表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/30

11話 引き抜きは卑怯ですか?

勇者城、作戦室。


沈黙。


参謀が机を叩く。


「黒い封筒が出回っています」


勇者が眉をひそめる。


「例の“水は自己責任ではありません”か」


「はい」


紙が机に置かれる。


【面接は随時】


【六時間】


【水分支給】


沈黙。


「……六時間と書くな」


参謀が低く言う。


「兵が揺れます」


扉が開く。


「報告! 第五隊、三名欠員!」


「理由は!」


「“整え直してきます”と」


沈黙。


勇者が言う。


「裏切りか」


参謀が首を振る。


「退職届です」


「退職……」


勇者城、廊下。


リオが歩いている。


目の下は、まだ黒い。


だが、封筒は懐にある。


後ろから声。


「リオ」


振り向く。


同僚だ。


「……お前もか」


「何が」


「黒い封筒」


沈黙。


同僚が小さく言う。


「昨日、倒れたやつがいる」


「誰だ」


「第四隊のケイン」


「無理をした」


「いや」


沈黙。


「水を飲まなかった」


静かになる。


「……自己責任だ」


「そうだな」


だが声は弱い。


その頃。


魔王城、正門前。


長蛇の列。


角。

牙。

……人間。

元勇者軍。


門番が言う。


「次」


人間が前に出る。


「志望動機を」


紙に書かれる。


【削られすぎました】


門番が読む。


「正直だな」


玉座の間。


参謀が報告する。


「本日、志願者二十七名」


「内、元勇者軍十二名」


沈黙。


サイクロプスが腕を組む。


「戦わずに削るか」


魔王が低く言う。


「削ってはおらぬ」


メウラが小さく言う。


「削れた者が来ます」


沈黙。


そのとき。


扉が開く。


勇者軍の使者。


白い鎧。


硬い顔。


「勇者様より伝言」


玉座の間が静まる。


「“引き抜きは卑怯である”」


沈黙。


参謀が答える。


「引き抜いておりません」


「ではこの封筒は何だ」


黒い封筒が掲げられる。


メウラが見る。


「面接案内です」


「敵兵を誘惑している!」


「水の案内です」


沈黙。


使者が声を荒げる。


「我らの兵が揺らいでいる!」


魔王がゆっくり立ち上がる。


「問おう」


「何だ」


「六時間眠らせているか」


沈黙。


「水は支給しているか」


沈黙。


「野菜は出しているか」


沈黙。


使者の拳が震える。


「戦士に甘えは不要だ!」


メウラが言う。


「倒れています」


静寂。


「我らは引き抜いていない」


魔王が続ける。


「選ばれているだけだ」


沈黙。


使者は言葉を失う。


その頃。


勇者城、訓練場。


怒号。


「削れ!」


兵士が小さく言う。


「……削れたら、どうなる」


誰も答えない。


夜。


リオは封筒を開く。


もう一度、読む。


【水は、自己責任ではありません】


【面接は随時】


【六時間】


遠くでまた怒号。


「止まるな!」


リオは目を閉じる。


十五分。


静かに。


翌朝。


勇者城、作戦室。


参謀が言う。


「本日も欠員五名」


勇者が拳を握る。


「対策を」


「整い対策室を設置しますか」


沈黙。


「……整いとは何だ」


その問いに、誰も答えられなかった。


魔王城。


門前の列は、さらに伸びていた。


角を磨く音が、静かに響く。


そして魔王が小さく呟く。


「戦とは、力の奪い合いだと思っていた」


メウラが答える。


「整っているほうが、残ります」


沈黙。


列は、今日も減らなかった。

面白かったら

ブックマークや評価を

してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ