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(27)友達になりたい?

 ラーメンは人を無口にする。とは言わないが、二人はしばらく無言で麺を啜ることに没頭した。しばらくして晴太が箸を置くと、渚の器はすでにスープが少し残っているくらいになっていた。

「ごちそうさまでした」

 晴太が手を合わせると、渚が持っていたコップを置いて尋ねた。

「もういいの?」

「うん」

「じゃ、出よっか」

 渚はそう言うと席を立った。晴太もコップに残っていた水を飲み干し、席を立つ。お昼時を少し過ぎたからか、さっきよりも客は少なくなっているようだった。


 扉を開けると一気に空気が変わった。街は穏やかで、何かとせわしなく動いていた店内とは別世界のようだ。街の香りに混じって うっすらと潮の香りが漂ってくる。

「この後どうしよっか」

 渚は晴太の顔を見て尋ねた。

「どうしよっか」

 晴太も渚の顔を見て尋ねる。

「そろそろ帰る?」

 晴太がそう尋ねると、渚は「え!?」と声を上げる。

「まだ早くない?もっと……」

「もっと?」

「あっ……その……もっとどこかいかない?本屋さんとか」

 渚の提案により二人は本屋に行くことになった。晴太もよく行く、この街で一番大きな本屋だ。晴太は小説をよく読むが渚は漫画しか読まないと言っていたので、果たして趣味が合うのだろうかという不安はあったが、意外にも漫画の趣味は結構共通していた。二人はそれぞれの好きな漫画、気になっている作品やらオススメなどを話しながら、本棚の路地を右へ左へ歩く。歩きながら、晴太は朝、家を出るときに『本屋に行ってくる』と誤魔化して来たことを思い出した。その時はまさか本当に本屋に来ることになるとは思っていなかったが。

「あ、久条くんここにいたんだ…………って、ここ魔導系の専門書の棚じゃん」

 しばらく別行動をしていた渚が、晴太の前に広がる本の群れを見て顔をしかめる。

「意外と分かりやすいのもあるよ?これとか」

 晴太は手に持っていた本の表紙を渚に見せた。

「ええ~?結構分厚いじゃん」

「でもほら、こういうのって読んでるだけでなんか頭よくなったようなきがしてくるし」

「それは久条くんが本読める人だからそんな風に言えるんだよ……。あたしなんかじゃとてもとても」

「そうかなぁ~?」

 こんな感じで一時間ほど、二人は本屋の中をうろうろしていた。お互いいくつかめぼしい本を見つけたが、結局何も買わずに本屋を後にした。それから他愛のない話をしつつぶらぶらと待ち合わせ場所だった駅前の広場と戻った。


「ああっ!?」

 歩き疲れたということで広場のベンチに座って休んでいると、ぼーっと広場を眺めていたら渚が突然声を上げた。

「どうしたの?」

「お礼……。勉強を教えてくれたお礼、するって言ってたのに。すっかり忘れてた……」

「でもご飯は食べたよ?」

 晴太は首をかしげる。もともとお礼もかねて食事に行こうと言う話だったので、晴太としては、その件は終わった気になっていたのだ。だが渚は首を横に振る。

「だって結局、お金はそれぞれで払ったじゃん。あたしが奢るつもりだったのに……」

「いやいや、いいよ気にしなくて」

「う~、でも……」

 渚は納得していないような顔で辺りをキョロキョロと見回す。そしてある場所に目をとめた。

「あ!久条くん、アイスとか好き?」

「うん?まあ、好きだけど……」

 そう言いつつ晴太は渚の視線を辿ると、そこにはソフトクリーム屋の移動販売があった。確か、夏限定で週末の二日間だけ広場に売りに来ているはずだ。晴太はまだこの街に来て間もないのでよく知らないが、この辺の人たちにとっては夏の風物詩のようなものであるらしい。

「あれ、奢らせて」

「でも悪いよ」

「悪いとかじゃないから。お礼だから。お願い、奢らせて!」

「うん……じゃあ、奢ってもらおうかな?」

 お願いされてお礼をさせるというのも変な話だなぁと思いながらも晴太は了承した。二人はソフトクリーム屋の方へ向かう。

「どれにする?」

 メニューを見ながら渚が尋ねる。メニューは五種類と意外にも種類が多かったが、晴太はシンプルなバニラを選んだ。渚はレモン味。渚が白いバニラと黄色いレモンを受け取り、二人は近場のベンチに腰掛ける。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 渚からソフトクリームを受け取ると、晴太は早速それをかじった。

「かじる派なんだね」

 渚が言った。そういう渚は舐める派のようだ。「溶けるのが嫌で」と言って、晴太はまたかじる。

「なんか、久しぶりだなぁ……、ソフトクリーム食べるの」

 晴太は広場を眺めながら呟く。わずかに日の傾き始めた広場では、ペットを連れた人や制服姿の男女などが思い思いの場所に腰掛け、非常に和やかな雰囲気だった。

「あたしも……結構久しぶりかも」

 渚も同じように広場を眺めながらぽつりと呟いた。

「友達とかと食べたりしないの?」と何気なく尋ねた。

「うん。ソフトクリームって意外と食べないんだよね~。かき氷なら去年の夏に食べたけど」

 はにかみながら渚は答える。

「そんなもんかぁ」

「久条くんは?」

 渚が晴太の方をじっと見る。晴太は一拍遅れて質問の意味を理解すると苦笑いをした。

「僕はまあ……友達もそんなにいないし……」

「引っ越してきてまだ一年だもんね」

「いや、もともとそんなに多い方じゃなかったよ」

 そこで晴太はふと雨音の顔を思い浮かべる。肩書きは彼女。友達といえば友達かも知れないし、他人かと聞かれればそうだとも言える。だが、こういう時にふと思い出すということは、自分の心のどこかしらには確かに彼女がいるということだろうか。

「あのさ、久条くん」

 渚はじっと晴太の方を見る。つられて晴太も渚の方を見る。

「なに?」

「あたしが友達になってあげようか!」

「…………」

「…………」

 今度は三拍ほど間を置いて、ようやく晴太は言葉を発した。

「…………ん?」

「あっ、そのっ!!嫌なら別にっ……」

「え?えっと……友達?に、なってくれるの?」

 突然の申し出、その意味を掴めないまま晴太は尋ねる。渚は大きく目を開いたまま大きく一度頷く。その間も晴太の脳は高速回転で結論を導き出そうとするが、疑問符が浮かぶばかりだった。

「あー…………よろしく」

 何が何だか分からない、ふわふわした状態で晴太は答える。すると渚の表情が徐々にほころんでいく。

「じゃあ、今日から友達ね!」

「う、うん。友達」

 別に、今までに一人も友達がいなかったわけではない。だがこんな形で友達が出来たのは初めてである。はて、自分は今までどんな風に友達を作っていただろうかと、まだ少し混乱している晴太の隣で冷静な晴太がそんなことを考える。

「友達には何でも相談していいんだからね?」

 ふいに渚が晴太の顔を覗き込んで言った。

「相談?勉強とか?」

「いや、もっとあるでしょ。ほら……色々とさ」

 渚は何か言いたげだったが、晴太はよく分からないと首をかしげる。渚は「まあ、何もないならいいけど……」とそれ以上は言わなかった。と、その時晴太の視界に何か白いものが映り込む。左手に持っていた、バニラ味のソフトクリームだ。つい会話に夢中になって忘れていた。日が落ち始めて多少は涼しくなったとはいえ、ずっと握っていたため溶けてしまったのではないかと晴太は慌てたが、ソフトクリームはもらったときのまま、全く溶けていなかった。

「ああ、それね、溶けないの」

 晴太の視線で気がついたのか、渚が答えた。

「溶けないの?」

「そ。そういう魔法が掛けてあるんだって」

 それを聞いて晴太はなるほどと感心する。よく見ると囓った表面の部分はうっすら溶けかかっているので、溶けずにかつ冷たすぎない絶妙な温度設定がなされているのだろう。

「でもどうやって魔法を掛け続けて…………あっ、もしかしてコーンに術式が刻まれてるとか?なんか妙にコーンがひんやりするなぁって思ってたんだ」

 魔方陣には大きく分けて二つある。一つは術者本人が魔力を供給するものもの。もう一つは魔力をストックする術式を書き込むもの。後者の場合、一度書いてしまえば術者がそばにいなくても、込めた魔力が切れるまでは自動で魔法を発動し続けることが出来る。だが、このやり方にはいくつか問題点がある。まず、魔方陣の制御は非常に難しい。効果にもよるが基本的に魔方陣は難解である。書くのも解くのも難しい。加えて使い方次第ではいくらでも悪用できてしまうので、その使用、特に設置や解除に関しては高難度の資格が必要になる。

「その技術をソフトクリームに使うとは……」

 晴太は感嘆し、一口それを囓る。時間的にそろそろドロドロになっていてもいい頃合いだが、ソフトクリームはまだひんやりと冷たく、溶ける気配はなかった。

「あたしからすれば、術式に気がつく久条くんも十分凄いけど」

「そうかな?」

「うん、だって魔法も使えないのに……あっ」

 思わずこぼれた言葉に渚ははっとする。

「あたし今失礼なこと、ごめんっ!」

 慌てて謝る渚を、晴太は「大丈夫だよ」となだめる。言葉だけ見れば確かに棘のあるものだが、そういうつもりで言ったわけじゃないことぐらい分かる。

「友達だからね」

 晴太は少し茶化して付け加えた。渚は一瞬驚いたような顔になり、そして笑った。

「そっか……そうだね」


 ここまで読んでくださりありがとうございます。申し訳程度の魔法要素。

 なぜ魔法という設定を加えたのか、疑問に思う方もいると思います。僕も疑問に思います。実際何で魔法の存在する世界にしたのかよく覚えていないんですが、おそらく現実とは違う世界にしたかったんだと思います。その時はまだ小説を書くことに慣れてなくて、魔法の世界にしないと百パーセントの雨女と晴れ男という設定が浮くと思ったんだと思います。それともう一つ、この世界に、当たり前に魔法が存在するという妄想を形にしたかった、というのもあります。本屋の分厚い図鑑とかが並んでいる棚が魔導書の棚に見えたり、雑貨屋が魔導具屋に見えたり、そういう妄想を形にしたかったんでしょうね。知らんけど。

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