか決めましたか?」
「ああ、まぁな……とりあえず明日手紙を送ってルマーニ女王陛下の出方を伺う。問題なさそうなら国にもう一回行くって感じだけど……」
俊介はそう言って天井に視線を向ける。その行動にリーサは不思議そうに見つめていた。
「何か問題でも?」
「う~ん……やっぱ表立って行動するのはどうなのかなぁって……」
「ルーナ様もしていたので問題ないのでは?」
「まぁルーナはれっきとした魔王様だし、いいと思うんだけど……問題視してるのは民の方だよ」
「民?」
やはり魔王が国のどちらかに肩を貸すのはどうなのか。
もっと言うならそれを民はどう思うのか。国の王や偉い人間は問題ないだろう。
だが貸さなかった方の国の民たちは当然いいようには思えないだろう。
そうなると……だ。必然的に裏で動く……民たちにバレないように動くという事になるだろう。
「国の為に思うのはどの国の人間も同じだ……だったら俺が今回することは簡単。公にせず戦争も起こさずに解決すること」
「それは分かりましたが……ラビリス帝国の王がそれを許すとは考えにくいです」
「そうなんだよなぁ……もう一つの問題はそこなんだよ。今変に考えるのはかえってよくないからそこらへんは二日後にガウルド国の偉い人達も集めながら話すかなぁ」
そう。今国の事を考えるのはしょうがない。それを話せればよかったのだが女王陛下は国を留守にしているというのなら仕方ない。
俺が今考えるべきなのは自分がどう動くのか魔王としてではなく、一人の人間としてどう動くのか。それによって俊介の魔王人生が大きく変わるだろう。
(……まじでどうすっかなぁ……)
と、俊介は心の中で呟くのであった。
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そして二日後、手紙もうまく通りガウルド国の女王陛下と会うことが実現した俊介とリーサ。
城の事はイリアと他のメイド、執事たちに任せて転送魔術でガウルド国に向かっていた。
「まさか、女王陛下が結構寛大な方だったとは……」
「そうですね。中々いないと思いますよ。」
俊介は申し訳なさそうに言ってリーサはそれに同意する。
というのも今回、俊介の意向により国の人間には魔王が関わったというのは一切伝えない。国の出入りは空を飛んで直接城に向かう。というなんとも無礼な行動を許してくれたのだ。
二人は空を飛び、そのまま城のバルコニーへと到着。
そこにはエスタや他の兵士、そしてその部屋の中には女王陛下らしき人物が座って待っていた。
「俊介様!」
「エスタさん……そしてこのような無礼な行動を受け入れてくださりありがとうございます。ルマーニ女王陛下」
「いいですよ。魔王様が力になってくれるのであれば頼るのは当然です。どうぞおかけになってください」
女王陛下は二人を座るように促しそのまま席に着く。執事が人数分のコップを用意して紅茶を継ぎ、飲む様子を兵士たちは見ていた。
「あれが魔王様なのか?何も魔力を感じなくね?」
「おい聞こえるぞ」
当然俊介は聞こえているしリーサは睨みつけようとするが、俊介の言葉を思い出して誤魔化すために紅茶を口に運ぶ。
そして、女王陛下のルマーニが口を開いた。
「早速本題に入りましょうか。今回のラビリス帝国との協定に関して、魔王様が手を貸してくださるという事でよろしいのですね?」
「はい。期限はもう一週間に迫ろうとしていますが……何か策は見つかりそうですか?」
ルマーニはその言葉に首を横に振る。
状況は変わらず深刻で、もう戦争をせざるを得ないと言っていた。
「ラビリス帝国に一度足を運んで直接交渉するのはどうでしょうか?」
「な……何を!」
「危険すぎる!」
「女王陛下を殺すつもりか!」
他のお偉いさん方は声を荒げ、兵士たちも槍や剣を俊介に向ける。ルマーニは手をあげて向けているものをおろせと命令する。
「私もそれは試みましたが……それは叶わなかったのです。この国は独立国家に近いですがあちらは様々な国が手を貸しています。そして何と言っても七龍賢人の存在が大きい。」
「七龍賢人?いったいそれは何ですか?」
「簡単に言うと……七人で構成された龍の賢者たちです。バックにはそのうちの一人がついているので入国するのも手間がかかるのです」
「……なるほど」
(またもや知らない言葉だ。七龍賢人……めちゃくちゃ強そうじゃん)
俊介は自身の無知さに恥じながらルマーニ女王陛下に聞いた。
「七龍賢人というのは……いったいどれほどの強さを有しているのですか?」
「簡単に言ってしまえば、魔王に最も近い存在。そして全員が禁術の使い手です」
「……もしかして、ルーナもその七龍賢人出身……だったりしますか?」
「そうですよ」
何でルーナは自分の話を全くしないんだと内心怒りながらも俊介はようやく理解した。
ルーナと近しい存在の七人の賢者たち。強さも当然のことながら禁術の使い手と来た。
(え?どうすんのこれ……詰みじゃん)
俊介は心の中でそう呟く。
実際、今の俊介は魔力の質量でごり押すというだけで戦闘技術はさほど高くない。
七龍賢人が関わってくるともなれば勝ち目はない。
そして……少しの沈黙が続いたのちに向かいに座っているエスタが声をあげた。
「私が……私がラビリス帝国に行きます」
「「「……ッ!?」」」
その場にいる全員が目を見開いて驚く。母親であるルマーニは強く否定していた。
「いけません。あなたを他国に行くのは絶対に許しません」
「どうしてですかお母様!私は国が平和に暮らせる方法があるのなら試すのがいいと思います。それに……手間がかかるってだけで行けないというわけではないのですよね?」
真摯に告げるエスタ……見つめ返すルマーニだが、溜め息を吐いて俊介の方へと視線を向ける。
「魔王様……もしよろしければ娘の護衛をしてはいただけないでしょうか」
「護衛?」
「はい。こちらとしてもできることは尽くしておきたい。全部やったうえで戦争になるのなら致し方ないです。」
ルマーニは俊介に向けてそう言い、他の偉い人達は困惑した様子で俊介を見る。
そこで、しびれを切らしたのか座っていた一人の男が声をあげた。
「正直、我々はこの男を信用できていません。魔王であっても、それはルーナ様の気まぐれではと考えております」
「というと?」
「あなたの力をぜひ見せてもらえないでしょうか」
男がそう言うと周りにいたお偉いさん方、兵士までもが頷き断れない様子。
エスタが「それは……」と口にするが、俊介は片手をあげて落ち着くように言い了承した。
(まぁ、こうなるって事はなんとなくわかってたことだしな)
リーサが心配そうに見守る中、俊介はローブに手をかざして脱ごうとする。
「一応言っておきますが、魔術に耐性のない兵士たちはこの部屋から出た方がいいと思いますよ」
「問題ない。我々兵士は厳しい訓練を乗り越え近接、魔術ともに実績も耐性もある。」
一人の兵士が高々にいい、結局この部屋から誰一人として出て行かなかった。
その言葉を信じていたのはエスタ……そしてルマーニ女王陛下だけだった。
俊介は「まぁいいか」と言葉をこぼし、ローブによって隠れていた魔力がこの城全体を覆った。
(一応これでも制御してるつもりだけど……結構つらいしめんどくさいんだよなこれ)
「な、なんだこの禍々しい魔力は!?」
「魔力の総量だけじゃない……質量が尋常じゃない……」
「魔力に押しつぶされそうだ……!」
周りにいたお偉いさん方は自身の魔力でカバーして倒れこむという事はなかった。
しかし兵士たちは舐めていたのかほとんど全員がその場で倒れていた。
エスタはその光景を見て俊介という人物が魔王様なのだと再度思い知る。
(なんなのこの力……ルーナ様でもここまで禍々しくなかった。この人はいったい……)
ルーナは心の中でそう言いながら俊介を見る。
当の本人はわざと見せつけるように出していた魔力をむき出しにしたまま、先程実力を見たいと言っていた人物に視線を向ける。
「……ッヒ」
「これで、信用してもらえましたか?いつもはこのローブを来て魔力を隠すようにしているんですよ。そうでもしないと、話し合いすらできませんからね?」
俊介の声はどんどんと低くなり、男は冷汗をかき困惑しながら言った。
「もう十分です……ありがとうございます。魔王様に力を貸していただけること、大変うれしく思います」
(掌返しやばすぎんだろ)
俊介は軽くジト目を向けてローブを着なおし、ルマーニ女王陛下に視線を向けていった。
「一度ラビリス帝国に行き、敵情視察をするのがいいと思います。その護衛の話、受けましょう」
「ありがとうございます……ですがそれでは魔王だとばれてしまうのでは……」
「自分が危惧しているのは国民です。王やその取り巻きの人たちはばれても問題はないかと」
「そうですか……すみません。それではよろしくお願いします。」
「お母様……私は絶対に戦争に反対ですからね」
「……エスタ……」
エスタの強い申し出に母親であるルマーニは折れて後日、ラビリス帝国に直接向かうことが決定した。
話は一通り終わり、俊介とリーサに部屋の用意がされ二人はそこで少しくつろいでいた。
「禁術の事は聞かなくてよかったのですか?」
「まぁあのタイミングで聞いたら全部エスタが話したってばれるし、怒られると思ってね」
「シュン様は優しいのですね」
「そう?」
そんな会話をしていると扉がノックされ、俊介は返事をする。
エスタかと思い返事をしたのだが、ドア越しから聞こえたのはエスタの声ではなく……その母親であるルマーニ女王陛下だった。
「俊介様……少しお話したいことがございまして……」
「女王陛下……お話というのは?」
部屋に招き、ソファに座る俊介とルマーニ。リーサはいつもと変わらず紅茶を入れてサッと出して部屋の隅っこに立つ。
ルマーニはリーサの手慣れた行動に少し驚きながらも紅茶を口に運んで話を始める。
「禁術……というのは聞いたことありますよね?」
「はい……一応。国や世界を滅ぼせる術というのは」
「私はその術を使う権利を持っていますが、使用できないのです。エスタ……私の娘は私と同様で魔術を扱う魔力が極端に少ないのです。極め付きは私が魔術を使えば体が蝕まれるような痛みが全身に感じます」
「……そうだったんですか」
エスタもルマーニも魔術の耐性は持っているが魔力量が極端に少ないと感じていた。
そして魔術を扱えば全身に痛みが伴う。
そんなことを聞いてしまえば何故禁術が使えないのか、そしてそれを狙うラビリス帝国にも納得がいく。
ルマーニはコップを置いて、一つの本を取り出して俊介に渡した。
「これは?」
「そちらは禁術に関する魔導書です。様々な禁術が記されております。」
「ちょっと待ってください……」
嫌な予感が頭をちらつく。
ルマーニは禁術の使用が出来ないだけでなく……その禁術の解読が出来ていないのではないかと、俊介は予想する。
そして……その予想は見事に的中してしまった。
「お恥ずかしながら私は禁術について解読できておりません。魔王様であるあなたになら……解読できるのではないのでしょうか」
俊介はどうするかと頭を巡らせる。
実際の所禁術は気になっていたし、それに関する魔導書もあるのではないかと思っていた。
今の俊介に禁術の使用は難しくとも、解読ならできるのではないかと脳裏によぎる。
そして俊介はローブの方へと視線を向ける。
(もしかしたら……)
「わかりました。できる限りのことをしてみます。」
「ありがとうございます。何から何まで……」
エスタも同じようなことを言っていたなと思い返しながら俊介は笑顔で言葉を返す。
「国を守りたいのは俺も同じですので……力になれて嬉しいです。」
「俊介様……」
しばらくの談笑をしてルマーニはこの部屋を出ようとして扉を開ける。
俊介はルマーニが去る際に一つ……何気なく言葉を発してみた。
「てっきり、俺の事を嫌っているのだと思いましたよ。」
「……?」
「何を言っているのですか……そんなわけないじゃないですか」
「それはよかったです。それでは夜も遅いので自分はこのまま休ませてもらいます」
「ええ……それでは、おやすみなさい。」
ルマーニは少し慌てた様子でこの部屋を出て、俊介は睨みつけるように扉が閉まるのを見てた。
「シュン様……今のはどういう……」
「ん?別に深い意味はないよ。でも……ちょっとね」
不思議そうに首を傾げるリーサに俊介は言葉を返す。
当然、このまま眠るという事はせず……窓を開けるのだが————
「えっと、何をしようとしているのですか?」
「それはこちらのセリフですよ!どこに行こうとしているのですか!」
なんとびっくり、護衛対象のエスタが窓の外で待機していたのだ。
王女様のその行動に肝が据わり切ってるなと少し恐怖を感じながらもエスタを部屋にあげながら弁明する俊介。
「いや~少し外の空気を吸おうとしていただけですよ」
「そうですか?……まぁこれ以上は何も言わないでおきます。」
「というより……なんで俺の部屋の前で立っていたんですか?しかも外で……」
俊介がそう言うと、エスタはビシッと人差し指を向けながら言った。
「あなたは私の護衛です!あなたが変な行動をしないか見張っていたのですよ」
「うん……普通は逆なんですけどね?俺がエスタさんの行動を見張るんですけどね?」
「……っう」
正論パンチをくらったエスタは折れることなくソファに腰を掛けてプイッと視線を逸らす。
俊介になれてきたのか初めて見る態度を目の当たりにして俊介は軽く溜息を吐いて対面のソファに座った。
(この自由奔放な感じ……少しだけルーナに似てるな)
そんなようなことを考える俊介。
「そちらの方が親しみやすいですよ」
「……な、何を言っているのですか!」
我に戻ったのか頬を赤らめるエスタ。そして自分の行動を振り返りもう反省をする。
が、俊介の言葉に少しだけホッとしたのか視線を落として口を開いていた。
「こんな姿、見せたのは俊介様が初めてですよ」
「そ、そうですか……」
「と、とにかく!俊介様は私の護衛なんですから!この一件が終わるまで私の傍から離れることを禁止します!」
「……マジ?」
「マジです!」
ビシッと人差し指を立てて若干頬を赤らめていうエスタ。俊介はおでこに手を置いてしぶしぶ了承した。
リーサはというと、ぐぬぬ……と表情を引き攣らせながら敵として認識していた。
(この泥棒猫……!わたくしのシュン様なのに!せっかく二人きりでいられる時間が増えると思ったのに!)
そして、ここから約二週間の護衛生活が始まるのだった。
俊介は護衛という言葉に少しだけ懐かしさを覚えながら、この一件を完遂させるぞと心の中で誓う。
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