(21)初日の話
【前回】
妹の夏希にいがぐり型の消しゴムをもらった晴太。めちゃめちゃ使いにくそう。
駅から学校までも道のり。数日ぶりに晴れた空を見て晴太は深く息を吸って吐いた。晴れた、とはいっても晴太が今日を楽しみにしていたわけではない。ただ、雨ではなかったと言うことは、雨音も今日を楽しみにはしていなかったということだ。
「おはよう、晴太くん」
後ろから晴太を見つけたらしい雨音が、そう声を掛けながら晴太の横に並んだ。
「おはよう、雨音」
「あら、何だか余裕がありそうね。結果が楽しみだわ」
雨音は挑戦的な目で晴太を見る。
「いや、そんな事もないけど……」
とはいえ、昨日思ったよりも勉強がはかどったため不安が少なくなったのも事実だった。雨音と並んで歩きながら、晴太は空に目を向ける。
「てっきり大雨が降るんじゃないかと思ったけど……もしかして雨音、緊張してる?」
「…………悪い?」
雨音の鋭い視線が貫き、晴太は思わず目をそらした。
「いやっ、悪くはないけど……。ただ、雨音でも試験は緊張するんだなぁって」
「私だって緊張ぐらいするわ」
そう言うと雨音は「じゃあ、私は急ぐから」と学校の方へ駆けていった。雨音は自他共に認める秀才である。だからこそ周囲から期待されるし、彼女自身もそれを分かっている。秀才ゆえに自信家ではあるが、同時にそのような重圧も背負っているのだろう。つくづく大変そうだと晴太は思った。が、人のことばかりも考えてはいられない。かくいう晴太自身も成績上位者だし、何より今日は雨音との勝負科目である魔法理論の試験がある。そう思うと晴太の心臓はドクドクと高鳴り始めた。
教室に入ると心なしかいつもよりざわついているように感じた。だが、聞こえてくる会話は試験に関することばかりだった。ある者は一人で教科書を眺め、またある者は友人と問題を出し合っている。晴太はあたりを見渡すと、いつもの席ではなく試験の時と席に鞄を置いた。
「おはよう、久条くん」
「あ……おはよう」
隣の席、海守渚に話しかけられて晴太は返事をする。彼女とは特に仲がいいわけではないのだが、進級して初めての席で隣同士だったこともあり、時たまこうして話しかけてくれるのだ。晴太は鞄から筆箱と授業のノートを出しながら横目で渚の姿を見る。どちらかと言えばおとなしいタイプだが、ぱっちりとした大きな目で可愛らしい顔立ちの彼女は密かに男子から人気がある。そのため晴太も、渚に話しかけられる時はいつも、若干緊張気味だった。
「あっ……」
何やら筆箱を開いて焦りの色を浮かべる青葉。
「どうしたの?」
「消しゴム忘れちゃった……。久条くん、二個持ってたりしないよね……?」
「ああ~、僕も一つしか持ってないなぁ……」
と、言いかけて晴太は思い出した。今日持ってきた消しゴムは夏希に貰ったあのいがぐり消しゴムだ。確かあれは、トゲトゲした消しゴムの中に栗の実をかたどった消しゴムが四つほど入っていたはずだ。
「いや、持ってるかも」
そう言って晴太は鞄の中をあさる。筆箱の中にはない。大きすぎて筆箱に入らなかったのだ。
「あった」
「…………?」
鞄から出てきたトゲトゲした物体を見て渚は首をかしげる。当然だ、普通に鞄から出てくるような物じゃない。晴太はその消しゴムをクルクルと眺め、通央付近に走るスジを見つけるとそこから半分に割った。
「割れた……あれ?これってもしかして……栗?」
中身を見て渚も気付いたようだ。晴太は頷いて栗の実を一つ渚に渡す。
「これ、使っていいよ」
「え、あ、ありがとう……」
そう礼を言った渚は、今ひとつ状況が飲み込めていない様子だった。
ありがとうございます。
最近集中力が散漫で、なかなか執筆が進まないのでこの辺はかなり細かく刻んで投稿しています。夜寝付けなくて遅くまで起きてるので本当は夜書きたいんですが、頭がぼーっとしてなんか手に付かなくて。睡眠の質が悪いのだろうか…………。




