19話 ドラゴンが動けません
前線。
空。
轟音。
巨大な影。
ドラゴン部隊。
その一体が――
止まっている。
地面に伏せたまま、動かない。
参謀が叫ぶ。
「落ちたのか!」
副官が首を振る。
「いえ」
「……動けません」
沈黙。
サイクロプスが低く言う。
「傷か」
「ちがいます」
「毒か」
「ちがいます」
巨大竜が呻く。
「……腰が……」
沈黙。
玉座の間。
「ドラゴンが動けません」
完全な沈黙。
魔王が言う。
「どのドラゴンだ」
「第一旋回隊長、ヴォルグ」
空気が凍る。
三百回旋回無失速。
誇り高き空の王。
医務室。
ヴォルグが横たわっている。
羽は無傷。
鱗も割れていない。
だが、起き上がれない。
メウラが静かに言う。
「旋回は何回ですか」
副官が答える。
「……昨日、百二十回」
沈黙。
「通常は」
「六十回です」
沈黙。
サイクロプスが唸る。
「倍か」
副官が胸を張る。
「魔王軍は整っていると」
「聞いた」
「だから増やした」
沈黙。
メウラ。
「整っているから、増やすのではありません」
ヴォルグが低く言う。
「……まだ飛べる」
起き上がろうとする。
「無理です」
ぐきっ。
嫌な音。
沈黙。
参謀が呟く。
「ぎっくり腰だ」
玉座の間。
魔王が低く言う。
「竜が、ぎっくり腰」
誰も笑わない。
サイクロプスが言う。
「空の王だぞ」
メウラが言う。
「王にも腰はあります」
沈黙。
旋回訓練場。
他のドラゴンたちがざわつく。
「飛び足りぬ」
「止まると鈍る」
「回数を戻すべきだ」
沈黙。
メウラが言う。
「回数を減らします」
「何だと」
「旋回四十回に」
ざわめき。
「弱くなる」
「鈍る」
ヴォルグが言う。
「……飛びたい」
メウラは静かに答える。
「飛びすぎです」
沈黙。
その夜。
尾を引きずる音が響く。
旋回数を減らす。
ストレッチを導入。
だが――
翌日。
若手竜が言う。
「物足りぬ」
別の竜。
「高度が落ちる」
サイクロプス。
「……整っていないな」
沈黙。
メウラは空を見る。
「まだ原因が違います」
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