文化祭四日目その3
梨乃のクラスはとてもにぎわっていた。
クラス内には紅茶の香りに加えて洋菓子の香りが満ちており、メイドが動き回っていた。
「忙しそうだな」
「やっぱりこの時間帯は忙しいんだねー。よかった、この時間避けといて」
まさか梨乃は忙しい時間帯をあらかじめ予想してそれを避けたというのか?もしかして梨乃っておバカキャラじゃないのか?
「まぁ昼は忙しくなって当たり前だしな、それが賢明だろうな」
「ね。それで、この後どうする?」
「そうだな、クノアが出るし早めにスキンコンテストの場所取りにでも行っとくか?特にやりたいこととかないし」
もし梨乃に行きたいところがなければ、だけど。
「それじゃあそうしよっか。私も特にないし」
その後もスキンコンテストの話で時間を潰し、クラスを出た。
「こことかどう?」
場所は体育館2階。この体育館は大きいが2階には十分な広さはなく、舞台を照らす照明以外は人が2人すれ違うのがやっとな幅の足場しかない。
「うん、いいと思う!ここならクノアちゃんの姿ちゃんと見えるもんね」
ちらちらと人が集まり始めている体育館は、少しずつ賑やかになっていく。
「そういえば今回の参加者って最終的に7人になったらしいぞ」
「最終的にってことは本当はもっと多かったのか?」
「あぁそうだ。受付した人は20人くらいいたそうなんだが緊張とかなんとかで減ったらしい」
「「へぇー」」
まぁ全校生徒に見られるのとその中で順位付けられるなんて相当なプレッシャーだろうしな。むしろ応募できたこと自体がすごいと思う。
適当な会話で時間をコスプレコンテストまで時間を潰すといつの間にか体育館は賑やかになっていた。
マイクを入れる音が聞こえると生徒会長が舞台上に出てくる。
「みんな、盛り上がってる??」
『いえええええええええい!!』
「それじゃあ、第1回コスプレコンテスト、開催します!」
『いえええええええええい!!』
参加者が1人ずつ舞台に出てきて少しアピールをして袖に避ける。
その間に司会が紹介をする。
スムーズな進行もあってか7人だとすぐに紹介は終わってしまった。
『では7人全員、舞台に並んでください』
ここからは投票タイムだ。観客は1人1票、自分がいいと思った人に投票する。
今回は生徒会の投票はなく、観客のみの投票で全てが決まる。
またこの間に参加者には1人2分ずつ衣装の説明などをしてもいい時間が与えられる。
観客は見た目のみで判断してもいいし、参加者の話を聞いてから決めてもいい。
「クノアは魔女だったな」
「うん!すっごく可愛かったね!それにしてもみんなクオリティ高いね。誰が優勝してもおかしくないよ」
「ほんとにな。俺もここまでだとは思ってなかったぞ。正直予想外だわ」
悠斗の発言に相槌をうつと
「俺は投票しに行くけどどうする?」
「俺はまだいい。全員のを聞いてから出すわ。まぁ多分クノアに入れるだろうけどな」
「私も。せっかくだからね」
「おっけー。じゃあ俺は先に出しに行くわ」
「後夜祭までにはちゃんと戻ってこいよ」
「任せとけ」
手を軽く上げるとそのまま投票場所まで歩く。
投票は生徒会が仕切っており、投票締切から15分後に発表ということもあってか随分と忙しそうにしている。
「あら、随分早いのね。それとももう決めてたの?」
声をかけてきたのは菫だった。
「生徒会が忙しそうなのに菫さんがゆっくりしてるなんて珍しい」
「まぁね。設定とかいろいろ準備をしたら、この子達が投票くらいは私たちがやるんで会長はゆっくりしてくださいってさ。私たちのやることを無くさないでとまで言われちゃったわ」
嬉しさのあまりか、見たことない照れた顔をしていた。
「それで、投票の紙は?」
「あぁそうそう。はいこれ」
そう言うと紙を渡そうとする。
「投票は箱にやって欲しいんだけどなぁ」
「暇そうな生徒会長さんに仕事を与えてあげたんだよ」
「まったく。それじゃあもらってあげるわ」
「じゃあ俺はこれで」
紙を渡すと体育館から出ていく。
菫は紙を開いて確認する。
微笑むと紙を閉じてポケットにいれる。
「まぁ、そんなことだろうとは思ったけど」
紙には、何も書かれていなかった。
「おめでとう、クノア。それと…ありがとう」
「いえ、緋音さんに頼まれた時は少し戸惑いましたが正直楽しかったですわ。緊張もしましたが…」
「そう言ってもらえるとすごく助かる。ほんとにありがとう」
クノアは立ち上がると緋音に鍵を渡す。
「じゃあ私は先に出とくね。一緒だと変だしね」
「そうですわね」
「ほんと、ありがとね」
静かに控え室から出ると、緋音は非常口から出ていった。
「「クノア(ちゃん)おめでとう!!」」
悠斗と梨乃が合わせて言う。
体育館から出てきたクノアは目を丸くしている。
「いやぁ、すごく良かったぞ」
「うん!本当にかわいかったよ!」
「ありがとうございます。そういえば他の人は今日は一緒ではないんですね」
「そうだな。雪人と鶴海は全く分からないが皐月なら今は自分のクラスにいるはずだぞ」
「そうだね。皐月ちゃんは文化祭では大忙しだしね。メイドさんとしてすごく頑張ってるらしいよ」
何故か梨乃が誇らしそうにしているが梨乃には全く関係のないことだった。
「まぁとりあえずおつかれ。残りの時間、俺らと見て回らないか?」
「そうですわね。そうさせていただきますわ」
夕陽が綺麗に見える頃、校内は後夜祭の準備で賑わっていた。
校舎内は十八時半から立ち入り禁止になるため、校舎内には荷物をまとめている人がほとんどである、が、それには当てはまらない人が少なくとも二人いた。
屋上に二人、緋音と皐月だ。
「話って、どうしたの?」
「ごめんね、いきなりだったね。でもどうしても今じゃないと駄目なんだ」
「全然大丈夫よ」
「とりあえず今日1日お疲れ様。すごい働き様だったよ」
「ありがと。ま、準備は楽させてもらったしね」
「そっか…」
少しの間、静寂があたりを満たす。
「それで…話って?」
静寂を破ったのは皐月だった。
「うん。この前さ、応援するって言ったでしょ?」
「うん」
「雪人君と付き合うつもりもないって言ったでしょ?」
「うん」
「でもね…最近分からないんだ、自分が。雪人君と話してると楽しい。普段よりも気持ちが高くなる。
…雪人君が他の女の子の話をしてると…嫉妬しちゃうの。多分ね……私も好きになったんだ。好きに…なっちゃったんだ」
初めは目を丸くした皐月も、静かに、真剣に向き合う。
「だからね…もう、素直には皐月を応援することはできないよ」
言い切ったあともしっかりと皐月を見続ける緋音の手は固く握られていた。
しばらくの静寂の後、皐月が切り出した。
「そっか。緋音も、か。……いやぁ、こうも強敵が増えるなんてね…」
「ちなみにさ、どこを好きになったの?」
「…そうだね、優しい…いや、違うかな。変なこと言うかもしれないけど、笑わないでね」
「うん」
「…ふぅ。……話してて楽しいところ。誰に対しても対等なところ。そして何より、気をつかってくれたりするときに"本当の意味で"優しいところ、かな」
"本当の意味で"優しい
その言葉を聞いた皐月は思わず笑みがこぼれた。
「まさかなぁ…緋音ってすごいなぁ。参っちゃうな」
緋音は首を傾げる。
「いや、何でもない」
「そっか…。でね、応援できないって言ったけど、この前のお詫びだけはしないとと思って」
「ふふっ…どこまで律儀なのよ。で、これは何?」
皐月は手渡された鍵を見て言う。
「教室の鍵。コンテスト優勝の景品」
「え…でもこれ…」
「クノアにもらった……いや、違うかな。とってもらった、の方が正しいかな。私が無理言ってコンテストに出てもらった。この鍵の使い道…皐月なら分かるよね?」
「わか…るけど、でも…」
「優しいね、皐月は。これから私、性格悪いこと言うね」
皐月が少し困惑する。
「ふぅ…この鍵は皐月の自由に使っていい。その間、私は皐月を応援する。何がなんでも応援する。でも……明日になったら、皐月は………」
「…ライバルになる」
1度詰まった言葉を言い切ると緋音は校舎内へと走って消えた。
お久しぶりです。cieraです。
前回の投稿がかなり前なので覚えてすらないと思いますが投稿しました。
自分のやりたいようにこれからも書いていこうと思います。
更新頻度は未定ですが、モチベがあるときはある程度早いです。
ちなみに今はあるときです。
ただ、決まった時間に投稿とかではないので、続きが気になる方はブックマーク等で更新が気づけるようにして頂けると幸いです。
ではまた次回でお会いしましょう。




