14話 退職
勇者城、作戦室。
沈黙。
机の上には、昨日の紙。
【最近の欠員数】
参謀がそれを裏返す。
見えなくする。
勇者が言う。
「整い改革室は解体した」
「はい」
「欠員は」
「気のせいです」
沈黙。
扉が叩かれる。
「入れ」
リオが入る。
手には紙。
参謀が見る。
「何だ」
「退職願です」
沈黙。
勇者がゆっくり言う。
「……整いは検討中だ」
「検討三ヶ月目です」
「気合が足りん」
「睡眠が足りません」
沈黙。
参謀が言う。
「敵に行くのか」
「水が冷たいらしいです」
沈黙。
勇者が言う。
「自己責任だぞ」
「はい」
「裏切りだぞ」
「水です」
沈黙。
参謀が紙を受け取る。
「理由欄が空白だ」
「書きますか」
「書け」
リオはさらさらと書く。
【六時間】
沈黙。
「具体的すぎる」
「分かりやすいです」
長い沈黙。
勇者が言う。
「最後に問う」
「何だ」
「我らは弱いか」
リオは少し考える。
「強いです」
沈黙。
「だが、削りすぎです」
静寂。
参謀が言う。
「受理する」
「早いですね」
「欠員は慣れている」
沈黙。
勇者城、廊下。
【気合推進係】
の紙が剥がれかけている。
リオが立ち止まる。
下に、うっすら残る文字。
【整い改革室】
小さく笑う。
遠くで怒号。
「削れ!」
リオが呟く。
「削れない範囲で削ってください」
誰も聞いていない。
正門。
兵士が立っている。
「裏切り者」
リオが答える。
「水、飲めよ」
兵士が言う。
「自己責任だ」
「そうだな」
沈黙。
リオが門を出る。
外は静かだ。
遠くに黒い城。
列。
角。
牙。
……人間。
リオが並ぶ。
前の魔族が振り向く。
「志望動機は」
「削られました」
「よくある」
沈黙。
門番が言う。
「次」
リオが前に出る。
門番が紙を見る。
「睡眠時間」
「六時間」
「水」
「支給」
「怒号」
「少なめ」
沈黙。
門番が水を差し出す。
「飲め」
リオが受け取る。
ごく。
止まる。
「……冷たい」
「普通だ」
「怒鳴られない」
「普通だ」
沈黙。
門番が言う。
「面接は形式だ」
「形式」
「六時間眠れるか」
「眠れますか」
「眠らせる」
沈黙。
門がゆっくり開く。
後ろでかすかに聞こえる。
「削れ!」
リオは振り返らない。
そして一歩、内側へ入る。
門が閉まる。
その日、勇者軍では
欠員が一名増えた。
気のせいではなかった。
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