(22)何も書かなかった渚、余裕の雨音、骨拾ってあげますねの水
【前回】
いよいよ試験当日。登校中、雨音に会って少し緊張気味の晴太。教室に入ると隣の席から海守渚が話しかけてくる。どうやら消しゴムを忘れてしまったようなので、晴太は例のいがぐり消しゴムを貸してあげる。
チャイムが鳴って教室全体に満ちていた緊張がふっと解ける。晴太は一つため息をついてペンを置いた。まずまずといったところか。雨音との勝負科目である魔法倫理は重点的に勉強したこともあり、かなり埋まった。しかし問題は雨音が何点取ってくるのかだ。
今日はホームルームもないので、生徒はこのまま帰宅となる。早々と教室を出る者、早速答え合わせをする者。ざわつく教室、しかし試験前とは違い空気が軽く感じた。
「難しかったね~」
隣から渚が話しかけてくる。大きく伸びをしながら、彼女はどこかほっとしたように笑っていた。
「そうだね」
晴太は調子を合わせる。
「まさかあそこで計算問題が出るとは思わなかった」
「そう!それ!あれ解けた?」
直前に行われていた科目、生物では基本的に暗記問題か記述問題が主流だが、今回は応用として計算問題も出されていた。
「一応それっぽい数字は出たけど……、自信はないかな」
晴太がそう答えると渚はびっくりしたように頷いた。
「答え出したんだ!やっぱり久条くんは頭いいなぁ~。あたしなんか何も書かずに出しちゃったよ……」
少ししょんぼりとする渚に苦笑いを返す晴太。昔から勉強が得意だった晴太はよく人から『頭がいい』と言われた。もちろん嬉しくないわけではないが、まあ複雑な気持ちだった。しかしここ最近はそういう類いを言われていないような気がした。理由は分かっている。
「その様子だと、試験は中々上手くいったようね」
その声に晴太と渚は同時に振り返る。すまし顔の雨音がいた。おそらく雨音より頭のいい生徒はこの学年、いや、この学校でもほとんどいないだろう。ここ最近は雨音といることが多かったので、晴太はどちらかと言えば頭が悪い方でいることが多かったというわけだ。
「あら?もしかして、邪魔してしまったかしら?」
そこで雨音は渚の存在に気付いてようだ。しかし渚は慌てて顔の前で手を振る。
「あ、いえ!じゃあ、あたしもう行かなきゃ、じゃあね!久条くん!」
「あ、うん。じゃあね」
駆け足で教室を出て行く渚の背中を見送って、晴太は雨音の方に向き直る。雨音はじっと晴太の顔を見据えていた。
「えーっと……」
「仲良しなのね」
「え?いや、まあ……。仲良しってわけでもないんだけど……」
仲良しというわけでもないのは事実だった。とはいえ、一応は彼女である雨音に見せるシーンでもなかったか。晴太は少し焦ったが、雨音は特に気にしていない風に言った。
「仲がいいのはいいことよ」
「そうなの?」
「そうよ」
それから晴太と雨音は図書室へ向かった。もちろん明日からの科目の勉強をするためだ。図書室に向かう道すがら、晴太は雨音に魔法理論の出来を尋ねてみたが、雨音は「まあまあよ」と明言を避けた。だが晴太には雨音が今回の試験に関して自信があるらしいことが何となく分かった。しかし試験が終わった今となってはどうすることも出来ない。おとなしく残りの科目をこなし、結果を待つだけである。
その帰り。
「晴太先輩!」
名前を呼ばれて振り返る。だが、晴太のことをそんな風に呼ぶ人間など一人しかいない。
「水、どうしたの?」
「いえ、どうしたというわけでもないのですが。たまたま先輩の姿をお見かけしたので声を掛けさせていただいた次第です」
水はニコニコと答える。そういえば雨音はあのロープの結び方のことを水に言ったのだろうか。まあ、雨音のことだから言っていないのだろうが。なんなら代わりに言ってしまおうか。と、思ったが晴太はやめておいた。そこまで干渉するのもどうかと思ったからだ。
「時に先輩。あなた、雨音先輩とテストで勝負してるらしいじゃないですか」
今回の勝負の事を知っているのは晴太と雨音だけなので、きっと雨音が話したんだろう。晴太が頷くと水は呆れようにやれやれと首を振る。
「また無謀な勝負を受けたものですね」
「分かってるよ」
「いや、晴太先輩は分かってません。今まで一体何人の人たちがそう言って敗れてきたか……」
水は真剣な顔で頷く。雨音のことだ、これまでもそういった勝負を持ちかけられてきたのだろう。そしてそれらを見事打ち破ってきたのだろう。今回は雨音の方から勝負を持ちかけてきたことになるが。水はその時のことを思い出すように遠くを見ると続けた。
「そりゃあもう完膚なきまでにボッコボコでしたね。そのうち何人かは屍になりました……」
「それは大袈裟でしょ」
晴太がそう言うと水はてへへと頭をかいた。
「まあそうですね。しかし、雨音先輩がすごいのは事実ですよ。さすがに屍になった人はいませんが、ショックのあまり成績がガタ落ちした人ならいましたね」
ショックで成績が落ちるとは一体どういうことだろうか。考えられるとすれば、圧倒的な実力差を見せつけられ自信をなくしてしまった、と言うと所だが、だとすれば相当な点数を雨音は叩き出したことになる。
「晴太先輩、あなたやばいですよ?」
「やばいのかな……?」
「骨……拾ってあげますね」
「怖いこと言うなよ!?」
ありがとうございます。
なんか最近、目が慣れてきたのか詰めて書いても見にくくないんですよね。でもこの作品は改行過多で書き始めてしまったので、このままそのスタイルで書かせていただきます。
またしばらく更新が途絶えますが、なんとか最後まで書き切りたい……。




