お嬢様の裏仕事~恋のお悩み解決します!~
執事×お嬢様×ロンドン×裏の顔
ツイッタでいつぞやのタグが元ネタです。長編書きたいです。
タイトルは仮のものです。
******
十九世紀、英国、ロンドンの社交界には奇妙な噂がある。
いわく、さる美貌の執事と言葉を交わすことが出来れば、恋の悩みが解決する。
嘘か真か。何であれ、面白半分に近づく者。真面目に悩みを抱える者。浮気調査を依頼するという方向違いの者。崖っぷちに立てば、藁にもすがる思いでそんな変な噂でも頼る者はいつの世も少なからずいる。
「――お嬢様、私は決してそんなボランティア活動よろしく、皆様のお話をお聞きしているわけではございません」
燕尾服に黒髪の青年は、縁のない眼鏡の端を指であげ、位置を直しながらきっぱりと否定した。
暖炉には火が入っており、時折パチパチと音を立てる。並ぶ調度品は全て最高級で揃え、暖炉の前のソファは柔らかく肌触りが良いものだ。
「あら、わたしは聞いたままをあなたに伝えただけよ、アーサー。あなた、先日の夜会は行かなかったものね」
「……確かに先日、お屋敷の事務が終わりませんで、別の者に供を任せましたが」
ソファに座る少女は水色のワンピースを着ているが、就寝前のひと時である。至って楽なものだが、その素材はやはり令嬢が着るに相応しいものだ。
少女は開いていた本を閉じ、膝の上へ置いた。
シエナ=マクディーン。代々伯爵位を継ぐマクディーン家きっての才女にして、正式なひとり娘。両親が亡くなり数年経った現在は、シエナが伯爵の位と資産を継ぎ、社交界では注目を浴びる令嬢のひとりでもある。
「残念ねぇ、あなたの好みに合いそうな子がいたの。知ってる? ケイティ=ボネット。最近、自動車の生産で成功したボネット家の次女で、婚約者もいないって」
「お嬢様! 私をだれだとお思いですか! このアーサー=ライアンズ。お嬢様をおいて他の女性の元へいくなど! そもそも近頃のご令嬢はあまりにも教養がなさすぎるのです! この私の素晴らしいワルツを理解できないとは!」
「ああー……はいはい。わたしだって理解してないわよ。運命の女性探しもいいけど、あなたのトレーニングのために高いワインを無駄にしないでちょうだい」
「溢れんばかりの愛をただひとり大切な! そう、大切な! いいですか、もう一度言いますよ。大切な、私ひとりの女性に捧げることを日々夢に見ると言うのに!!」
大げさな身振り手振りに加え、言いよどむこともなくスラスラ語るそれは、細工師が丹精込めて造りあげた人形のような美貌を台無しにしている。そしてそれをアーサー自身は気がついていない。
そんな執事の様子にもシエナは慣れたもので、スッとソファから立つと傍で力説するアーサーへ視線を向けた。
視線が重なればアーサーは姿勢を正し、右手を左胸の少し上に当てる。
「さて、もう休むわ。……実は明日の夜会、そのケイティも行くらしいの。頼んだわよ、アーサー」
「――了解しました、我が主」
その執事のことは、何故かだれも語ろうとしない。顔を見たはずの依頼者もそろって口を噤む。
何故、そんなことをしているのか。本当にそんな執事がいるのかどうか。
さあ、今宵も始めましょう。
私たちが、心の奥に封印した恋を運命にしてさしあげます。
了




