この先にあるもの
ずっと、何を考えていたのだろうか。
いや、きっと何も考えていない。考えようとしていないだけだ。
ルーナと研究施設を離れた俊介は連れてこられた海岸の段差に座って波打っている波をただ、眺めているだけだった。
何も話さず、何も言わない。そんな時間が10分、20分と続いていく。
父親は俊介を庇い死に、母親は魔界人の血を取り込んで魔物へと変貌。そしてその母親を無慈悲にも殺してしまった。
俊介の行動は正しい。あの場で動いていなかったら死んでいたのは俊介の方だ。
そんなことは分かっている。
けれど、人を殺したのは初めてで……それが母親となれば話は別だ。
その辺に転がっている石を、海に放り投げる。
チャポンという音が大きく聞こえるほど、静かだった。
ルーナはその様子を見て、視線は海に向けたまま口を開いた。
「両親を殺したって言ってたけど、もしかして前俺が風呂入ってるときに一人で外に言っていたのと何か関係はあるか?」
ルーナの的確な言葉に、俊介は頷く。
服がこすれる音がかすかに聞こえ、そうなんだと察するルーナ。
ルーナはただ「そっか」とだけ言い残し、何も言わなかった。
(何かあったとは思ってたけど、あの時に親と会うなんて……いや、今はやめておこう)
変な邪推をするのは今は得策ではない。
何より、俊介のメンタルが心配だ。
時刻はもうとっくに0時を回っている頃だろう。おかげで海辺は肌寒い。ルーナは小さな火を作り、それを俊介との間に置く。
俊介はその火を見て一言……
「温かい。」
そう呟いた。
ルーナもそれに同意する。
自然と、涙が溢れてしまった。
強張っていた力が抜けたせいか。俊介は涙を流しながら次々に言葉をこぼした。
「俺の魔術で、人は救えない。俺がもっと強かったら、父さんは俺を庇わずに済んだんです。母親も、俺がもっと強かったら別の方法があったのかもしれない。まだ、殺した時の感触が手に残ってるんです。俺が殺す前、母親は『お前はこれを伝えられてどう思う』かと聞いてきたんです。俺は自分の答えを言う前に、母親がまだ話し終えてもいないのに殺してしまった。単に考えたくなかったんでしょう。自分の父親が目の前で死んで、母親は魔物になってる。そんな状況から逃げ出したかったんでしょうね。」
自分で何を言っているのかわからないまま話を続ける俊介。
ルーナは否定も、肯定もすることなく。ただ俊介の話を聞いているだけだった。
そして……俊介は軽い深呼吸をしてから言った。
「俺は、正直どう思ったのかはわからないままです。両親と会っても生みの親ってだけで育ててくれたのはたったの2年。物心つく前に両親がいないも同然だったので、どうも思わない……と思っていたのですが。どうしてでしょう。涙が止まりません。」
俊介はどうして涙が止まらないかわからなかった。
きっと知ったところで、理解はできないだろう。
最後に父親が名前を呼んでくれたこと、そして母親が持っていたペンダント。
母親であった燈景子は、全部が全部憎んでいたわけじゃなかった。
そう思ったような気がしたから……
「なぁ、シュン。もしよかったら前会ったって言っていた親の事、そして戦いの事を聞かせてくれないか」
「……はい。」
俊介はあの日、父親に会ったこと。
そしてその父親が最後に名前を呼んでくれたこと。
妻を、子供を諦めていなかったこと。
それから改めて母親が魔界人の血を利用して自分自らを魔界人……魔物になったことを話した。
ルーナは最後まで話を聞いてくれていた。
「シュンはさっき、俺の魔術で人は救えないって言ったけどさ。そもそも魔術は人を救うためのものじゃないんだよ。自分の野望を叶えるため、自分のために使う魔術。それが魔術だ。でも……お前はそれを救うために使うのを見て、俺は驚いた。そんな人を初めて見たからだ。」
ルーナは優しく、言葉を綴っていた。
「俺は心から尊敬するよ。シュン。お前がそうやって悔やんでいること。それが親父さんへの救いに繋がる。俺はそう思っているよ」
「……ルーナ」
ありがたかった。
そんなことを言われるとは思っていなかったから。
俊介は、助けれなかった悔しさを一生忘れることはないだろう。それが彼を強くし、もっとこうしていれば、もっと強くなっていれば、ということなく救える。ルーナはそう信じていたからだ。
「本当に、ルーナには助けられてばかりですね。ありがとうございます。」
「べ、別にこれくらいは当たり前だろ?」
頬を赤らめながら視線を逸らすルーナに俊介は苦笑する。
少しだけ、心が和らいだ。
自分の弱さに嘆いていたが、それは仕方のない事だ。
魔力量や質量が人並み以上にあるというだけで戦闘はからっきしダメ。
そんな人間が人を殺し、助けられるはずがない。
それを痛いほど痛感した。
俊介は海を眺めながら、決意するように口を開いた。
「俺、もっともっと強くなるよ。もう二度と、こうならないために」
「ああ、そうだな」
あの魔物を首ちょんぱできる力をもって、殺しておいて弱い。だなんて思わないでくれと言いたくなるが、その言葉を呑み込みルーナは高みを目指す相棒を見て微笑した。
実際、最後の攻撃は下にいるルーナにかなり振動が伝わってきていた。
魔力感知もそこに加わり、あれは確実に上級魔術の電光石火と気づくことが出来た。
魔術を使えるようになってまだ数日しか経っていない。それなのにここまでの飛躍を見せるかと……驚いた。
「あーあ、俺も負けてられないな。」
「どういうことですか?」
「お前は分かんなくていいんだよ。ってか、なんで敬語なんだよ。普通に喋れてんならそれでいいだろ」
「俺、敬語じゃなかったですか?」
「ああ、別にもう外せるだろ?」
「……多分?」
自分で敬語が外れていたのに気づかなかった俊介。
少し戸惑いを見せる。
実のところもう敬語を外すのは簡単だ。基本的に誰でも敬語だが、リーサ達、現界の家でのメイドたちとの接し方は敬語を外していた。言ってしまえばいつでも敬語を外せるようにと練習していたからだ。
それでもいざかしこまってみるとなんだか小恥ずかしい。
「ありがとう。これでいいか?」
「ああ、十分だ。」
互いに笑みを浮かべ、それと同時に朝日が昇る。
今辛いのは当然だ。どう話をしたって相手に失礼だ。
ルーナは俊介に対し、もう平気か?なだという言葉はかけなかった。
さっきよりも少しだけ元気になっている。それが分かっただけ十分だ。
「それで、この後はどうする?」
「どうするっていうのは?」
ルーナは色々と濁したが、俊介はあまり理解していない様子で肩を竦める。
「今は警察と俺ら魔界の方で後処理している頃だ。お前の母親も父親も、別々の墓に入れられるだろうな。んで、もう一度聞くがお前はどうする?」
俊介はようやく理解した。
このまま何もしない。何も言わなかったりしたら母親は魔界に送られ解剖される。父親と同じ墓に入れない。
俊介はまたルーナは分かりづらく物事を伝えるなと考えるも正確にくみ取っていた。
どうするのが正解なんだと、一瞬考えるが……ペンダントを見て、最後の感情を読み取った時の事を考えたら自ずと答えは出てきていた。
「同じ墓に入れてあげよう。最後、母親から幸せという感情を読み取った。母親は父親を完全に嫌いになったというわけではないと思う」
「お前がそう言うならそうしよう。俺が手配しておく」
「ありがとう。それと……母親が言っていたことなんだけど――――」
「わーってる。しばらくは魔界にも天界にも言わないつもりだ。それを知られたらかなり面倒なことになりそうだしな」
「いいのか?」
「もしそんなことを言ってしまえば母ちゃんと父ちゃん、別々になっちまうぞ?」
「あ、確かに……」
母親が言っていたこと。それは現界人は可能性が無限大と言っていたこと。
普通に否定されそうな言葉だけど、実際母親は魔物……しかも言語能力が機能している上級魔物になっていた点。
そして俊介が魔王になっていること方も完全には否定しきれない。
そこまで考え、俊介はハッと思い出したかのように視線をルーナに向ける。
「他の、魔物になった研究員達は?」
「それなら安心しろ。俺が跡形もなく消し炭にさせた」
「なら大丈夫か」
胸に手を当てて安堵する俊介。そしてそれを見てルーナも一石二鳥だったなと安心した。
(俺のただの八つ当たりで消したけど……結果こうなるのならよかったか)
そして、二人は家へと帰っていった。
かなり疲れていたというのもあり、家に着くなりすぐに眠りについた俊介。
「ルーナ様、今回の任務は……」
「安心しろ。完了だ。後始末が終わってすることしたらすぐに魔界に帰るとナーシャ達に伝えてくれ」
「かしこまりました」
リーサは俊介の寝顔を見ては終始可愛い。食べてしまいたいほどの愛おしいと思いながらルーナと話していたが、自分で作り上げた人格とはいえ恥ずかしくなってくるルーナ。
(俺別に普段からこんな感じじゃねぇからな?かなり誇張されているからな?)
と、一人心の中でぶつぶつと呟いていた。
ルーナは周りを見渡し、メイドたちに言った。
「お前ら、この家で世話をしてくれてありがとう。助かったよ」
ルーナのその言葉に、メイドたちは軽くお辞儀をしてもったいないお言葉です。と感情をあらわにした。
そしてひと段落ついたのか、ルーナも疲労を感じうとうとし始める。
(あ~……ねみぃ。つか、腹減った……)
◇
ここは……一体どこなんだ。
少し薄暗い……自分の心の声が響いているように感じる。
この感覚は、夢の中か。
俺はすぐに理解した。
そして、前に立つのは二人の人間。
暗い道に体が向いている母親の姿。そして白い道に体が向いているのは父親の姿。
ゆっくりと、父親は振り返ってにこっと笑みを浮かべた。
『俊介……父さんは平気だ。自分の生きたいように生きればいい。』
『でも、俺は救えなかった。もっと、あなたと話したかった。』
『そう思ってくれているだけで十分だよ』
『俊介が生きてくれているだけで父さんは嬉しい。それだけで……それだけでいいんだ。結果的にこうはなってしまったけど、最後に俊介と、愛する息子と話せて……幸せだ』
父親のその言葉に涙をこぼしそうになるが、それを堪えて母親の方へと視線を向ける。
『あんたが死のうが生きてようが、私には関係なかった。あんたを捨てた理由はこの研究に使おうとして泣きじゃくって抵抗していたから。私はひどい母親だよ』
『うん。でも……これだけは言わせてほしい』
父親を殺し、研究員達も利用した。
その付けが回ってきたと思えばいい。
だけど、どこまで言っても自分の母親なのは変わりない。
それに……もう話せないかもしれない。こうして話せているのが奇跡なのだから。
何故だか、これは言わないといけないと思った。……いや、何故、ではない。明確にだ。
『俺を、生んでくれてありがとう。』
『……!?』
俺がそういうと、母親は泣き崩れていた。
『どうして、こんなことをしたんだろう。』
そう言いながら、母親は泣き……白い道にいた父親は母の元に行き手を差し伸べていた。
その行動を見て、母親は困惑していた。
『俊介がせっかく一緒にいていい許可を出してくれたんだ。俺はもう君を恨んじゃいないよ』
『でも、でも……』
『その償いはもう受けたさ。俺が君についていく。どれだけ辛く立って、君となら平気だ』
『大介……ごめん。ごめんなさい……俊介……』
母親はそこから泣き止むことはなく、父が宥めていた。
俺と父さんはそこから少し……会話した。
どれだけの時間話していたのかは覚えていない。長い間話しているようにも感じたけど、一瞬のようにも感じた。
『俊介、父さんと母さんを一緒にしてくれて……ありがとう』
『うん。それじゃ俺はそろそろ行くよ』
そう言葉を交え、両親は暗い暗い道のりの中へと消えていった。その先に何があるのかはわからない。天国かもしれないし地獄かもしれない。
でもそれは、現実世界でも同じことだ。この先にあるものは地獄かもしれないし、天国かもしれない。生きている以上、そのどちらの起伏はあるだろう。
このとき俺は決めた。
俺が俺であるために、この先にあるものがそのどちらかだとしても————。
◇
「起きてください!シュン様!」
「えっと、そこで何をしているのかな?リーサ」
「起こしているだけですけど?」
人差し指を口元にあててあざとく振る舞うメイドのリーサ。目覚めが最悪、と言うわけではなかったが、ツッコまずにはいられなかった。
「ダメですよ?突っ込ん————」
「黙れ」
上に乗ってきていたリーサをどかし、ベッドに座る俊介。リーサは変な声をあげながらコロコロと転がっていく。
俊介は軽い伸びを済ませた後、窓を開ける。
「大丈夫でしたか?かなり汗をかかれていましたが……」
「ああ、大丈夫だ……少し変な夢を見ていただけだから」
「そうですか。それではわたくしは温かいお茶を持ってまいりますね。」
「助かる」
変な夢、と言ってしまえばそこまでだがあれが何だったのか。
どうして両親と話すことが出来たのだろうか。今まで夢の中で誰かと会話をしたということは一度もなかった……そもそもあれは夢だったのか。
精神世界とも呼べる場所だったような気もする……。
またこれは後でルーナにでも聞くかとぼやきながら渡されたお茶を飲む。
「温まるなぁ……」
(顔色も昨日よりよくなってる。変に心配するだけ無駄ですね)
リーサは心の中でそう思いながら部屋を出るためドアの方へと歩く。
「朝食の準備ができています。ルーナ様もお待ちです。」
「わかった。すぐに行くよ。」
俊介は急いでk替え、ルーナや他のメイドたちのいる食卓へと足を運ぶ。
ぼっさぼさでうとうとしているルーナを横目に、おいしそうなご飯が並べていくのを俊介はまじまじと見る。
俊介が席につき、その後ろに待機していた青髪のショート……イリアは鋭い目つきになりながら一言。
「これ、私が作ったんです」
「……そうか。とてもおいしそうだ」
(こわ。いったいどういう表情なのこれ)
睨んでいるようにも見える表情。けれど言動や行動は褒めてほしかったり構ってほしかったり、いわゆるツンデレっていう奴なのだろうか。
これもまためんどうなことで魔力で感情を読み取るのが一番難しい相手だっりする。
そんなイリアが今現在考えている事は……。
(今日もシュン様は美しい。素敵。可愛い。かっこい。大好き。もう一番好き。大好き。)
脳内は俊介だけの事で頭がいっぱいだった。
これもルーナが命令したのが効いているのだろうか。
ご主人様はルーナなのに、ほとんどのメイドが俊介にすごいまなざしを向けている。
俊介はそれに恐怖心すら感じている。
(ま、よくしてもらってるし……この生活もこのメイドたちも時期にお別れだし)
そう考えると少しさびしくなるなと感じる俊介。
「いただきます」
「いただきま~ふ」
二人は手を合わせて朝食を食べ始める。
食べ終わる頃にはルーナもすっかり目も覚めて元気になっている。
「ご馳走様でした。今日もおいしかったです」
「お口にあってよかったです」
「あ、メイドの件だけど……イリアとリーサはそのまま魔界についてきてくれ。他のメイドはここの家で好きに暮らしてくれ。また俺達が足を運んだ時は世話をお願いするかもしれないが」
「いいのですか?」
「わたくしたちも魔界に行って」
「ああ、少し気になることがあってな」
ルーナは渡されたお茶を手に取ってズゾゾと飲む。
他のメイドたちをいなくさせるのではなくここでお世話係として住まわせるのはいい提案だ。
俊介自身イリアとリーサが魔界に来るのは何の抵抗もないが問題はその理由だ。
「気になることって?」
俊介は首を傾げながら聞いた。
ルーナはお茶に反射する自分の顔を見て、口にした。
「勘だよ。なんかちょっと嫌な予感がするだけ。気のせいならそれでいい。」
「そう……なんだ。ならいいんだけど」
ルーナが勘と言うのは珍しいなと考えながらも俊介もお茶を口に運ぶ。
そして、一服しているところで一人のメイドが扉を開けて耳打ちでルーナに知らせる。
「そうか。わかった。ありがとう」
伝えるものを伝え終え、メイドはそそくさと部屋から出て行く。そしてルーナは真摯な顔で俊介を見ながら言った。
「どうやら後始末の方は終わったらしい。墓も立て終えたってさ」
「めっちゃ早くね?」
「ま、魔術がありますから」
「やっぱ魔術って便利」
燈大介の遺体。施設の有無。そして首謀者の宮野景子。
そのすべてが先程片づけ、魔王ルーナに連絡が入った。
ルーナは立ち上がり、俊介に聞く。
「行くだろ?」
「ああ、行く。しっかりとこの眼で今回の出来事を見て、確認したい」
そう伝えて、二人はすぐに現場へと足を運んだ。
「ようコーク。もう後始末が終わったなんて早いな。お前に負かして正解だったぜ」
「まったく、あなたは本当に人使いが荒いですよ魔王様。そちらは?」
「燈俊介です。」
「話は聞いています。両親の件は残念でしたね。魔王様。」
現場に着くとそこにはルーナの顔見知りの魔界人がおり、その人の説明によればこうだ。
施設はほとんど崩壊していてこれから撤去するとのこと。
そして燈大介の遺体。宮野景子の死体は消滅したと思われていたが、壁に付着していた腕の肉片、そしてペンダントを燈大介と同じ棺桶に入れたそうだ。
この一連の出来事はルーナの意向に従って、公にされることはなかった。
ただそこからは一度も魔物に変貌するという不可解な現象は起きなくなったとのこと。
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そこから数日が経過し、ルーナと俊介は二人で燈家の墓に来ていた。
「父さん、母さん。今日で俺は魔界に帰るよ。やりたいことも見つかった。たまに顔を出すから」
俊介はそう言いながら水をかけ、花を添えた。
ルーナは不思議そうに俊介を見て、質問をする。
「やりたい事って?」
「母さんは現界人は可能性が無限大と言っていた。それは現界人は何でもなれる。そう捉えるのが普通かもしれない。でも俺は現界人も、魔界人も、そして天界人全員が笑って暮らせる共存できる世界があってもいいんじゃないかと思ったんだ。」
「お前、それ本気で言ってんのか?」
「本気だけど、すぐにできると思っていない。魔術を悪いように扱う魔界人も当然いるし、独立を掲げている天界人はもっと難しいだろうね。でもゆっくり、ゆっくりやっていけばいずれ出来ると思うんだ。」
「……マジか」
ルーナはジト目を向けながら溜息を吐く。だが、俊介は魔術を使って人を救いたい。そう思っていたのを知っている。
そう思えば、あるいは可能性はあるのではないかと一瞬、本当に一瞬だけ思った。
「可能性は無限大だからね」
「お前、それまじでやめろ。」
俊介の夢は何十年、何百年先の話かもしれない。
でも、いいじゃないか。
夢は魔術だ。そして魔術は人の夢だ。
自分の野望のために使うのが魔術ならこれも間違っていない。
そう信じて進むと、決めたのだから。
「ルーナも、魔界に帰る前に何か言っておいたら?」
「なんで、別に何もねぇよ」
小恥ずかしそうにするルーナだが、挨拶をしずに帰るのも失礼かと思いながら俊介の両親の墓の前に立つ。
すると、自然と言葉が出てきていた。
「あんたたちの息子をあの日さらってしまったからこうなってるんじゃないかって考えてた。でも、今はそんなこと考えてないよ。これからも、今までのように俊介を守って、俊介の思い描く夢に俺も向かってく。だから見ていてくれ。」
俊介をあの日、連れ出してしまったせめてもの償い。それは俊介を守り、死なせないこと。
それがルーナの使命。同じ魔王で対等な関係だが、そこはきっと揺らぐことはないだろう。
ルーナは先日の海岸で負い目を感じていたというのも事実。
あの日連れ出していなければ。
あの日自分が外に出なければ。
そんなことを考えるが、もう過ぎてしまった事だ。
いつまでも引きずっているほどやさしい魔王じゃない。
だから、前を向いて進むしかない。
二人はそれを、痛いほど知っているから。
「さて、それじゃ……魔界に帰りますか」
「そうだね」
そこから二人は、リーサとイリアを連れてモーラを買って魔界へと帰っていった。




