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猫はもぐもぐする 7




「こんにちは。リポーターの瀬戸(せと)(まもる)です。今日はこの街で長年親しまれているゲームセンターに訪れております」


 騒動が落ち着いてしばらくした頃、清正はローカル番組の取材を受けていた。


「実はこのゲームセンター少し変わったことをしているようで、店員の岡田くんにお話しを聞いていきたいと思います。おはようございます。」


「おはようございます」


 マイクを向けられた清正はやや緊張した面持ちで答える。

 実は、ゲームセンターで店長が常連たちのために始めたサービスの噂を聞いて、ローカル番組から取材の話が来たのだ。てっきり出演するのは店長だとばかり思っていたのに、普段ラジオ体操を担当している清正を指名してきた。

 もちろん、自分には絶対に無理だと最初は頑なに断っていた清正だったが、店長に「これもゲームセンターの宣伝だと思ってお願い」と頼まれ、常連たちからも清正と一緒でなければ自分たちも出ないと言われ、引き受けざるを得なかった。

 それに、この場所を思って常連たちが行動を起こしてくれた時、清正は実質的に何もしていない状態だった。常連たちが犯人探しの顛末を嬉々とした表情で話す姿を見て、そこに自分も加わりたかったという思いをこっそり抱いてしまったのだ。

 今度は自分も常連たちと一緒に何かをしたいという気持ちが湧いてきて、勇気を振り絞って今回の取材を受けることにしたのだった。


「平日の利用者にご年配の方が多いということで、ラジオ体操を取り入れているんですね?」


「はい。ゲームをしていると同じ姿勢で体が固くなってしまうという事で、店長が始めたそうです。僕もアルバイト初日の時は正直びっくりしましたが、今では皆さんと一緒に楽しく体操しています」


 さんざん練習はしてきたつもりだったが、やはり本番前になると比べものにならない緊張が込み上げてきて、お腹がキューッと痛くなったりした。

 しかし、いつものゲームセンターでいつもの常連たちに囲まれているおかげか、心臓がバクバクしながらもつっかえずに喋れている自分に密かに感動していた。


「健康的でいいですね。今日は僕も皆さんに交じって体操してみたいと思います」


「わかりました。それでは皆さんも準備いいですか?」


 清正がそう声を掛けると、常連たちから元気な返事が返ってきた。

 その声を合図に、清正はラジオ体操の曲のスイッチを入れた。




◇◆◇




 何事にも終わりというものは、いつかはやって来る。


 ローカル番組の取材が話題になり、少しの盛り上がりを見せたゲームセンターだったが、2年後ついに閉店することが決まった。

 この街の将来を考えた新たな再開発のプロジェクトに、相談役の伸子も賛同したのだ。


 2年前の騒動ではただ惜しんで嘆くことしか出来なかった清正だったが、今度は最終日まで精一杯働き続け、その最期をしっかりと見届けたのだった。

 ゲームセンターの常連たちともその日をもって解散した。


 無くなってしまうのはとても寂しい、けれど清正にとってこれは終わりではなく新たな旅立ちだった。

 あの時、常連たちが清正の居場所を守ってくれたことで、今度は自分が誰かの居場所になれるような場所を作っていきたい、そう思えるようになっていたのだった。



 ――そして現在。


「いらっしゃいませ」


「お、おう」


「こちらのテーブルにどうぞ」


 清正はどこか照れくさそうに店に入ってきた則忠をニコニコしながら出迎えると、このカフェで一番人気のテラス席へ案内した。


 あれから数年後、ゲームセンターの跡地にできた商業施設内のカフェで、清正は正式なスタッフとして働くことになった。

 実は閉店が決まった際に、伸子から声を掛けられていたのだ。その時に清正は伸子に「今度は自分が誰かの居場所になれるような場所を作っていきたい」という思いを語ったあと、「是非ともスタッフとして参加させてください」と頭を下げたのだった。

 そして新しいカフェが開業するまで、伸子が紹介してくれた店舗でノウハウを勉強しながら働いていたのだった。


「全然来てくれないので、心配してたんですよ」


 ゲームセンターが無くなって以来、かつての常連たちもあらたまって集うこともなく思い思いに過ごしていたが、久しぶりに伸子から清正がここで働くことが決まったと連絡があった。

 すると、まず最初に寛二が当時よりもさらに足元がおぼつかなくなったのか、それでも電動カートに乗って一番に駆け付けてくれたのだった。続いて、昌子や菱田夫妻といったかつての面々が清正の顔を見に来てくれて、再会を喜んでくれた。

 しかし、則忠だけがなかなか顔を見せに来てくれないので内心、心配していたのだ。


「いや、こんなこ洒落たカフェに俺みたいなのが来るのは、ちょっとな……」


「そんなことありませんよ。寛二さんはもう週3で通ってくれてますよ」


「あの人足悪いのに、そんなに来てんのか?」


「ええ。昌子さんや菱田さんご夫婦も週1くらいで顔を見せてくださって、タイミングよく会えた時は皆さんでお茶していますよ。あの頃みたいに」


 あのゲームセンターは跡形もなく無くなってしまったけれど、懐かしい光景はまた戻って来た。


「ノリさんも、また時々顔を見せに来てくれますよね?」


 清正がじーっと則忠の顔を見ながらそう言うと、彼はそっぽを向きながら、


「……ったくよ。俺らみたいな老人が入り浸ってちゃ、若い子が来なくなるだろうがよ……」

 

 則忠がいつぞや言っていたのと同じような言葉に、清正は接客中にも関わらず思わず吹き出してしまった。


「でも、まあ、仕方ねえなぁ。また兄ちゃんに寂しそうな顔されても困るからよ。たまには顔を出してやるよ」


 清正の笑い声に、やっと則忠も表情を崩してくれた。


「ありがとうございます」


 メニューを見ても何が何だか分からないと言った則忠に、笑いながら「おすすめを用意します」と一旦カウンターに戻ろうとした清正の耳に、遠くからゴトゴトと路面電車の走る音が聞こえてきた。

 清正は、ふと路面電車の中で出会った不思議な猫の事を思い出した。

 あのあと色々とあり過ぎて、すっかり忘れていた。


 時間の流れとともに、街並みもそこに暮らす人たちもいずれ変わっていくのかもしれない。


 それでも、清正が望んでいたものはちゃんとここに残っていた。


 変わってしまうのは寂しい、けれど形を変えながら繋がっていくものもあるのかもしれない。

 あの不思議な猫に出会った路面電車も、この街で今日も元気に走っている。




(=^・ω・^=) b!


お読みくださった皆さまに感謝です。

次話から新しいエピソードになります。

引き続き、最後まで見届けてもらえたら嬉しいです。



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― 新着の感想 ―
伸子さん、すごい方でした。 そして老年探偵団の連携で見事に事件を解決、とっても皆さんが生き生きしていましたね。 清正くんの優しさと皆さんの思いやりと団結力がみんなの居場所を守る結果になって、良かったで…
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