森を彷徨う迷い子
※超SS、西洋FT、アリスの番外編的な感じ
世界の果ての北の森。
森を彷徨う迷い子が魔女と出会ったお話。ワンダーランドが出来るより、何百年も前の魔女と人間の物語。
「人の子を拾うなど、正気の沙汰ではない」
「……しかし、命は皆平等と常日頃仰るのは長ではありませんか」
鬱蒼と茂る木々の奥深く。ひっそりと生きる魔女の一族があった。
特別な力を持つリンゴを育て、魔法を学び研究し、ひたすら世界の森羅万象を探究する一族。そんな一族が住む森にどういうわけか人の子が迷い込んだ。人の子というよりも、青年だ。あちこち傷を負い、服も破れブーツも片方がなく素足、泥だらけで半ば意識を失いながら青年は歩いていた。
そこをリアが見つけたのだ。
「それとこれとは別じゃ! 良いか、リア。人間という生き物は我ら魔女と違い、醜く争い力を求め、果ては親兄弟までも亡き者にする。そのような醜き人の子、今すぐ捨てておいで!」
黒い外套で顔を隠した一族の長は、最高齢で一番の知識と教養を持った女性だ。魔法士として男もいるが、この一族においては女性優位が長年の慣習であった。
リアは長の家を女中達に腕を掴まれ、引きずられるようにして後にする。女中といっても、ボディガードも兼ねている彼女達だ。修行中の身であるリアが敵うはずもない。
「――待ってください! 皆がみんな、そうだとは――…!」
これ以上聞くことも言うこともないばかりに勢いよく扉が閉められた。外へと投げ出され、リアは尻餅をつく。
皆がみんな、そんな人ばかりではない。魔女も人間も。
「いたたた……。どうしてああなのかしら……」
「……――リア? また長の説得かい?」
聞こえた声にリアは顔を向けた。柔らかな日差しに伸びる影、見た目は魔女も人も変わらないのに、持つ気配が明らかに違う生き物だと告げるのだ。
声の主はリアが拾った青年、まだ包帯が取れない腕や足、痕が残っている頬。彼が負った怪我は、明らかに戦でのそれだった。
彼が手を差し伸べてくる。その手を取れば、リアと同じで温かい。
「ええ、せめてあなたがきちんと回復するまではと思って。ありがとう、ジャック」
「礼を言うのは私だよ。今まで何者とも関わりを持たなかった魔女の一族が、人間である私を助けてくれたのだから」
「でもきっと、長にも分かってもらうから」
リアは改めて長の家を見やった。ジャックの言うことに嘘はない。感謝してくれているのも分かる。だからこそ、長にも、他の皆に分かってほしいのだ。
人が、彼がこんなにも優しいことを。
森を彷徨った迷い子が国を統一する前の僅かな平穏な時。
人と魔女の物語はまだ始まったばかり。
了




