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29話 魔王軍、料理を覚える

前線。


畑。


緑。


収穫。


兵士がにんじんを持っている。


沈黙。


参謀が言う。


「……それは何だ」


兵士。


「にんじんです」


「知っている」


「なぜ持っている」


「採れました」


沈黙。


兵士がもう一本抜く。


ずぼ。


別の兵士。


「大きい」


サイクロプスが腕を組む。


「食べるのか」


兵士。


「はい」


その場でかじる。


ぽり。


沈黙。


兵士の顔が歪む。


「……苦い」


完全な沈黙。


参謀。


「敵か」


兵士。


「野菜です」


メウラが言う。


「料理してください」


沈黙。


参謀。


「戦場だぞ」


「はい」


「料理するのか」


「はい」


完全な沈黙。


数時間後。


前線。


鍋。


火。


兵士が集まっている。


鍋の中。


にんじん。


玉ねぎ。


謎の葉。


ゾンビ兵が腕をかき混ぜる。


ぐるぐる。


沈黙。


参謀が言う。


「……それは何だ」


兵士。


「スープです」


サイクロプス。


「腕を入れるな」


ゾンビ。


「混ざります」


沈黙。


ドラゴンが降りる。


翼の風。


火が強くなる。


ぼっ。


鍋がぐつぐつ言う。


兵士が味見する。


沈黙。


「……甘い」


別の兵士。


「甘い」


さらに別の兵士。


「疲れが減る」


サイクロプスが言う。


「強いか」


兵士。


「うまいです」


沈黙。


そのとき。


敵襲。


敵兵が止まる。


鍋。


湯気。


兵士。


お椀。


沈黙。


敵兵。


「……何だこれは」


兵士。


「スープです」


「戦場だぞ」


「はい」


「なぜ鍋だ」


兵士。


「整います」


沈黙。


そのとき。


ドラゴンが息を吐く。


火。


ぼわ。


スープがさらに煮える。


参謀が言う。


「火力を調整しろ」


ドラゴン。


「料理です」


沈黙。


夕方。


兵士が並ぶ。


椀。


スープ。


飲む。


「軽い」


「温かい」


「眠くなる」


サイクロプスが腕を組む。


「……腹が落ち着く」


玉座の間。


参謀が報告する。


「兵士の満足度、上昇」


「食事時間、静か」


魔王が言う。


「軍は強い」


メウラ。


「はい」


魔王。


「だが」


一拍。


「温かい軍は、さらに強い」


前線。


鍋の湯気が上がる。


戦場は――


少しだけ、いい匂いだった。

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