密林の死闘
「――撃ち方始め」
ヴァルターの冷徹な号令とともに、密林が閃光と轟音で埋め尽くされた。
三方向からの集中砲火。大口径の機甲機関銃から放たれる鉛の嵐が、容赦なく俺を肉塊に変えんと殺到する。
「……おおおおッ!」
俺はアイギスを盾のように構え、身体をめぐる魔力を全開にして斜め前へと突っ込んだ。
ガガガガガンッ!
分厚い大剣の装甲が火花を散らし、凄まじい衝撃が両腕の骨を軋ませる。
(重い……! だが、止まったら一瞬で蜂の巣だ!)
放熱フィンから魔力を瞬間噴射させ、弾幕の隙間を縫うように右手の機甲へ肉薄。
下からの斬り上げ一閃――!
ズドォォンッ!
『ぐわあっ!?』
一機の機甲の脚部フレームを叩き折り、体勢を崩したところを蹴り飛ばして盾にする。
直後、その機甲の背中に味方の機甲からの誤射が突き刺さる。
「これで一つ……!」
だが、息をつく暇もない。
頭上から、空気を切り裂く鋭利な高周波音が降り注いだ。
(上か――!?)
キンッ!!
直感を信じて跳び退いたコンマ数秒後、俺が立っていた地面をヴァルター機の魔導刀が両断し、巨大な地割れを作っていた。
「ほう……あの弾幕を抜け、一機を無力化しながら私の奇襲に反応するか」
立ち上がる土煙の中から、黄金のバイザーを光らせたヴァルターが静かに剣を構え直す。
その動きには一切の無駄がなく、機甲の重さを微塵も感じさせない。
「だが、呼吸が乱れているぞ。魔力光も、先ほどより細くなっている」
「えらいねぇ……よく見えてんじゃん!」
肩で息をしながら、俺はアイギスを構え直す。
図星だった。
トラックを逃がしてから、まだ五分も経っていない。
だが、生身の身体で『アイギス』という規格外の鉄塊を振り回し続ける代償は、確実に俺の肉体を削り取っていた。
指先が痺れ、視界の端がチカチカと明滅している。
(くそっ……15分どころか、10分すら保つかどうか怪しいぞ……!)
「なぜそこまでして戦う?」
残る機甲兵たちに牽制射撃を命じながら、ヴァルターが冷たく問いかけてくる。
「そのような化け物を生身で扱えば、いずれ神経が焼き切れて死に至る。王国の軍人でもない貴様が、命を投げ打ってまで時間を稼ぐ理由は何だ」
「理由ぅ……?」
迫り来る銃弾をアイギスの平で弾き飛ばしながら、俺はニヤリと笑ってみせた。
「あいにく、俺は昔から『目の前で壊れそうなもん』を放っておけない性分なんだよ! 機械も……人もな!」
「下らん感傷だ」
ヴァルターの機甲が地を蹴った。
速い。先ほどまでとは一段階ギアが上がっている。
ガギィィンッ! ドガァンッ!
一撃、二撃、三撃。
超高速の連続剣撃がアイギスの刀身を叩く。
受け止めるたびに、手のひらの皮が裂け、血がグリップを伝っていくのが分かった。
「く……っ、あぁぁぁッ!!」
四撃目――ヴァルターの強烈な横薙ぎを受け止めた瞬間、耐えきれず俺の身体が大きく吹き飛ばされた。
背中から大木に叩きつけられ、口から肺の空気がすべて吐き出される。
「ゴホッ……! げほっ……!」
地面に転がり落ちるアイギス。
立ち上がろうとするが、両足が生まれたての小鹿のようにガクガクと震えて力が入らない。
体内の魔力残量は、もう底を突こうとしていた。
「終わりだ、『鉄塊の魔女』」
冷酷な宣告とともに、ヴァルター機の巨大な影が俺を見下ろす。
その魔導刀の切っ先が、青黒い高圧魔力を宿しながら、ゆっくりと頭上高く掲げられた――。




