10話 勇者軍は自己責任
勇者城、訓練場。
怒号。
剣戟。
砂煙。
「止まるな!」
教官の声が響く。
兵士が倒れる。
「立て!」
「はい!」
立ち上がる。
ふらつく。
「水は!」
沈黙。
教官が言う。
「自己責任だ!」
兵士が小さくつぶやく。
「喉が……」
「甘えるな!」
作戦室。
参謀が報告する。
「魔王軍の志願者が増えています」
勇者が言う。
「関係ない」
「元兵も流出しています」
「弱い者が去っただけだ」
沈黙。
リオが立っている。
目の下は、まだ黒い。
「何か言いたいのか」
「……水を」
沈黙。
「何だ」
「水を、定期的に」
参謀が言う。
「自己責任だ」
リオは口を閉じる。
夜。
訓練場はまだ明るい。
松明。
剣。
汗。
「三刻追加だ!」
ざわめき。
「……三刻?」
「魔王軍が整っているなら、我らは削る!」
兵士が小声で言う。
「削る……」
「削る!」
怒号。
一人が膝をつく。
「足が……」
「根性だ!」
兵舎。
狭い。
湿っている。
隣のいびき。
誰かがうなされる。
リオが目を開ける。
「……眠い」
外で鐘が鳴る。
「起床!」
まだ外は真っ暗だ。
翌日。
模擬戦。
魔王軍。
静か。
水。
呼吸。
循環。
勇者軍。
怒号。
衝突。
三刻後。
勇者軍の一人が誤射。
四刻後。
二人が座り込む。
五刻後。
隊列が乱れる。
参謀が歯を食いしばる。
「気合が足りん!」
魔王軍は崩れない。
静かに押す。
終了。
作戦室。
沈黙。
参謀が言う。
「偶然です」
勇者が言う。
「削りが足りん」
リオが小さく言う。
「削りすぎです」
「……俺たちに、何が残りますか」
空気が凍る。
「何だと」
「……眠っていません」
「戦士に睡眠は不要だ」
「30分増やすだけでいいんです」
沈黙。
参謀が言う。
「甘えるな、自己責任だ」
リオが喉をさする。
乾いている。
「……水を」
「自己責任だ」
夜。
リオはこっそり水を飲む。
ごく。
静かだ。
少しだけ、軽い。
遠くで教官の声。
「止まるな!」
リオは小さくつぶやく。
「……止まりたい」
そのとき。
足元に、何かが落ちているのに気づく。
小さな紙。
勇者城のものではない、黒い封筒。
水滴が一つ、落ちている。
中には、一枚。
【水は、自己責任ではありません】
【面接は随時】
【六時間】
沈黙。
リオは封筒を閉じる。
遠くでまた怒号。
「削れ!」
リオは喉をさする。
そして、もう一口、水を飲んだ。
その水は、自己責任だった。
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