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26話 魔王、肩が上がらない

魔王城。


玉座の間。


荘厳。


重厚。


そして――


静か。


魔王が座っている。


動かない。


沈黙。


参謀が言う。


「魔王様」


「……」


「魔王様?」


魔王が低く言う。


「少し待て」


沈黙。


魔王の右腕が、ゆっくり動く。


止まる。


震える。


上がらない。


完全な沈黙。


サイクロプスが言う。


「どうした」


魔王。


「……肩が」


沈黙。


「上がらぬ」


玉座の間が凍る。


参謀が震える声で言う。


「敵ですか」


「違う」


「呪いですか」


「違う」


魔王。


「昨日、書類を上に置いた」


沈黙。


「取ろうとした」


沈黙。


「上がらぬ」


完全な沈黙。


サイクロプスが低く言う。


「……肩か」


医務室。


魔王が座っている。


重い沈黙。


メウラが言う。


「どこまで上がりますか」


魔王が腕を上げる。


少し。


止まる。


顔が歪む。


「そこまでだ」


沈黙。


参謀が言う。


「敵は」


「肩です」


サイクロプス。


「戦えるか」


魔王。


「威厳は出せる」


沈黙。


メウラが言う。


「原因があります」


参謀。


「呪いか」


「違います」


一拍。


「玉座です」


完全な沈黙。


メウラが説明する。


「長時間、腕を固定しています」


「書類」


「判子」


「威厳」


沈黙。


「動かさなすぎです」


サイクロプスが言う。


「魔王様だぞ」


メウラ。


「肩です」


沈黙。


対策。


導入。


肩回し。


参謀が震える。


「魔王様が……体操を」


魔王が立つ。


腕を回す。


ぐる。


ぐる。


鎧が鳴る。


ぎし。


沈黙。


サイクロプス「威厳が回っている」


参謀「止めますか」


魔王。


「軽い」


完全な沈黙。


数日後。


玉座の間。


魔王が腕を上げる。


すっと上がる。


参謀が言う。


「上がっています」


魔王「軽い」


サイクロプスが腕を組む。


「強いな」


メウラが言う。


「はい」


一拍。


「動く魔王は、さらに強いです」


外から声。


「三刻目、水!」


少し間。


「三刻目、日陰!」


さらに間。


「三刻目、肩回し!」


完全な沈黙。


参謀が言う。


「……誰だ」


外。


兵士が腕を回している。


ぐる。


ぐる。


魔王城は静かだった。


魔王の肩は――


上がっていた。

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