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15話 削られすぎた兵士の初日

朝は、静かだった。


怒号はない。

鐘も鳴らない。


ただ、扉が軽く叩かれる。


「起床まで、あと三十分」


沈黙。


リオは目を開ける。


天井は高い。

石だが、湿っていない。


布団がある。


布団。


手で触れる。

柔らかい。


「……寝た」


六時間。


起きたのに、頭が重くない。


隣のベッド。


角のある魔族がゆっくり起き上がる。


「どうだ」


「……軽い」


「普通だ」


沈黙。


廊下。


水が並んでいる。


桶ではない。

一人一本。


「支給だ」


リオは受け取る。


冷たい。


ごく。


怒鳴られない。


「……飲んでいいのか」


「飲むものだ」


沈黙。


食堂。


卵。

パン。

野菜。


野菜。


リオは止まる。


「これも、食べるのか」


「胃が楽だ」


「戦前に?」


「戦う前だからだ」


沈黙。


訓練場。


静かだ。


隊列は整っている。


号令は短い。


「うお!」


三秒。


開始。


呼吸。


水。


循環。


三刻後。


誰も座り込まない。


四刻後。


汗はある。

だが目は死んでいない。


休憩。


全員が座る。


当たり前のように。


リオは戸惑う。


「……怒られないのか」


「なぜだ」


「止まった」


「止まる時間だ」


沈黙。


昼。


十五分。


横になる。


風が吹く。


目を閉じる。


怒号がない。


夢もない。


起きる。


「……まだ動ける」


隣の魔族が言う。


「普通だ」


沈黙。


夕方。


報告。


・誤射ゼロ

・転倒ゼロ

・脱落ゼロ


リオは紙を見る。


「ゼロ……」


「普通だ」


沈黙。


夜。


兵舎。


静かだ。


いびきは小さい。


誰も叫ばない。


リオは天井を見る。


怒号がない。


「削れ」と言われない。


水を飲んでも、責められない。


目を閉じる。


遠くで鐘が鳴る。


消灯。


六時間。


保証されている。


リオは小さく呟く。


「……整っている」


隣の魔族が言う。


「当たり前だ」


沈黙。


魔王城、玉座の間。


参謀が報告する。


「本日入隊の人間兵、一名」


魔王が問う。


「様子は」


「静かです」


メウラが小さく言う。


「眠れています」


魔王はうなずく。


「……それでよい」


窓の外。


灯りが少ない。


城は、静かだ。


その静けさの中で、


戦闘継続時間は、


また少しだけ、伸びていた。

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