16話 有給制度を導入します
玉座の間。
参謀が報告している。
「離脱率低下。事故減少。士気安定」
魔王がうなずく。
「良い」
静寂。
そのとき。
リオが、手を挙げた。
小さく。
「……発言、よろしいでしょうか」
参謀が見る。
「簡潔に」
リオは言った。
「有給を、申請します」
沈黙。
風もないのに、マントが揺れた気がした。
サイクロプスが低く言う。
「有給とは」
参謀が答える。
「給金を払いながら、働かせない制度です」
サイクロプスが固まる。
「罰か?」
「違います」
「褒美か?」
「違います」
「拷問か?」
「違います」
リオが言う。
「普通の休みです」
沈黙。
魔王がゆっくり口を開く。
「……休みは、弱者がとるものだ」
リオは答える。
「整っている者が、とるものです」
玉座の間が止まる。
メウラが補足する。
「疲労は目に見えません」
「見えない敵です」
サイクロプスが言う。
「なら斬ればいい」
「斬れません」
「では殴る」
「殴れません」
「弱いな」
リオが言う。
「強いです」
沈黙。
参謀が紙を見る。
「何日だ」
「三日です」
「三日……」
「三日だと……」
幹部たちがざわつく。
「三日あれば砦が落ちる」
「三日あれば敵が増える」
「三日あれば……太る」
メウラが小さく言う。
「太りません」
魔王がリオを見る。
「理由は」
リオは少し考えた。
「……何もしない日を、してみたいです」
沈黙。
サイクロプスが眉をひそめる。
「何もしないとは」
「起きて、食べて、寝ます」
「それだけか」
「はい」
「修行は」
「しません」
「鍛錬は」
「しません」
「腕立ては」
「しません」
沈黙。
サイクロプスが、ゆっくり言う。
「……俺は」
空気が重くなる。
「百年、休んでいない」
玉座の間が凍る。
誰も、すぐには反応できない。
参謀が小さく聞き返す。
「……百年?」
「戦い続けて百年だ」
「寝てはいる」
「だが休んでいない」
沈黙。
サイクロプスの目が光る。
「休むとは、止まることだ」
「止まったら、終わる」
静寂。
リオが静かに言う。
「終わってません」
サイクロプスが見る。
「今も、ここにいます」
沈黙。
メウラが言う。
「百年分、溜まっています」
玉座の間がざわつく。
「溜まるのか」
「百年分……」
参謀が震える声で言う。
「……有給は、貯まるのか」
リオが答える。
「はい」
玉座の間が崩れかける。
サイクロプスが低くつぶやく。
「……百年分」
沈黙。
リオが言う。
「まず三日からで」
サイクロップスが言う。
「……三日で、足りるのか」
沈黙。
長い。
魔王が立ち上がる。
「リオ」
「はい」
「三日」
空気が凍る。
「帰ってくるな」
ざわめき。
「三日は、魔王軍であることを忘れろ」
静寂。
「それが、有給だ」
沈黙。
参謀が震える手で紙に印を押す。
「……承認」
玉座の間がざわつく。
サイクロプスが小さく言う。
「……三日も何もしないと、人はどうなる」
メウラが答える。
「元気になります」
参謀が震える声で言う。
「……有休を消化しなければどうなる」
リオが答える。
「溜まります」
玉座の間が崩れかける。
三日後。
リオが戻る。
顔色がいい。
目が澄んでいる。
歩幅が広い。
玉座の間。
魔王が見る。
「どうだ」
リオは即答した。
「最高でした」
沈黙。
「何をした」
「寝ました」
「それだけか」
「あと、散歩」
「修行は」
「してません」
サイクロプスが身を乗り出す。
「弱くなったか」
リオが剣を抜く。
一閃。
柱の角がきれいに削れる。
静寂。
参謀がつぶやく。
「……速い」
リオが言う。
「よく寝ると、視界が広いです」
メウラがうなずく。
「整っています」
サイクロプスが小さく言う。
「……俺も三日」
参謀が反射的に叫ぶ。
「却下だ!」
沈黙。
魔王が言う。
「順番だ」
玉座の間が静かにざわめいた。
その日。
魔王軍に初めて、
「何もしないための制度」が生まれた。
その日。
魔王軍の訓練場は、
少しだけ静かだった。
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